Back/Index/Next
ToHeart and Kanon CrossOver Story



Schnee Traum


第四話 1月19日 後編

by あるごる


「ほら一年に超能力少女がいるって4月ごろ騒ぎになったじゃん、姫川って言うんだけど…知ってます、って? よかった、話がしやすい」
 なおも引き離そうとするじじいを、先輩が異例の説得をして、オレたちは喫茶店に入った。
「その子がさ、家出してこっちの方にきちゃったんだよ。それで、オレちょっと関わりがあったから責任感じて、捜しにきてるわけ」
 オレはとりあえず話した。
「そういえば、先輩はなんでこっちに来てるの?」
「………」
「旅行です、ふーん、大変だな旅先までこんなのがくっついてきて」
 嫌そうに、視線をじじいに向けてやる。
「私(わたくし)めは芹香お嬢さまのボディガードでございますから」
「あれ、でもさっきヒロくんに会いに来たって…」
「………」
「?????」
「気のせいです、ってさ」
 まだ先輩に慣れない(さっきの一喝が効いているせいもあるだろうけど)あゆにオレは通訳した。
「………」
「早く見つかるといいですね、そうだな」
「………」
「えっ、幸運がくるおまじないをしましょうかって? お願いする…」
 その時、オレの頭に雷光のように名案が閃いた。
「そうだ先輩、占ってくれよ! 今どこに琴音ちゃんがいるのか!」
 その方が手っ取り早いぜ。
 そんなのできるわけないと言いそうな顔のあゆに対し、わかりましたと先輩は答えて、模様の突いた小石を幾つか取り出した。
「最近ルーン占いをはじめたんです、て。ま、いっちょ頼むぜ」
「………」
 オレたちにはどう占ってるかさえわからないので、しばし先輩の手元を見ながら静かにしておく。
 
 
§
 
 
「………」
「確実にこの街にいます? ありがと、でももっと具体的になんないかな…」
「………」
「その人の体の一部でもあれば…それに昼間だと…、あ、そうか、ごめんな先輩、無理言って」
 頼んだコーヒーも、そろそろカップの底が見えてきた。
 じいさんもさっきからテーブルのふちをカタカタやってるし、これ以上引き伸ばすのも無理そーだな。
「あの…」
 その時、にわかにあゆがもじもじし出した。
「どうしたあゆ?」
「……ボクの探し物も占って欲しいんだけど」
「………」
「どんなものですか、って」
「……どんなものか、ボクにもわからないんだよ…」
 お、おい待て!?
「何かわからない物を捜して、お前は商店街をうろついてたのか?」
 無謀にも程があるぞ。
 …占いでも困るほど手がかりが少ない琴音ちゃんを探してるオレの言えたセリフじゃねーか。
「でも、すごく、すっごく大事なものだってことは覚えてるんだよ…」
「でもな、さすがに無理だろ…」
「見ればきっと思い出すもんっ、ほんとに大事な、大事な…」
「………」
「えっ?」
 あゆのあまりに悲しそうな顔に打たれたのか、一応やってみますと言って、先輩は今度は慣れたタロットで占いをはじめた。
 
 
 
 
 
 
§
 
 
 
 
 
 
「そう言えば、栞って趣味とかないのか?」
 腹もひとごこちついて、並木道をまた戻りながら俺は栞に聞いてみた。
「趣味…ですか」
「そう、薬コレクションとアイスクリームを食べること以外に」
「両方趣味じゃないですよ」
 栞に非難の視線を向けさせるのが、最近俺の中で目標になりつつある。
「そうですね…私、絵を描くことが好きです」
 そういうと栞は目を細めて、珍しくかなり照れたような表情を見せた。
「最近は描かなくなりましたけど、昔はスケッチブックを持ってよく絵を描きに行ってました」
 話によれば今日の公園も、その時偶然見つけたのだという。
「絵って、抽象画とかか?」
「風景画です、それと…似顔絵もよく描いてました。まだまだヘタですけど…でも、絵を描いてると楽しいんです」
(そういえば、琴音の趣味ってなんだろう)
「祐一さん?」
「……あ? なんだ?」
「また話聞いてくれないんですね。……嫌ですか、私といるの」
「ち、違うって」
 まただ。
(何でこうタイミング悪いんだ、俺は)
 というより、なんで琴音のことをすぐに考えるんだろう……。
 
 
 
 
 
 
§
 
 
 
 
 
 
「………」
「やっぱり、どんなものかわからないと難しいってさ」
 予想通りの結末だった。
「うぐぅ…」
 でもオレも半分は残念だった。あゆの探しものが見つかれば、琴音ちゃんだってきっと見つかると希望が持てたのに。
「………」
 だが、来栖川先輩の言葉は、まだ続いていた。
「でも、それを捜すときっと良くない結果を招きますって、先輩っ、ちょっと!」
「お嬢さま、そろそろお時間でございます」
 それ以上の追及は、じじいによってかき消された。
 くそ、先輩のお言葉だぞ。すげー気になるじゃねーか。
 
 
 
「すごくきれいなひとだったね…」
 二人がいなくなったあと、あゆがそう感想を述べた。
「当たり前だ。日本で五本の指に入る大富豪、来栖川グループのお嬢様なんだからな」
 オレも3月当初はそうと知らなくて、思いっきり志保にバカにされたっけな…。
「でも、なんでヒロくんはあの人がしゃべってるってわかるの?」
「バカ、ちゃんと喋ってるじゃないか」
「表情も変わらないよ」
「それは……理解するのに熟練の技術を要するな」
「ねぇ、ヒロくん」
 神妙な面持ちであゆが尋ねてくる。
「どうした」
「あの女の人、あのおじいさんの腹話術人形だって事はないよね……」
 な、なんつー暴言をっ!
「…いいのか、来栖川先輩は本物の魔法使いだぞ」
 オレはわざと声を潜めた。
「え?」
「ウソだと思ってるだろ、でもオレは何回も見てる。雲一つない青空なのに雨を降らせたり、死んだ飼い犬の霊を呼んだり出来るんだぜ」
「だ、だから?」
「今の言葉を聞きつけて怒って、くくく、明日の朝起きたらカエルになってるかもしれねーぞ」
「うぐぅ、カエルになるなんていやだよっ」
「はっはっはっは、知らねーぞ」
「うぐぅ、ヒロくんひどいよぉ、先に教えてよっ」
「………」
「え。メチャクチャなこと教えないで下さいって? …せ、せんぱいっ!?」
 あゆのこと言えた口じゃなかった。オレは背後から近づく先輩の気配を全く感じていなかった。
「な、なんのよう?」
 二回くらい声を裏返して、オレは先輩に尋ねた。
「………」
「え、なにか困ったことがあったら、これで連絡を下さいって」
 オレの動揺にも構わず、先輩は服のポケットから携帯を取りだし、オレに持たせた。
 助かったぜ。
「使っちゃっていーの?」
 こくこく。
「じゃ、ありがたく使わせてもらうよ、本当にありがとな、先輩」
 どういたしましてと頭を下げ、先輩は今度こそ去った。
「ヒロくん、それなに?」
「はい?」
 あゆの間の抜けた質問に、オレはズッこけそうになった。
「何って、携帯電話だろ」
「けいたい? それが?」
「まさか、初めて見たのか?」
「うん。今日はじめて見たよ」
 マジかよ。こりゃ現代人のシーラカンスだぜ。
「んじゃ好きなだけ見ろよ。ほら、ここでダイヤルして、顔に当てれば話が出来る」
「……親友というより子分だね…」
 呟いた言葉の意味は分からなかったが、携帯をとっかえひっかえ眺め回してあゆは驚いていた。
 それにしても携帯電話を知らねー奴がいるとは、
「…いまどき幼稚園児だって知って」
「…ひ・ろ・く・ん・い・ま・な・ん・て・い・お・う・と・し・た・の・?(にっこり)」
 マズい。この笑みは『あなたを殺します』スマイルだ。
「それなら……もしかしてメイドロボも知らないだろ」
 オレはあゆの興味を逸らした。
「めいど…ロボ?」
「ロボットのお手伝いさんだよ。家事とか接客とかするんだ」
「二頭身でねこ型?」
「……もっと人間に近い形をしてる」
 いつもは真面目に働いてるメイドロボも、今のセリフを聞いたらさすがにただじゃ置かねーだろ。
 メイドロボの底辺理解のため、オレはしばらくあゆに、メイドロボのことを話しつづけた。
「そんなすごいロボットがいるんだ。一度見てみたいよ」
 あゆは目を輝かせて、しきりにうなずいていた。
 ……。
 確かに、この街に入ってからメイドロボを全然見てねーな。
「オレの住んでるところが特殊なだけか」
 来栖川研究所のお膝元だからやたらと見かけるだけで、普通は見かけねーのか。
 世界に冠たる一大産業と言われているけど、現実はこんなもんかも知れないな。
 
 
 
 
 
 
§
 
 
 
 
 
 
「猫アレルギーだったんですか…」
「そうなんです、だから名雪に猫を勧めるのはやめてくださいね」
「生き地獄ですね……目の前でひどいことして、ごめんなさい」
 『ごめんなさい』より『かわいそう』の目の色で、琴音が名雪を見た。
「ううん。悪いのは祐一と香里だから」
「まだ恨んでたのか」
「あと十年は覚えておくよ」
「名雪、ごはん食べてるときに、怒った顔しないの」
 朝のねこ騒動がおかずになって、食卓は非常に賑やかだ。
「だって、ねこさんだもん」
「本当にかわいかったですよね」
「うんっ」
 名雪の立場を生き地獄と評したあたり、琴音のねこ好きは、名雪に匹敵する規模かも知れない。
「でもねこさん、私が手を伸ばしてもぜんぜん近づいてくれないんだよ…」
「それは名雪さんが猫の目を見つめてるからですよ。目を見られると、わたしたちにその気がなくても、向こうはケンカの合図だと思いますから」
「そうなんだ。ありがとう琴音ちゃん」
 どうでもいいが、このままだと猫色で一日が終わりかねない。
「そうだ、琴音って、なにか趣味あるか?」
 俺は栞にした質問を琴音にもしてみた。
 ややためらったのち、琴音は、
「趣味というほどではないですけど、絵を描くのが好きです」
 俺はデジャ・ブを覚えた。
「絵? 似顔絵なの、それとも風景画?」
「風景画のほうです」
「ふぅん。この街の絵を書いてみたら、昔のこと、思い出すかもしれないね」
 ぱかっ。
 名雪がたわけたことをぬかしたので、一発殴っておく。
「祐一、痛い」
「真に受けて、また風邪引かせたたらどうするんだ」
 ずっとここに住んでいる(仮に住んでいなくても)名雪にはわからないだろうが、この街は出歩くのに寒過ぎる。
 だが、
「そうですね、どうせ暇ですから、そうしてみます」
 あっさりと琴音は承ってしまった。
「ほら見ろ、お前の戯言を本気にしちまったじゃないか」
「ざれごととはひどいよ…」
「日中だったらきっと大丈夫じゃないかしら」
「秋子さんまで…」
「お弁当作っておきますから」
「ありがとうございます」
「できた絵、見せてちょうだいね」
「あまり期待しないで下さいね…」
 女性陣の意見に、とうとう俺も折れた。
「描くんだったら絶好の場所があるぞ」
 今日栞とのデートで行った公園を、俺は琴音に紹介した。
 
 
§
 
 
「……」
 目を瞑っても、全く寝つけなかった。
 閉じた瞼に、2階の教室で、外の風景を眺める栞の姿が映る。
 
 
 ――この空は、祐一さんと同じですから
 
 
 3階なら、俺の座っている席で、
 本当に、本当にそこが、遠い昔の思い出の場所であるかのように栞は呟いた…。
 
 
 
 
 ――新しい学校で、新しい生活が始まる、その日に……私は倒れたんです
 
 
 ――本当は、その日もお医者さんに止められていたんです。でも、どうしても叶えたかった夢があったんです
 
 
 ――お姉ちゃんと同じ学校に通うこと…お姉ちゃんと同じ制服を着て、そして学校に行くこと…
 
 
 ――お昼ご飯を一緒に食べて、学校帰りに偶然会って、商店街で遊んで帰る…
 
 
 ――そのことを言ったら、お姉ちゃん笑ってました。安上がりな夢だって…
 
 
 
 
 どこか諦めにも似た栞の笑顔の向こう側にあるもの……。
 それが頭の中で、徐々に形作られていくのが感じられた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「今日もダメだったか…」
 今日の収穫は来栖川先輩の占いの結果と、同じく先輩からもらった携帯だけだ。
 部屋に着いて寝っころがると、宿の電話機が目に入った。
 …そういや16日に掛けてからずっと向こうに連絡してねーな。
 オレは志保に一本入れる事にした。
「はいもしもし」
 掛けると、ワンコールもしない内に志保が出た。
「よお志保」
「よお、じゃないわよアンタ! こっちは心配してるんだから連絡くらいよこしなさいよ」
 たちまちケンカ腰の声が受話器から聞こえてくる。
「悪かった、今日まで何一つ進展しないもんだから…」
 オレは、今日までの行動をかいつまんで説明し、未だに、この街にいるという情報以外は何もないと報告した。
「それよりどうだ、学校の方は」
「ぜんぜん、なんにも変わっちゃいないわよ。アンタがいなくても世界は回るってね、ちょっと自意識過剰なんじゃない?」
「おめーが余計なガセネタを流さなければ平和なんだな」
「なんですってぇっ〜〜〜〜! 何がガセネタよ、志保ちゃんネットワークをバカにして、何度アンタを助けたと思ったのよ!」
「くっ…」
 琴音ちゃんに関しては、確かに世話になってるから、分が悪すぎるぜ。
「ほらほら、何か言ってみなさいよ〜〜〜」
 ところが向こうの電話口が唐突に騒がしくなった。
「…ちょ、ちょっと、あかり!?」
「お、おい志保、あかりがいるのか、そこに!?」
 まもなく、わかったわよと諦めた声がして、話し手が変わった。
「もしもし、浩之ちゃん?」
「え〜、おかけになった番号は現在使われておりません」
「浩之ちゃんだね…」
 数日ぶりのあかりの声は、妙に感傷的に聞こえた気がした。
「うぅぅ…ひろゆきちゃん………ひろゆきちゃぁぁぁん……」
「お、おいあかり、泣くなってっ」
 あかりの声はみるみるうちに涙声になってしまった。
「ひろゆきちゃんはやく、はやく…」
「わかったわかった、早く見つけて帰るから、だからもう泣くな」
 電話口の向こうで、早く代わってよと数言交わされ、扉が閉まった音と共に話し手が志保に戻った。
「約1名を除き、平和、ね」
「……」
「一応、家に帰るまではずっとあたしがついてるわ」
 向こうはむこうで、苦労が絶えないみたいだ。
「家ではあかりの母さんに頼んでる。あぁ事情話したけどそれは勘弁してよ。あの人ならあかりを抜け出させたりはしないだろうから」
「雅史は?」
「ちょっと雅史にはこれ任せられないわね。あかりに涙ながらに頼まれたら逃走を手助けしそうだからね」
 確かにそーだ。ただでさえ雅史は女のお願いに弱いからな。
「いまんとこはこれで大丈夫だと思うけど…、でもいつ強硬手段に打って出るか…」
「……」
「思い込んだら絶対に考えを曲げないからね…あかりは」
「…あぁ」
「だから、早く探し出して、戻ってきてちょうだい。それが一番の解決策だから」
 こんなに素直な声が、志保の真剣さを裏付けている。
「わかった。迷惑かけて、すまない」
「アンタにそう言わせられれば報酬は十分よ、じゃね、お休み」
 電話は切れた。
 改めてオレは志保に感謝した。ガキ大将と同じで、普段はイヤな奴だがいざって時はほんとに頼りになる。
 明日こそ、絶対に見つけて一緒に帰らねぇと…。
 決意も新たにオレは布団にもぐり込んだ。
 
 
 
 
 
 
§
 
 
 
 
 
 
 ――この子たちはいるべき場所にいるのが一番いいんです
 
 
 ふとんの中にもぐり込んで目の前を真っ暗にすると、昼の言葉が何度も何度も聞こえてきます。
 わたしのいるべき場所…
 いる場所がなくて逃げて来たあの街? いたような記憶がある、全く知らないこの街?
 どちらも違う。どっちにも、わたしの場所はない。
 わたしの居場所って、どこなんでしょう…
 でも、今日はすごくうれしいことがありました。
 わたしのチカラは傷つけるだけじゃないって、わかったこと。
 すこしだけ、自分のチカラが、好きになれそうです…
 あのきつねは、今ごろどうしてるでしょうか。ちょっと心配になりました。
 また明日会えますように。
 おやすみなさい。

Back/Top/Next