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Original Novel AOi-K Presents



Brilliant for you


by AOi-K



『放課後、新館3階のラウンジで待っています。新谷一樹』

朝、スチール製の下駄箱を開けると一枚の封筒。
中に入っていたポストカードのようなものにそう書かれていた。
少し癖のある、角ばった字だ。
早い時間、だれもいない学校の玄関で私はそのカードを見つめたまま
固まってしまった。
これラブレター・・・かな?
でも、私は新谷一樹さんなんて知らないし・・・
私はクラスで目立たないほうだし・・・
入れ間違えかな?
となりの下駄箱に目を移すと、出席番号一番違いの『小室美沙希』の名札。
小室さんは私と違って綺麗だし、性格も明るいし・・・
たぶん、入れ間違いだ・・・
でも、勝手にこのまま小室さんの下駄箱に入れておくのも気が引けるし・・・
とにかく預かって、放課後に渡してあげよう。
幸い封にはノリもついてないし・・・
一度開けたって分からない・・・よね。
私はそれをポケットにしまって、いつものように教室のカギを取りに職員室に向かった。

からから、と教室の戸が音を立てた。
朝、誰かが開けた教室に入るのは初めてだった。
「あら、小井澄さんおはよー」
自分の席に座って本を読んでいた小室さんが私を向いて微笑みかける。
「おはようございます」
私も2回手を振って答えた。
「小室さん、今日は早いんですね」
私も自分の席に鞄を置いた。
「弟が家中の時計いじっちゃって。40分進んでたの」
どうやら本気らしかった。
ふふっ、と二人で笑う。
朝の教室の空気は夜の間換気されないこともあり、季節柄湿っぽく蒸し暑かった。
「小井澄さんが、いつも鍵開けてるんだ」
換気をしようと窓を開け始めると小室さんが話し掛けてくる。
席はそれほど遠くは無いが、打ち解けて離したことは無かったのに
それでも構わず、だ。
小室さんの性格と人気はよく分かった。
「知ってたんですか?」
明け放たれた窓から風が入り、黒いカーテンがなびく。
気持ちいい初夏の風だった。
「ううん。先生が『なんだ、今日は小井澄じゃないのか』って不思議がってたから」
私は廊下側の小窓をあけて、一度教室を出て洗い場で雑巾を絞る。
「何してるの?」
「教卓を拭こうと思って」
いつもの習慣だった。
何故しようと思うのか分からないけど、入学してからの習慣だった。
「へえー、いつもやってるの?」
「ええ」
別に軽く流したつもりはない。
軽く教卓を拭き、少し汚れた雑巾をゆすいでかけておく。
「感心ー。私ってそういうの、がさつだからだめね」
廊下の窓越しに小室さんが話し掛けてくる。
「そんな事ないですよ。小室さんは私より・・・」
ポケットから出したハンカチで手を拭いて、ようやく落ち着いて向き合うことが出来る。
「私より運動もスポーツも出来るし」
「そうかな?運動もスポーツも頑張れば出来るけど、そ―いう気遣いとか
 ―落ち着ける物腰は出来ないと思うよ。だから・・・」
私、そんな風に見られてたんだ・・・
今までというよりここ半年、いわば第二の人生で意識したことがなかった。
少し嬉しくなった。
「あ、そういえば」
まだ話の途中かもしれないけど。
「え?」
「小室さん、新谷一樹さんって知ってます?」
「しんたにかずき・・・って、バスケ部の?名前だけは知ってるけど」
「どんな人ですか?」
そこで小室さんがにんまりとする。
「どーしてそんなこと聞くの?」
あ・・・
「い、いえ、違うんです、ちょっと気になっただけで・・・」
何故か急に恥ずかしくなってきた。
別にそんなことじゃないのに・・・
「まーまー、落ち着いて。教えてあげるから」
「うー・・・」
「新谷君とは中学で一緒だったけど、クラスが別であんまり知らないけど・・・
 ―中学でもバスケ部に入ってて大会とか出てたから有名だよ」
じゃあ、かなりモテるみたい・・・
「彼女とか、そういう噂とかなかった?」
一瞬小室さんがまた笑ったが、きちんと答えてくれた。
「全然・・・でも、どうしたの?」
「落し物拾ったから、届けてあげようと思って」
「なあんだ、好きとか嫌いとか言う話かと思った」
「小室さんは新谷さんとは話したことないんですか?」
「うん、全然」
からからっとゆっくり教室の扉が開く。
「あ、由美おはよー」
こういって小室さんは二人で廊下に出て行ってしまった。
・・・とにかく今日ラウンジに行って渡してあげよう。


――そして放課後。
放課後といっても今日は夏休み前ということでHRだけなのでまだ11時にもならない時間帯である。
新館は特別教室が大半なので残っている生徒はまばらだった。
2年前に作られたということもあり、まだ新築家屋独特の接着剤のにおいが
少し鼻についた。
3階のラウンジはとなりが第二図書館になっており、昼休みなどはテーブルで
本を読む生徒で埋め尽くされていた。
今日はさすがに図書館は閉館されているので全く人の気配はしなかった。
ゆっくりとラウンジのドアを開けると、奥のほうに男子生徒が一人座っていた。
「あの・・・新谷一樹さんですか?」
目が合ったまま近づく。
彼は体育系の部活に不似合いなスマートな体で、
身長の高さは座っていても分かるほどだ。
「そう」
すっと立ち上がる。
「手紙、読んでくれた?」
「ごめんなさい・・・」
私はそういって、スカートのポケットから手紙を取り出して彼に突き出す。
「読んじゃいました。私がもらったわけじゃないのに・・・」
うつむいているので、彼の表情がわからない。
すっと顔を上げると、何か困った顔をしていた。
「あの・・・」
彼はそのままの顔で封筒からカードを出して、しげしげと眺めた。
「ごめんなさい・・・勝手に読んで・・・」
「あ、そうか」
何かを思い出したように鞄を開けて、ペンを一本取り出してカードに何か書き足している。
何をしているのか分からないけど、あまり怒ってはないみたい・・・
「はい」
再びその封筒を渡されて、私は受け取った。
「開けてみて」
いわれるがままに開けて見る。

『放課後、新館3階のラウンジで待っています。新谷一樹』

その上に、今までなかった字が同じペンで書かれていた。

『小井澄浅葱さんへ』

「僕のほうこそごめん、宛名がなかったね」
こういうの書くの、初めてだったから、と彼が照れくさそうに笑う。
その言葉を聞いた瞬間、風邪を引いたときのように体が熱くなり
心臓の鼓動が指先まで伝わるようにどきどきした。
体も思うように動かない。
「突然でびっくりしたと思うけど・・・」
「・・・」
「一目惚れしました。良かったら、僕と付き合ってください」
知らない人だったけど、誠実な態度なのはすぐに分かった。
「そ、そんな!だめですよ私なんか!」
大きくぶんぶんと手を振る。
「私なんか可愛くないしとりえもないし、一緒にいても面白くないだろうし!
 ―そんな私がバスケ部の新人エースの新谷さんと付き合うなんて!」
自分でも何をいってるのかさっぱりわからなくなっている。
「いや、君は十分可愛いし優しいよ。覚えてないかな?
 ―新入生クラスマッチのときに直人を保健室に連れて行ってくれたとき」
そういえばそんなことも・・・
あっ!
「そのとき、僕も一緒にいたよ。そのときから・・・」
そうだ、さっきどこかで見たようなって思ったのは・・・
「とにかくだめですよ!私なんか、私なんか!」
「落ち着いてくれよ。君は十分魅力的だって。自信持っていいよ」
「はぁうーっ」
全然頭に入ってこなかった。
「すぐには決められないと思うから、また明日同じ時間にここにいるよ。
 ―来るまで、ずっと待ってる」
そういって新谷さんは鞄を持ってラウンジを静かに出て行った。
「ど、どうしよう・・・」
頭の中にさっきまでの嵐の様な出来事と言葉がぐるぐる回っていた。
こんなこといわれたのも始めてだし・・・
ふらふらと椅子に座ってしばらくは何も考えられなかった。

しばらく座って何も考えないでいたが・・・
やけにおなかが減ってきたことに気付いた。
時計を見ると・・・
「いっけない、今日は早く帰るって言ってあるんだった」
立ち上がってもふらふらした。
自分の足が軽くなったように、一気に階段を下りて学校を出た。


<一言>
これは同名の中編小説の一部です。
全て読みたい方は私のサイトに掲載しますので。
この『夢幻図書館』には全話投稿できない事情があるのでご勘弁を。

*注*
7/12日現在、まだ完成していません。



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