−SnoW MeLTS−

present by AOi−k

 

雪が降っていた。

心の中に。

白い雪が、涙のように地面に吸い込まれていく。

悲しいことがあったんだ。

手を伸ばす。

一粒の雪が手のひらに舞い降りる。

冷たかった。

降っていないはずの雪が冷たかった。

風が髪を揺らす。

それさえも、鬱陶しかった・・・


「ここは最高の場所さ」
眼下に広がる街並。
ネオンも消され、静まり返った風景。
「・・・・・・」
「今みたいな夏でも、風が吹いて涼しいから」
「・・・」
「涼しい?」
「・・・ええ」
男はため息をついた。
今日知り合ったばかりの、名前も知らない男だ。


「暗そうな顔、してるね」
「・・・」
「何かあったの?」
何も答えずに、私は男の横をすり抜けた。
「待って、別にナンパとかじゃない」
「・・・」
「ほっとけないだけさ」
「・・・放っておいて」
そのまま背を向けて歩き出す。。
「君、今まで泣いてたんだろ、目が腫れてる」
歩みを止める。
「この公園さ、人がこないからね。俺もたまに、な」
背を向け合ったまま、続ける。
「この前は、飼ってた猫が死んだときだったかな」
病気と見られるくらい目が腫れた、と男が付け加えた。
「・・・名前は?」
「なつ。白くてやたら甘え好きだったよ」
男が私の前に歩いてくる。
「男なのに泣くの?」
「それは人間だからさ。悲しいときは泣くさ」
「・・・そう」

 


「何があったかは聞かないけどさ・・・」
「・・・」
また、風が吹く。

(・・・そんな慰め、要らない・・・)

また、手のひらをかざす。
そしてまた、一粒の雪が手のひらでとける。

「雪だね」
はっとして、男のほうを向く。
「君にも見えるんだ」
少しうなずく。
そのかざした手に、男が手を伸ばす。

そして、その手が触れ合う。

「どう、暖かい?」
「うん・・・」

暖かい。本当に・・・


分かれ道に差しかかったころ、空が少し白ずんでいた。
「明日からは、いつもの日が始まる」
「・・・そう、いつもの日々」
「今日は少しの寄り道さ。たまには、な」
「・・・名前は?」
「お互い、知らないままでいいさ。じゃ」
そういって男は町のほうへ行ってしまった。

さっきの右の手のひらには、まだ感触が残っていた。


心の中に雪が積もることは、もうないだろう。
明日からは温もりが待っているのだから。


−End−