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Original Novel
Dekuno Presents



オルゴール


第1話

冬の出会い



 彼女を最初に見かけたのは、高校入試も近い冬の日だった。雪こそ降らないが空気が冷たく寒い日だった。
 親に怒られ、仕方なく本屋へ参考書を買いに行ったときの事。
 その娘は手袋を小脇に挟み、熱心に参考書を見ていた。一冊ずつ手に取り、中を確かめて次の参考書と取り替える。きちんと吟味しているらしく、2冊ほど抱えてキープしているのが見える。
 そんなことよりも本当は、俺の目は彼女の顔を見ていた。
 長いまつげ、しなやかな眉。桜色の唇、澄んだ瞳。後ろで束ねた黒髪の後れ毛が、顔のラインに沿って緩やかにカーブする。
 その娘のまわりだけが、現実離れして輝いているようだった。
 その時、俺には彼女が冬の妖精に見えた。
 今思えば、その感覚が「一目惚れ」だったんだろう。

「で、名前ぐらいは聞いたんだろ?」
 悪友兼親友の一人、友和がポテトを頬張りながら聞いてきた。
「いいや、全っ然!」
 俺は胸を張って言い返した。
「うちの学校じゃないんだろ? その娘」
 同上その2、唯聡がナプキンで口を拭きながら話に入ってきた。
 本屋で見た彼女にもう一度会いたい。でも、名前も住所も聞かなかった俺はどうすれば会うことができるのか、いい知恵が浮かばなかった。
 あの後、あの子に声もかけられずそそくさと逃げるようにして帰った俺は、参考書を買い忘れたことをお袋にこっぴどく怒られた。敗者気分が最高潮な中で考えても、いい知恵は浮かばない。ついでに、このこそばゆいような嬉しいような、今の気持ちを誰かに言いたくて、話し相手も欲しかった。
 それで結局、俺はこの二人に相談することにした。
 …代償はファーストフードのセットメニューって事になったが。
「制服だって、この季節じゃコートの下で分からなかったんだろ? それじゃあ本当に会えないかもしれないぜ?」
 ホットコーヒーを冷ましながら、友和はもっともなことを言う。
 ふふっ、しかし俺はうろたえず、自信を持って答えた。
「大丈夫だ、スカートの裾の方は見えた!」
 その一言に、友和は大きく反応した。
「ハーフコートか? それを女子の制服として認めているのなら、何校かに絞れるぜ、その子のいるところ」
 ここいら近辺の女に関して、友和ほど詳しいやつはいない。やっぱり、心当たりがあったようだ。これで彼女の通う学校がわかるはずだ。
 持つべきものは友達だよな。
「スカートは、『前三揃え』って言ったっけ? 片側にヒダが三つずつついてるやつ」
「それなら隣の中学のハズだ。学区から言って、おまえの行った本屋に行けるなら、結構近いところに住んでるかもしれない」
 早速の有力な情報、これでこそ友和。
「明日あたり、行ってみるか? そこなら知っている女の子がいるから、一緒に行ってやるけど」
「俺も行くよ、どうせ暇だし」
 強力かつ頼もしい二人の手を、俺はしっかりと掴んだ。
「是非とも頼む!!」
 唯聡は真剣な瞳で頷き、俺の手を握り返した。
「ダブルチーズバーガー、ミルクティーMサイズ付き、頼めるか?」
 …俺の財布、中身が持つんだろうか…そんなことを考えながら、俺はにこやかに席を立ち、追加をすべくレジへ向かった。
「唯聡、少しぐらい遠慮してやれよ」
「のろけ話を聞かされてんだから、この位で丁度だよ」
 …唯聡よ、食い過ぎだ。
 彼女を見つけるための先行投資の時点で、俺は少しくじけそうになった。



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