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Original Novel
AOi-K Presents



Can't stop fall'n love






「圭吾!ねえ・・・ねえったら!」
圭吾と呼ばれた男が、読んでいる文庫本から目を離した。
「そんなに大声出さなくても聞こえるって・・・」
圭吾は眼鏡をはずし、手近あるペットボトルから
一口喉を潤す。
「退屈う・・・・」
頬を膨らませる彼女を見て、圭吾が苦笑いする。
「今月は遊びに行く金がない、我慢しろ」
「むー・・・」
圭吾は再び本に目を戻した。
「本ってそんなに面白い?」
「亜季も読んでみるか?」
そういって圭吾は部屋の本棚を指差す。
経済に関する専門書がぎっしりと詰め込まれている。
「もう・・・意地悪!経済オタク!」
「はいはい・・・」
「問題っ!G7ってなんだ?」
「先進七カ国蔵相中央銀行総裁会議」
「その七カ国とはっ!?」
「アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、日本」
「う・・・」
圭吾がふうと息をはく。
「それじゃこっちからも。中央株式市場は日本のどこにある?」
「う・・・東京・・・かな?」
「勉強不足だな」
それを聞いて亜季が胸を張る。
「言ったな。じゃあ亜光速での時間経過式を記せ」
「なっ・・・書けるか!」
「正解はt=t0√1−β2でーす」
「・・・文型の問題にしてくれ」
圭吾が苦笑いを浮かべる。
「うーん・・・じゃあね・・・」
亜季がニヤニヤしながら圭吾に近づいていく。
そしてそのまま向かい合わせになる。
「一体何する・・・うおっ?」
圭吾は後ろに押し倒された。
ベットに座っていて、頭も打つことはなかったが
何しろ急だったので驚いた。


二人の顔はわずかの間しかない。
亜季も圭吾も何も言わなかった。

時間にして5分もなかっただろうが、
二人には長く感じただろう。
まるで時の流れから剥がれ落ちたかのように。


先に動いたのは亜季だった。
唇を重ねるだけの軽いフレンチキス。
それだけだった。

少し乱れた髪を直しながら亜季が圭吾から離れた。


「感想を7字以内で述べよ」
亜季がニコニコしながら圭吾に聞いた。
ごく普通に。
「あ・・・え、7字以内?」
「そ、7字以内」
「うーん・・・分かりません。これで7字だ」
「はずれでーす」
亜季が手近にあった圭吾のジャケットを渡す。
「罰ゲーム。外いこ、外」
圭吾が苦笑いした。
「俺が寒さに弱いことを知ってて・・・」
つぶやきを無視して亜季が先に玄関のほうに行ってしまった。
仕方なく圭吾もジャケットを羽織り外に出た。


「この空の終着駅はどこまでだろう」
上を向いていた亜季がくるりと振り返った。
「ね、私って詩人だと思わない?」
「さあな」
「あーもう・・・つまんないの」
亜季が圭吾の手を取る。
「私は圭吾の何?」
「恋人」
また即答える。
「そう答えてくれるのは嬉しいんだけど・・・」
苦笑いを浮かべて続ける。
「もっと感情こめてよ」
「恥ずかしいから嫌だ」
圭吾が表情を変えずに言う。
「いいじゃん。恥ずかしくても」
「ほんとにいいのか?」
「うん・・・きゃっ」
「ん」の言葉が終わらないうちに圭吾は亜季を力いっぱい抱きしめた。
そして一瞬の後、離した。
あっけに取られている亜季の顔を見て、圭吾が笑い出した。
「だから『いいのか』って聞いたのに」
「もう・・・馬鹿っ!」
怒った亜季の顔を見て、圭吾はまた笑い出した。


「あ、そうそう。さっきの問題だけど」
「え?」
「7文字さ。『ドキドキした』。これで6文字」
笑みを浮かべながら言う。
「ふふっ、大正解」
再び亜季が圭吾の手を取って歩き出した。


「・・・時よ止まれ。そしてこのままで」
消えそうな声でそうつぶやいた。
「何か言ったか?」
「なんでもないですよーだ。早く帰ってご飯食べよ」
「へいへい」

夕日で出来た二人の影。
その手はしっかりと繋がれていた。
引き裂くことの出来ない『絆』がそこにあった。
止められない感情もまたそこに・・・



 ーCAN’T STOP FALL’N LOVE
 
            トキは二人だけのモノ ―












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