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ToHeart and Kanon CrossOver Story



Schnee Traum


第四話 1月19日 前編

by あるごる


人…
 
 
自分を囲むように人が立って…
 
 
廊下で、自分の前方から歩いてくる人はいない
 
 
目に映る人全てに避けられつづけて
 
 
学校を足早に抜けて、誰もいない公園へ…
 
 
ずっとひとりで座って…
 
 
日が落ちるまで…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 カチッ!
 目覚し時計が『あ』を発しかけたところでスイッチを切った。
 眩しい光がカーテンの向こう側から差し込んで来る。今日もいい天気になりそうだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ……。
 わたしは目を覚ましました。
 いつもの朝なら寝ている間に溜まったチカラで身体が重いのに、今朝はまたそれが軽くなった気がします。
 今日も、夢。
 今日は、イルカが麦わら帽子を取ってくれたときの夢を見ました。
 本当に楽しい思い出。そのおかげで、わたしは今もイルカが好きなんです。
 そう、あのころは楽しかった。いつもママもパパも笑っていて。
 だから、悲しい。いつからあんな風になってしまったのだろう。
 思い出と今の両親とが上手く結びつかず、わたしはため息をつきました。
 
 
 
 
 
 
§
 
 
 
 
 
 
 朝食のテーブルには、今日も彼女、オレ、名雪の順でついた。
「なあ、ちょっといいか」
 俺はその席で早速、昨日から考えていたことを提案した。
「これから家で暮らすとき、呼び方を決めないと不便だろ……なんて呼べばいい? 俺は好きに呼んでもらって構わないけど」
「あ、年下ですから呼び捨てで『琴音』で構いませんよ。相沢さん」
「じゃ、いつまでか分からないけど、よろしくな琴音」
「それで今日は、どうするの琴音ちゃん」
「もう少し、この街を歩いてみます……不思議なんです。わたし、この街を知っているみたいなんです」
 
 
 
 3人で並んで通学する。
 歳は琴音が一つ下、しかも4日前に会ったばかりなのに、ずっと前からこれが普通であったように思える。
「今日は健康にいい登校が出来そうだ」
「どうして?」
「朝からマラソンをせずにすんでるからな」
「うー」
 実際琴音のおかげで今朝は早かった。おかげで、今日は午前授業で体操服を着込まなくていいのだと思い出した。
 それだけの理由でも、ずっといて欲しいと思ってしまう。
 だが早々簡単に神は、慈悲を与えてはくれなかった。
「あ、ねこさん…」
 この前の猫が、また塀の上に怠惰に乗っかっていた。
「うなぁ〜〜〜」
 相変わらずの可愛げのない様子に、即座にあの日の悪夢が蘇る。
「あ、かわいい……、おいで」
「にゃ〜ん」
「は?」
 驚愕して声の出所を見ると、琴音が嬉しそうに猫に呼びかけていた。
「ふにゃ〜」
 言葉がわかったかのように自分から歩み寄ってくる茶猫。手を伸ばした琴音に嬉しそうに抱き上げられる。
「まさか琴音も…猫好きなのか?」
 俺は迫り来る頭痛を押し殺して聞いた。
「はいっ!」
 今までで一番元気のいい返事が返ってきた。
「かわいいですよね、ねこって」
「ねこーねこー」
 当然、名雪の猫モードに灯が入る。
「……琴音、落ちついて聞いてくれ。その猫を持って、ここから全速力で逃げるんだ」
「はい?」
「ねこ〜ねこ〜」
 徐々ににじり寄る名雪。
「理由は聞くな。頼む」
「え? でも、かわいいですよ? ほら」
 琴音は野良猫に頬ずりまではじめた。
「ねこさんだよ〜〜」
 名雪はもはや壊れ加減だ。
 頼む、それ以上は勘弁してくれ。
「名雪さんも抱きませんか?」
 だが無慈悲にも琴音は、止めの一言を放った。
「ねこねこねこ〜〜」
 名雪の理性が吹き飛んだ。琴音ごとつかみそうな勢いで動き出す。
「待て名雪!」
 間一髪のところで俺は名雪の襟首をつかんだ。
「離して祐一っ、私は猫さんに頬擦りしたいのっ!」
「お前を連れて登校する俺の立場を考えろっ。学校中の笑い者にする気かっ!」
 俺は必死になって名雪を羽交い締めにした。にもかかわらず名雪と猫との距離はじりじりと縮まって行く。
 男一人が全力で抑えているのにもかかわらず、だ。
「……何やってんの?」
 気がつかなかったが、さっきから香里が一部始終を見学していたようだ。
「見れば分かるだろ、助けろ!」
 猫を抱えた少女に泣き叫んで近づこうとする少女と、羽交い締めにして止める男。
 一見して、何が起こっているのか見当も付くまい。
「しょうがないわね…名雪、行くわよ、ほら!」
 だが、付き合いの長い香里はさすがわきまえたと言ったところか。
「あ、あの…?」
「理由は帰ったらじっくり話す。何も見るな」
「うー、ねこーねこーねこー」
 完全に正気を失っている名雪を引きずって、俺達は学校に向かった。
 
 
§
 
 
「祐一、香里、大嫌い」
 学校に着いてからの名雪の機嫌は最悪だった。
「帰ってから好きなだけ抱けばいいだろ」
「……」
 机にうつぶせたまま、返事すらない。
「帰りに百花屋でイチゴサンデーおごるから、ね」
「……」
 香里の言葉にも、微動だになし。
「手がつけられないわ……」
「長い付き合いなんだろ、対処法はないのか?」
「今日のグレかたが今までで最悪だわ…」
 確かにイチゴサンデーで機嫌が直らないとなると、相当頭にきてるのは間違いない。
「それより、あの子、誰?」
「いや、ちょっと訳ありでな」
「あなた達の隠し子?」
「……冗談でも無理があり過ぎると思わないか?」
 最終的に名雪とは、俺がイチゴサンデー2杯、香里がAランチ二回おごりの条件で和平が成立した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 …どんっ!
 
「えぐっ…うっ…」
 
 
「と、とにかく場所を変えるぞ」
 
 
「…お母さん…うぐっ」 
「一体何があったんだ?」
 
 
 く〜
「なんだ、もしかして腹減ってるのか?」
 く〜 
「ほら、そういうときは素直に頷く」
 
 
「…あったかい…」
「たい焼きは、焼きたてが一番だからな」
 
 
「…しょっぱい」
「それは、涙の味だ」
「…でも…おいしい」
 
 
「……まって…」
「…やくそく」
「…ゆびきり」
 
 
「…うそつき」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ……。
「なんだったんだ…」
 完全に目覚めているはずだが、幻覚の中にいるような感覚でオレは目を覚ました。
 全く記憶にない夢だった。
 オレは子供のころの記憶に関しては、少しは自信があるつもりだ。だけど、あんな女の子にすがられた記憶はどう思い出しても見当たらない。
 第一、
「あの商店街は、この街の商店街じゃねーか?」
 …妄想、かな。
 だとしたら、今までで1、2を争う相当リアルな妄想だったな。
 
 
§
 
 
 今日も登校時間を避け、外へ出る。
 商店街に入ったところでダッフルコートを着た小柄な女の子の姿が映る。あゆだ。
「お〜い、あゆあゆ」
「あゆあゆじゃないもん」
 膨れっ面をしてあゆがこっちを振り向く。
 えっ?
 最近どこかで聞いたような、何か引っかかったようなもどかしさを、オレは感じた。
「ヒロくん?」
 今交わされた会話……『あゆあゆ』というフレーズか?
 あの夢のどこかに、出てきていたのかもしれない。
「ねぇ、ヒロくんてば」
「あ…あぁ、悪ぃ、ちょっと考え事してた」
 しかし、あゆに話題として振ろうにも、夢はあまりに断片的過ぎて説明しようがなかった。
 白いリボンをした女の子が泣きながらぶつかってきて、どこかでたい焼きを食べて、指切りをして、青い髪の女の子に文句言われる…
 登場人物が誰なのか、オレにはさっぱりわからない。
 
 
 
 
 
 
§
 
 
 
 
 
 
 わたしは、今日も当てもなく歩きます。
 今日は、昨日と反対方向に進む事にしました。
 さすがにこちらでは、何か思い出すような感覚に襲われる事はありませんでした。
 …………琴音、か。
 相沢さんにはそう呼んでくれるよう頼んだけれど、そう呼ぶのはパパとママしかいません。
 でも、相沢さんに『琴音ちゃん』と呼ばれるのは、怖い。
 そして、辛い。
 わたしはやっぱり、臆病なままです…。
 そうして歩いてくわたしの前方に、
「? ……!?」
 街中だというのに、きつねが、怪我したきつねがうずくまっていました。
 
 
 
 わたしは駆けより、膝の上に寝かせました。
 左足が何かに引かれたみたいです。
 声もあげず、ただ苦しみに耐えている顔でした。
 どうしよう。
 病院に連れていかないと。でも、どこに?
 初めて来たこの街。せっかく見つけることができて助けたくても、わたしには何も出来ない…。
「ごめんなさい……」
 泣きそう、胸が潰れそうです。
 そのとき、
 身体が、
 続いて手が、かっと熱くなり、
 最後に、チカラを使ったときのような痛みが頭に走りました。
「……っ」
 頭を押さえて、わたしは辺りを見回しました。
 
 ………彼の傷が、治っていました。
 
 
 
 
 ――超能力ってのは、上達すると傷が治せるんだってな、ヒーリングって
 
 
 
 
 昔の藤田さんの台詞が、わたしの中で蘇りました。
 わたしに……、わたしにこんなことが出来るなんて。
 すると、きつねは膝からぴょんっと降り、ついてこいと言うように振り向いた後、歩き始めました。
 猫についていって素敵なアンティークショップを見つけた女の子のお話が、ふと頭をよぎりました。
 彼は、わたしをどこに連れてってくれるんでしょう。
 
 
§
 
 
 時々振り向く以外は、わたしのペースなんかお構いなしに彼は歩いていきます。樹や草の生い茂ったところを難なく抜けていきます。
 彼は街を離れると、山の方へと進んでいきました。
 帰ろうとしていただけで、ついて来いと見えたのは勘違いだったのかも、と自分の行動に少し後悔しています。
「はぁっ………はぁ」 
 息が上がってかなり苦しいです。体育の長距離走って役に立つんだな、とつくづく思いました。
 次第に道はなくなり、山を登るような格好になりました。
 そして、彼がぴょんと跳ねて、見えなくなりました。
 幹に捕まり最後の一歩を登りきって、わたしが目にしたものは…
 
 
 
 一面の草原。
 この雪の街で、そこだけ雪が遠慮したように、ずっと広がる野原でした。
 視線を動かすと、なだらかに続く斜面の向こうに隣の街が、反対側を向くと、わたしが今いる街が一望できます。
 山の中腹くらいでしょうか、丘の上には立ち木一本ありません。
 さっきの彼は、歩いていたときと同じぐらいの距離で、わたしを見守るようにちょこんと立っていました。
 おいで。
 わたしは手を伸ばしました。
「止めてください」
 すると不意に、背後で人の声がしました。
 
 
 
 わたしを止めたのは、胸にリボンをあしらった制服を着た、わたしよりも年上そうな女の人でした。
 まだ学校の時間のはずなのに、どうして制服を着た人がいるんでしょうか。
「人が関わると、あの子たちにとって不幸な事になります」
 静かだけど、かなり強い調子で女の人は言いました。
「でもわたしを案内してくれたのは、あの子なんです」
「彼はただ自分の住処に戻って来ただけです。これ以上は余計な事をしないで下さい」
 余計な事!?
 あまりな物言いに、わたしは『チカラ』で治した事も忘れて、言い返そうとしました。
 すると、彼女は、野原のずっと向こうを見るようにして、
「この子たちはいるべき場所にいるのが一番いいんです」
 言い放ちました。
 
 
 胸が、どんと突かれました。
 いるべき場所。
 その単語が、わたしの怒りを全て抜き取って、代わりに、淋しさを運んできました。
 
 
 
 わたしのいるべき場所って、どこなんでしょう…
 
 
 
 
 
 
§
 
 
 
 
 
 
 街の人ごみを避け、オレは少し遠出することにした。警察に見つかりたくないという理由もあるが、
「琴音ちゃんは人が多いところが嫌いなんだ……」
「そうなんだ」
 こんなことさえ忘れていた自分が腹立たしい。
 ずっと琴音ちゃんを分かっていたつもりが、これだ。
 商店街から離れると、整然とした並木道の遊歩道が目に入った。
 雪を乗せて、どこまでも続く木々。
 葉を通りぬけた光が、地面をきらきらさせていた。 
 散歩コースには絶好だな。もっと暖かければ、だけど。
 通りの正面に視線を戻す…。
 そこで、オレは動作停止した。まさに、信じられないものを目にしたのだ。
 
 
 
 艶やかな黒い髪、この極寒の中でも相変わらずぼ〜っとした様子、そしてそばの執事のじじい。
「来栖川先輩!」
 オレはあゆをほったらかしにして駆け寄った。
「先輩、先輩だよな?びっくりしたぜ」
「………」
「えっ、私もびっくりしましたって、間違いないな」
「………」
「えっ、なんでこんなところにいるのですか、学校はいいのですかって? それも大事だけど、今人一人の命がかかってんだよ」
「ヒロくん、待ってよ〜」
 息せきりながら遅れること十数秒、あゆがやってきた。
「誰、この人?」
「かあぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 あちゃ〜…。
 オレが静止するよりも速く、じじいの一喝が飛んでいた。
「お嬢様をこの人呼ばわりとは、何たる無礼者か!」
 説教相手の当のあゆは、じじいの一喝で耳を破壊されていた。
「お嬢様、このような下賎の者からはとく離れましょう」
「………」
「なんと! この者に会いに来た、ですと!? バカなっ!」
「黙っててください」
 一瞬、誰が喋ったのかわからなかった。
 約1秒かかって、オレは来栖川先輩がしゃべったのだと理解した。
「む…」
 さすがのじじいも(セバスチャンというらしいが)予想外のこのリアクションに口をつぐむ。
「………」
「え、人の命がかかっているってどういう事ですかって?」
 こくん。
「う〜ん、話してもいいかな、先輩なら。それにしてもこんな寒いとこもなんだから、その辺の喫茶店にでも入ろーぜ」
「かあぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 オレが話をじじいに振ろうとした瞬間、二回目の一喝が飛んできた。
「お嬢さまをかどかわしてそのまま営利誘拐する気であろう! 貴様らげ…」
「そう誤解されたくないから、あんたも来いって言おうとしたところだよ!」

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