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Original Novel AOi-K Presents



forbidden heart




石は投げないで…



カリカリカリカリカリカリカリカリ・・・・

 
広いオフィスの中に、その音だけが響く。

 
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカ・・・

 
窓の外はすでに日が落ち、ネオンと車の騒音が遠く感じる。

 
カリカリ・・・

 
「だあ――っ!!もうこんなモンやってられっか!!」
リックがたまらずペンを投げた。

ゴツン!

「静かにしろ、馬鹿者」
レイチェルの一撃は的確にリックの後頭部をとらえ、気味のいい音を上げた。
「いってぇ・・・」
「ほら、コーヒーだ」
リックは頭をさすりながらカップを受け取った。
「レイチェルの進み具合はどうだ?」
「レポートのほうは48ページだ。おまえは?」
「あと74ページ残ってるよ・・・まあ、リミットまで8日もあるからな」
リックとレイチェルは重大な危機に面していた。
あと8日以内に多数の始末書とレポート100枚を完成させないと減給処分にされてしまうのだ。
これは全面的にリックのミスであったが、レイチェルもそのあおりを食らう形になってしまった。

リックはカップに口をつけながら、オフィスの壁に掛かっている飾りげのない掛け時計を見る。
針はすでに23時を回っている。
「もうすぐ日付が変わっちまうな・・・オレはそろそろ帰るけど、レイチェルはどうする?」
「もう少し進めてから帰るさ」
「む・・・」
リックは机の上にある書類を適当にバックに詰め込みながら続ける。
「たまには食事にでもお誘いしようと思ったんだがな」
リックが笑いながら言う。また碌でもないことを考えているのだろう。
「悪いな、またにしてくれ」
レイチェルが軽く流す。
いつ誘ってもそういうクセに、とリックは言いたかったが、言う前にレイチェルはとっととレポートを始めてしまった。
軽く挨拶だけ交わし、リックは『ヴィシュヌ』本部を出た。

 
夜の闇の中に怪しく立つ巨大なビル・・・と言いたいところだが、『ヴィシュヌ』本部ビルは
それほど大きくない。
一応20階建てだが、特別なエントランスがあるわけでもない。
設備だけならテレビでコマーシャルをやっているような企業のビルのほうが設備もいいだろう。
特務機関と名のついたところで、それほど特別な権限もなく、警察のようないろいろな
逮捕権があるわけでもなく、その任務はもっぱらシールド犯罪の取り締まりだ。
給料も一般公務員とさほど変わらない上、危険と隣り合わせだ。
就職先としては決して好条件とは言えない。
ではなぜ、彼らは『ヴィシュヌ』を選んだのだろうか・・・

 
「う・・・」
銃器類の雑誌が散らばる自室の中で、リックは第二の危機に瀕していた。
「埃しかないぞ・・・」
レトルト、インスタント食品を入れてある戸棚に何も入っていないのである。
とりあえず冷蔵庫の中も開けてみる。
「・・・氷しかないぞ」
どこかで聞いた風なセリフを口にしてみる。
最近は忙しく、軽食しか口にしていないので、何か腹持ちのするものが食べたいところではあるが、
財布の中には小銭が少々しかない。
「・・・寝れば一緒か・・・」
・・・ああっ、石は投げないで・・・

ターン!!

電灯を消そうとスイッチに手を伸ばしたところで、外から銃声が聞こえる。
距離的にそう遠くないことはすぐに分かった。
「はあ・・・空腹で夜中に出かけるオレってなんてお人好し・・・」
黒いコートを羽織り、布にくるまれたV・Bを持ち出し、リックはマンションを出た。

 
 
季節は冬から春に変わるころだが、やはりまだ夜は冷え込む。
「確かこの辺りだが・・・」
銃声が聞こえた辺りはマンションから10分ほど離れたビル街だった。
不気味に静まり返り、街灯も少ない。

ここにくるまでにも2,3発の銃声がした。
「ったく・・・」
もう一度確認するが、『ヴィシュヌ』捜査官に一般犯罪の逮捕権はない。
発砲犯を見つけたところで手出しは出来ない。
なぜリックが来たかと言うとまあ、腹が減って疲れて眠りたいときに、外でタンタンやられては
挨拶の一つや二つしておかないと気が済まないわけだ。
「ご親切にどうも」
・・・・

ザッ・・・

リックは歩みを止めた。
(誰か・・・来る)
こちらから見てY字路の、街灯の光が途切れる先から殺気が伝わって来る。
耳を澄ませると複数の足音。
V・Bの持ち手を強く握り締める。

タタタタ・・・

足音が完全に近づく前に、リックは身を乗り出す。

ドウッ!!

刹那、向こう側から発砲される。
リックは身を翻し、何とか躱す。
軽く舌打ちし、再び前を向く。
「へっ、追いつめたぜ・・・大丈夫か、おまえ?」
発砲した男がのうのうと言う。
リックはスポットライトを当てられたような街灯の中で、状況を確認した。
現れたのは黒服、グラサンのいかにもと言う感じの男二人と、擦り切れたような服を着た少女だった。
少女は身長や体つきから見て15にも満たないだろう。
大きく息を切らし、ひどく不安な表情をしている。
状況は、お約束通り少女がこの男達に追われているとすぐに分かったが、
リックは最初に男達に言いたかったことを言うことにした。
「お前ら・・・今何時だと思ってるんだ!近所迷惑だ!」
黒メガネで細かい表情までは分からないが、男達は怪訝な表情をする。
「貴様・・・仲間じゃないのか。こんな時間に剣まで持ち出す上、警官でもなさそうだな」
「まあな・・・お節介な一般人だ」
そういうとリックは少女のほうを見て言う。
「お嬢ちゃん、こんな奴等と真夜中の鬼ごっこしてないで、オレの部屋でコーヒーでもどうだ?」
「あ・・・」
少女は壁を背に、その場にへたり込んでしまった。
「殺されたくなかったらとっとと消えろ」
もう一人の男が業を煮やしたように、ショットガンをリックに向ける。
この状況下では圧倒的にリックは不利である。『アレが点いている』限りは・・・
リックは最良の方法を頭の中で想定する。
「おおこわ・・・とにかく武器は捨ててやる・・・よっと!!」

 
ガッシャァァ!!

 
リックはV・Bを街灯に投げつける。
一瞬にしてあたりから光が失われる。残る光は10メートルほど先の街灯の漏れ灯み。
「クッ?!」
明かりが落とされたと同時にに錯乱し、男二人は銃を前方に乱射する。
リックは少しの光を頼りに、右から男達の後ろに回り込む。
「寝なっ!!」
リックは交差法の肘鉄で背骨の上部 ―― 肩と背骨の交点を完全にとらえた。
呼吸をつかさどる神経細胞が集中する急所の一つだ。
あまり強打しすぎると本当に死んでしまうので、動けなくなる程度に。
男は声を上げる間なく崩れ落ちる。
もう一人の男は『さっきまで』リックがいたところに向かって発砲する。

リックは一連の動作をすべて読んでいた。しかも相手はサングラス、こちらは夜目もそれなりに利く。
拾い上げたV・Bの柄であごを打ち上げと、こちらも何も声を上げることなく崩れ落ちた。

 
しばらくして・・・
とりあえずリックは2丁の銃をV・Bで両断した。
「近所迷惑な奴はこうなる運命だ。これからは気を付けろよ」
ちらりと少女のほうを見ると、相変わらずこわばった表情で小猫のように震えている。
「お嬢ちゃん」
「は・・・・・はい・・・・」
思ったとおり、お約束のかわいらしい声。
だがやはり怪訝な表情を見せる。
まだ襲われるとでも思っているのだろう。
表情を柔らかくしてリックは続ける。
「まだ誘いの返事、もらってないぜ」

 
 
−とぅびぃこんてにゅうどー



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