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Original Novel
AOi-K Presents



Brilliant 2 U






愛車のドアを心持ち静かに閉める。
都市部から離れているので、月夜は比較的静かだ。
上を見上げると明るい星だけがまばらに瞬いている。
今の会社に入社して半年。
なれない仕事で疲れきった頭で自宅の鍵の場所を思い出す。
鍵を片手に郵便受を覗いて見ると、一通の封筒が入っていた。
差出人を確認せずに背広のポケットに入れる。
確認しない、と言うよりももはやその体力が残されていなかった。


「ただいま・・・」
暗い1DKのアパートで修也がつぶやく。
明かりを点けず台所に向かい、冷蔵庫から缶ビールを一本ごくりとやる。
「・・・っぷはぁ・・・」
一気飲み。一缶ぐらいは何とかなる。
今のところの最高のストレス解消方だ。
口元の泡を腕でふき取り、ようやくソファーに座り一息つく。
テレビを点けるために明かりを点け、もう1度ソファーに座る。

ぎゅっ!

・・・何か柔らかいものを踏んづけた。
「いっ・・・たあい・・・」
慌てて修也がどくと、何かがむくりと起き上がる。
「・・・」
「あ、おかえり・・・」
女性が眠そうな目をこすりながらのんびりと言う。
「里奈、お前また勝手に人の家に!」
修也が里奈につかみかかる。
「きゃあ!だって暇だったんだもん!」
「男の一人暮らしの部屋に入ってきたこと、後悔させてやる!」
「修也の変態!やだっ!」


じゃれあううちに疲れはどこかに吹き飛んでいた。
インスタントコーヒーを出して、しばらく二人でゆっくり過ごす。
「仕事、定刻に終わるんだ」
ちらと里奈が掛け時計に目をやった。
21時過ぎ。
「ま、研修期間だからそんなもんだ。」
「研修期間ってどんなことやるの?」
「雑用だ。給料もらえるのか疑問のレベルだ。」
「ふーん・・・」
里奈が大きく伸びをしながら言う。
「私も就職すればよかったかな・・・フリーターって面倒多くて」
「その分時間的に余裕があるだろ」
「そうかな・・・」
「まだまだ学生気分でいいよな。あと30年は今の会社のままかと思うと気が滅入る」
「どうせ私はお子様ですよ−だ。」
里奈がそっぽを向く。
「すぐすねるところは小学生から変わってない」
「修也だってその意地悪なところは変わってないんじゃない?」
「「・・・」」
一瞬の沈黙のあと、二人は大声で笑った。
「ほんと、私たちって変わらないよね」
「心が若くても身体は25。オヤジの仲間入り・・・」
「ふふっ、修也は私がもらったげるから心配しなくていいよ」
「お前に心配してもらうほど俺は落ちたか・・・」
里奈がジト目で見る。
「・・・夕食作ったげようと思って来たんだけど」
「嘘嘘、里奈様はみんなのアイドルです。」
「解ればよろしい」
そういって里奈が台所に入っていく。
料理下手の修也はただ居間でテレビを見ているだけだ。
「冷蔵庫、ビールと牛乳くらいしか入ってないよ・・・」
台所から里奈が話し掛ける。
面倒でここ2.3日買いだしにいっていないことに気づく。
「冷凍庫はどうだ?」
「・・・氷と霜だけ・・・」
「・・・」
まあ、男に一人暮らしなどこんなものだ。
ゴミ袋の中にはコンビニ弁当の空容器が満載してあるのは言うまでもない。
「ミルク氷でも食べる?」
里奈が台所から顔を覗かせて言う。
「絶対に嫌だ・・・」
「なんてね。戸棚にスパゲティがあるからゆでて食べよ」


同じく戸棚にあったミートソースで目の前にはアツアツのスパゲティ。
ちゃんとチーズも削ってかけてあった。
「?・・里奈、ウチに削りチーズなんて上等なものあったのか?」
「3週間前の牛乳の再利用・・・」
「俺を殺す気か!」
「おつまみ用のチーズか何かを使っただけ」
笑いながら里奈が言う。
・・・牛乳の再利用は某社だけで十分だ・・・
里奈が早速フォークで手をつける。
俺も口をつける。味は悪くない。
流石なものでソースに少々赤ワインが使ってある。


4人前あったはずの麺皿はすっかり空になった。
「ふう・・・味はともかく腹は膨れた」
「よっぽどお腹へってたんだね。ちゃんと食べないとだめだよ」
言い返すことなく、頭を掻く。
雑誌の編集はとにかく忙しく、生活が不規則である。
新入社員は修也を含めて5人いたが、すでに身体を壊して2人辞めている。
かくいう修也もこんな生活で例に漏れない。
「なのに、何でこんな元気なんだ?」
独り言をつぶやき里奈が?顔をするが、何も口には出さない。
「お前、明日の仕事は?」
「朝からだけど」
「・・・もう日付が変わってるぞ。帰らなくて平気か?」
「ホントはやばいけどね・・・」
里奈が落ち着かない様子を見せる。
「俺も明日は仕事だ。送っていこうか?」
「・・・いいよ。そろそろ帰るから」
里奈がバックを手に取るのを、修也が腑に落ちない様子で見つめている。
「お前、ホントは何しに来たんだ?遊びにきたにしちゃ変だぞ?」
里奈が上を向いて考える。
「あは、そだね。変だね」
そわそわしながらも里奈は玄関に向かう。
「そ、それじゃまたね。台所散らかってるけど」
「お、おい!」
修也が立ち上がるより早く、里奈はドアを閉めて外に出た。
「何だってんだ・・・」
そのまま修也は突っ立っていた。

とりあえず掃除のため、テーブルの食器類をシンクに突っ込む。
そして椅子にかけたままになっている背広をつかみ、ハンガーにかける。
その時にひらりと白いものが足元に落ちてくる。
「そういえばまだ読んでなかったか・・・」
拾い上げると柔らかい字で修也宛の宛名があった。
「この字は・・・」
慌てて裏を確認する。
「やっぱり・・・」
近くにあった鋏で封を切ると、カードのような便箋が一枚入っていた。
「・・・・・・」
書いてある字は少なかったため。すぐに読みきる。
「あのバカ・・・」
そのまま一目散に玄関を目指す。

真夜中の住宅街、修也の足音だけが響く。
「はあ・・・はあ・・・」
疲れきっているはずの体が言うことを聞かない。
力を振り絞って探す。
「あいつ」を。

先の角を曲がると後姿が見えた。
ぜいぜい言う呼吸を整えて、叫ぶ。
「里奈!」
力いっぱい叫んだ。
里奈が驚いてこっちを向く。
シャツのボタンを一つはずして熱気を逃がす。
「お前な・・・こんなまどろっこしい事するなよ!」
真夜中だろうが、住宅街だろうが関係なかった。
明かりは二人の間の街灯が一つ。
「水臭いだろ・・・ガキの頃からの仲じゃないか」
「だっ、だって・・・」
里奈が小さく言う。
「返事が待ちきれなくて、今日は来たんじゃないのか?」
「・・・うん」
「お前らしいと言うか・・・」
少しだけ修也が歩き出す。
「断わるとでも思ったか?」
さっきのカードをひらつかせる。
「怖かった。私がそう言って今の気兼ねしない関係が壊れるかもって!」
「バーカ。さっきも言っただろ」
「・・・」
「俺たちはガキだっ、てな」
「・・・・・・」
「受けるさ!この結婚!」
修也が力いっぱいの大声で叫んだ。
里奈が修也に駆け寄る。

手が触れ合う・・・その瞬間。
「うるせえっ!!今何時だと思ってやがる!!」
窓が開くと中年の男の割れんばかりの怒鳴り声だ。
「やべっ!逃げよ!」
修也が里奈の手を引いていそいで駆け出す。
「な、言っただろ」
走りながら修也が言う。
里奈も笑いながらうなずいた。



−−BRILLIANT 2U

  輝く二人のアナタ−−










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