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ToHeart and Kanon CrossOver Story



Schnee Traum


第一話 1月16日

by あるごる


 き〜んこ〜んか〜んこ〜ん。
 …ようやっと1時間目終了か。
 あと2時間で、うれしい休日がオレを待ってるぜ。
 休み明けテストもぎりぎりでクリアしたしな。
 もう少しすれば学年末テストがやってくるから、遊んでられるのは今のうちだけだ。
 来年の今ごろ、オレはどーしてんだろうな。
 先輩の予言通りなら来年の今ごろはセンター真っ最中だろうな。いや、先輩みたいに私大推薦ってのもいいかも。
 ……柄じゃねーな。まだ300日以上先の話だ。やめやめ、寝よ。
「大変大変! ちょっとヒロいる?」
 眠りの世界に向かったオレを連れ戻しに、やかましい悪党がやってきた。
「ヒロッ! ちょっときなさい!」
 たっく、うるせえなぁ。
「オレの眠りを邪魔すんな。歩く東スポは冬はネタ切れなんだろ、無理すんじゃねーよ」
「お、長岡、今日はどんなネタを仕入れてきたんだ?」
 声を聞きつけ、あっという間にガセネタの購読者が志保に群がり出す。もはや教祖だ。
「ちょっと今日は悪いけどおやすみ、ヒロ、ちょっとこっちへきなさいっ!」
 ずかずかとオレのところまで来るなり、志保はオレを廊下に引きずり出した。なんだってんだ全く。
 
 
§
 
 
 冬の廊下は、教室とはうってかわって極寒地獄だ。じっとしてると骨まで凍る。
「こんなとこに呼び出して、なんの用だ?」
「し〜っ……あんた、姫川琴音ちゃん、家にかくまってない?」
「は?」
 開口一番、なんてことを言い出しやがるんだこいつは。
「いいかげん見境なく手を出す癖はやめなさい。それも年下に」
「ちょっと待て、ガセネタにもほどがあるぞ。いーかげんにしろってんだ」
 確認に来たのがせめて不幸中の幸いというやつだ。
 …待て?
 なんで、確認に来たんだ?
 いつもならばら撒いてから確認、いやこいつに限ってはそんなこと絶対にしやしない。
「ほんとのほんとに、知らないのね」
「ああ。どうした、琴音ちゃんに何があったんだ?」
「彼女、失踪したのよ」
「なにいっ!?」
 ま、マジか!? 
 あの超能力の一件が終わったあと、だいぶ琴音ちゃんとは関係が薄くなったけど、一体何があったんだ!
「3日前から、無断欠席してるらしいの。今日もいなかったわ」
「なんだそーいうことかよ、風邪だろ、カゼ」
 ビビらせやがって。
 内心、かなり胸をなでおろしたけどな。たっくコイツにかかると、どんな話も3倍になって出力されるな。
「驚かせんなよ、またあの時みたいなことになったかと…」
 だが、志保の目つきは和らぐところか、厳しさを増していた。
「あのおとなしい優等生タイプの姫川さんが、何の連絡もなしに3日も欠席すると思う? 例の超能力もおさまって友達も出来て、どこに学校を休む原因があるわけ?」
 ……確かに琴音ちゃんが無断欠席するなんてちょっと考えにくいな。
 友達、もしくはオレに何か言ってるんじゃないかとこいつが考えてもおかしくない。
「しかも親が何も言わないのよ、どゆこと?」
「おい、今なんつった」
「だ〜からっ、風邪なら風邪って本人か親が連絡するでしょ。今日まで担任はおろか学校にも電話一本入ってないらしいのよ。完全な無断欠席」
「……!」
 ようやっと、オレにも事態の深刻さが飲み込めた。
「琴音ちゃんの両親は共働きだ。おまけに、帰ってこない日も多いって言ってた。知らない可能性が高い」
「マジ?」
「琴音ちゃんが一週間欠席してたときも、全く事情はつかんでなかった…」
 志保が、ゴクリと息を呑む。
「……わりぃ、今日は早退だ。探しに行く」
「待ってヒロ。あたしも協力するわ」
 軽くうなずくと、オレは教室へ鞄を取りに走った。
 
 
 
 真っ先にオレは、あのときと同じように公園を探した。
 商店街、駅、オレ達は考えうる場所を探し回った。
 放課後になって出てきた雅史、あかりも加わって日暮れまで探し回った。
 だが、琴音ちゃんの姿はどこにもなかった…。
 
 
§
 
 
「何か連絡が来たら即知らせる…今日は解散だ」
 3人が疲れきった顔でうなずき、無言でめいめいの家へ向かっていった。
 オレも暮れ行く陽の中を帰る。
 …どうしたんだよ、琴音ちゃん。
 もう、超能力(ちから)は克服したんだろ?
 友達だって出来たんだよな?
 もう大丈夫じゃ、なかったのかよ?
「どうして、一言オレに相談してくれなかったんだよ……」
 そうこう考えてるうちに家に帰りついた。惰性で郵便受けを開ける。
 どさどさどさ…
 1日ぶりに開けた箱からは、ダイレクトメールの山が吐き出された。
「…?」
 雪に散らばったチラシの中に、白い封筒がはいってるのを見つけた。慌てて拾い上げる。
 …差出人は書いていない。しかし裏の封を見た瞬間、オレにはわかった。
「イルカのシール……琴音ちゃん!」
 オレはかじかんだ手で、しくじりながらその場で封を切った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 少しの間、北に行こうと思います。別に自殺しに行くわけじゃありませんから心配しないで下さい。
 きっとまた、戻ってきますから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 手紙の文はたったそれだけだった。
「……ということだ、志保、オレは琴音ちゃんを追っかける」
 約束通り、オレはまず志保に電話をいれた。
「ちょっと待ちなさいヒロ! あんたそれしか手がかり無いのに、当ても無く探し回ろうってわけ?」
 その言葉も一理ある。修学旅行のときにもあの広さは実感した。ましてや今度は全範囲だ。だが、
「無謀なのはわかってる。だけどじっとしてろってのか? 琴音ちゃんは暗にオレに追ってきてもらうことを願って…」
「わかってるわよ! でもものには段取りってもんがあんのよ。あんたまず琴音ちゃんの両親には連絡したの?」
「う……」
「もしかしたら行きそうなところをピックアップしてくれるかもしんないし、それを匂わせるような言動をしたかもしれないでしょ。も少し落ちついて考えなさいよ。…分かった? 連絡して何か仕入れたらまた電話して」
 
 
§
 
 
「おとといの朝、そういえばあの街の話をしてました…」
 オレは琴音ちゃんの家に急ぎ事情を説明した。
 両親があまりにも冷静だったことに、オレは苛立ちすら覚えた。
 遠くには行ってないだろうと思っているのか、
 それとも、怪現象を起こす疫病神を厄介払が出来たとでも思っているのだろうか?
 家族の話をしたときに見せた琴音ちゃんの作り笑顔がちらついて離れない。
 それでも手紙を見せると、琴音ちゃんの母さんはうろたえて、そんなことを呟いた。
「あの街?」
「この街に来る前、ある時期だけ函館以外の町にもいたんです。あの子は小さかったから、覚えていないと思っていたんですが…」
「どこなんです、教えてくださいっ!」
 
 
§
 
 
「…らしい、志保、ありがとな」
 オレは再び電話をかけた。今日だけは、素直に礼が口から出て来る。
「どうするの?」
「今日中にここを発って、その街に行くつもりだ。琴音ちゃんは、きっとそこにいる」
「一人で行く気? あたしも付れてってくれない?」
「ダメだ、頼むからここに残っといてくれ」
 オレは即座に断わった。
 邪険にしたわけじゃない。むしろ今の状態なら志保ほど頼れる奴はいねーだろう。だが、
「いざというとき、お前にはここでいろいろと調べてもらうかも知れないから。それに…」
「ぁ……分かったわ」
 何か反論しようとしたのを飲み込むように志保は答えた。そう、旅の障害を除くため、志保にしかできないことがある。
「あかりはあたしが押さえておくわ。行ってらっしゃいヒロ」
「あぁ」
「必ず琴音ちゃんを見つけ出して、そして必ず戻ってくるのよ」
「何だよ、その戦場に人を送り出すようなセリフは。相変わらず大げさ過ぎなんだよおめ―は」
 ようやっと志保らしい台詞が聞けたぜ。あんまり真面目モードが続くと、こっちの調子が狂っちまう。
「カンよ、カン……あんたは信じないでしょうけど、このヤマなんか嫌な予感がするのよ。さっきからしきりにやばそうだって訴えてる」
「………」
 いつもなら突っ込み返してやる場面だが、今日だけは志保に頭があがりそうもない。
「じゃぁ、な」
 オレは静かに受話器を置いた。
 最小限の荷物をトランクにつみこみ、考えうる限りの防寒をし、ためていたへそくりを全部引っつかんで、オレは空港へ足を向けた。
 時計は午後5時を指していた。
 一刻も早く、その街に行かなきゃな…。
 
 
 
 
 
 
§
 
 
 
 
 
 
「ばいばい、祐一さん」
 そう言って、少し恥ずかしそうに手を振った栞を見送り、歩き出した。
 ただ商店街を歩いただけだったのに、栞は終始楽しそうだった。
 それにしても、あのもぐらたたきには笑わせてもらった。あれはもはや芸術の域に達してる。
 次行くときは上手くなっていると言っていたが…
 (……絶対ないな。)
 思い出していると口元から緩んでくるので、意識的に顔を引き締める。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 寒いです。
 歩きなれない冬の街をさまよってしまったせいで、身体がふらふらします。
 そういえば、今日どこに泊まろうか、全く考えていませんでした。
 一人でいると、本当に自分が子供なんだと実感します。
 けど、こんな子供にも、不幸は容赦してくれませんでした…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ぐっ!?」
 突如、頭が鉛の様に重くなった。
 激しい耳鳴りがする。
 風邪や何かじゃない。頭の中から突き上げてくるような、体験したことのない異質な感覚だった。
 その場にうずくまりつつ、周りに助けを求める視線を送る。
 ところが、
 その症状は周囲の人間全てに現れているようだった。みな頭を抱えて座り込んでいる。
 夕暮れ迫る街。
 賑わう商店街。
 平和に暮れようとする1日の最後に、原因不明の病気が人々を襲っていた。
「………やめて…て……もう…」
 そんな中、俺の耳がかすれた懇願の声を拾った。目で必死にその声の出所を追う。
 
 
 
「おねがい…こんなところで…」
 頭を押さえ、何かを押さえつける様に、一人の少女が雪の上にしゃがみこんでいた。
「おい、大丈夫か!」
 頭痛を抑え駆け寄る。
 他の人間も辛そうだが、彼女は全く別格の痛みを有してるように見えた。
「ダメです、はなれて…わたしから…」
 だが少女は辛そうな表情とは正反対に、俺を必死に拒絶する。
 耳鳴りがさらに勢いを増した。
「ぐ……」
「はやく…はなれてくださいっ……」
「何がダメなんだ、おいっ」
 彼女に触れようとしたそのとき
「ぁあ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
 耳鳴りが最高潮に達し、
 パリン。
 ばりんばりんばりんばりんばりんっ!!
 彼女の叫びと共に、周りの店のショーウインドが雪崩をうって木っ端微塵になった。
 そのままこときれて、少女は雪の上に横たわった。
 ………。
 ………。
 ……。
「……」
 路面に崩れたまま、彼女はぴくりとも動かない。
「おい?」
「……」
 顔の前に手を当ててみる。とりあえず息はしているようだ。
「おいあんた、しっかりしろ!」
「……」
 俺が振るのに合わせて、首から上ががくがく揺れるけれど、自力で反応する気配はない。
「おい、おいっ!」
 俺は少女を抱き起こした。
 そこではじめて、気づいた。
 
 
 少女の髪の色は、紫色だった……。  
 
 
 人々は自分の身に起こった異常と、ショーウインドーが前触れなしに砕け散るという常識外れの惨事だけ気を取られているようだ。
 本来ならば警察に届け出なければいけない事態なのだろう。
 けれども俺は、彼女を背負って家に向かっていた。
 
 
§
 
 
「ただいま」
 とりあえず玄関からリビングに入ると、名雪が開口一番言った。
「わ、また大きいおでん種…」
「またお前はそれかっ!」
 俺が帰ったのを知り、秋子さんも入ってきた。
「またずいぶんと…」
「秋子さん、同じネタは三度までにしてください」
「……」
 ものすごく悲しそうだった。
「事情は後でゆっくり話します。とにかく彼女を二階で寝かせてあげてください」
 今回は俺が音頭を取った。何故なら彼女は旅行鞄を持っていたからだ。よもや、記憶喪失の身元不明人ではないだろう。
 そして、口にはしなかったが、
 おとついのあの夢が、どうしても片隅に引っかかっていた……。
「名雪、部屋借りるぞ」
 当たり前だが、この清純そうな少女を、傍若無人で危険な真琴の檻においておく道理はない。
「……これって、誘拐に近いんじゃないか」
 寒くないように布団をかぶせると、俺は部屋を後にした。
 
 
 
 
 
 
§
 
 
 
 
 
 
 
 人生2度目の飛行機は、遅すぎて気が狂いそうな乗り物だった。
 さっきまで見ていたくだらない映画も、もう目に入らない。
 窓の外に視線を移してみる。
 地面まで距離があるうえに夜のせいで、今どこにいるか全く分からなかった。
 琴音ちゃん、大丈夫だろうか。
 あまり子供扱いしたくないけど、今日泊まる場所は確保できたんだろうか。
 よもや良からぬ輩に引っ掛けられてることはないと思うけど……。
 ぞっ!
 そのとき、いきなりオレは背筋に寒気を覚えた。
 いや、この表現は正しくない。今のは『風邪を引いた』とか『虫の知らせ』系統の感覚じゃなかった。
 『違和感を感じた』
 これが適当だろう。
 その理由は空港のロビーを出た刹那に分かった。
「さみ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!!!! 寒い寒い寒い寒い寒い、寒いっっ!!」
 これじゃ学校の廊下だってパラダイスだぜ。予想していた寒さが全く相手になんねーぞ。
 寒気が厚手の防寒着を悠々と貫通してくる。サギみてーな寒さだ。
「これが、北の大地の真の姿か…」
 この中を捜すのはまともな人間のすることじゃない。琴音ちゃんもこんな中をさまよってるってことはないだろう。
 そう結論付けて、オレは凍死しないうちに宿を探すことにした。
 運良く旅館に滑り込むことができ、志保に連絡を取る。
 目的の街は、まだだ。
 明日一番に列車に乗ることを決意すると、オレは疲れですぐ眠りに落ちた。
 
 
 
 

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