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Original Novel
Dekuno Presents



オルゴール


第2話

彼女の行方



「居なかったな…あの女の子…」
 俺の一言に、コーヒーをすすっていた友和の動きが止まった。
「おまえの見間違いって事はないのか?」
 動きを止めずに、唯聡はサンドイッチにかぶりつく。食べながら普通に話せるのは、こいつならではの特技だ。
「間違いない、俺は制服を見た。そして今日、あの学校にあの時の子はいなかった」
 そう、今日は友和の知り合いに頼んで、見本の本年度卒業生のアルバムを借りたのだ。学校前で待ち伏せようかと思ったが、そのためには授業を抜け出さねばならないことに気が付き、断念した。
 その代わりの方法がこれだったが、結果は空振り。彼女の姿はない。
 アルバムを貸してくれた女の子にも聞いたが、今年の3年女子で写っていない子はいなかったと言う。
 試しに女の子の風貌を説明して、知らないか聞いてみたところ、返事は「NO」だった。
 八方塞がり。気分はまさしくそんな感じだ。このあたりの学校の生徒じゃなく、名前もわからないんじゃ、探しようがない。
「ここで終わりなのか、俺の初恋!」
「初恋だったのか?!」
 突っ込みだけはすかさず入れてきた友和だが、俺が睨むと俯いてしまった。
 友和は悪くない。それは判っているんだけど頼りにしていた分、つい駄目だった責任を友和の所為にしてしまいたくなる。
「人の所為にしていても、どうにもならないよな」
 俺は大きくため息をついた。
「彼女のことで判っているのは、今度の高校入試を受けることと、見た目がかわいかったことだけだ。そのことから、彼女を捜す手がかりって、なんだと思う?」
 友和がやっと顔を上げてくれた。
「入試を受けるなら、模試も受けるかもしれないな」
 唯聡が俺の言葉に続いた。
 そうだ、多分彼女は、この近くにある高校を受けるとおもう。本屋で見たときに、参考書だけでなく高校案内も持っていたのを見たような気がする。
 もちろん、遠くの高校を受けるかもしれないけど、だからといって最初から諦めてしまうのは勿体ないじゃないか。せっかく会えたんだから。
「大きい模試だけでも、受けに行こうぜ。付き合ってくれるだろ? 唯聡、友和」
 友和は大きく頷いた。

 そしていくつかの模試を受け、3人で勉強会を開き、親も先生も驚き始めた頃、とうとうその子と再会することが出来た。


 近いところで行われる大きな模試はそれで最後、そこで会えなければ本当に再会は諦めようかと思っていた。
 もちろん、諦める気なんて毛頭から無かった。だって柔らかな黒髪も、白い肌も、俺の目はまだ覚えている。そしてそのときに覚えた胸の高鳴りも。
 休み時間毎、手分けして女の子を捜した。それらしい子を見つけるたび、小さな希望と小さな絶望を繰り返した。テストは順調に進み、あと一教科で終了するというところまで来てしまっていた。
 昼休みが終わったら、最後の教科が始まる。
「どうするんだ? もう次はないぞ?」
 珍しく唯聡も真剣に聞いてくれている。友和も知り合いに女の子全員に声をかけて探しに行ってくれている。
「見つかるはずさ。でなきゃ、見つけるんだ」
「お前…」
 俺は視線を窓の外に移し、どんよりとした空を眺めた。今日は午後から雪になるという。
「こんな天気だったんだよ、あの子を最初に見たときも。だから今日は、会えそうな気がするんだ」
 その時、何かがゆっくり落ちてくるのが見えた。白くて四角くて、薄い物…。
「!受験票じゃないのか?」
 俺は素早く立ち上がり窓を開けた。まわりの席のやつが文句を言ったが、そんなことは無視して落ちてきた紙を掴んだ。
「神戸、夕綺…」
「その番号、真上の教室だぞ」
 俺と唯聡は走り出した。廊下の向こうの角、その先に階段がある。
 勢いをつけて角を曲がった瞬間、俺は何かにぶつかった。
「きゃっ…」
 小さい悲鳴を上げて、相手は後へ転んだ。
「あっ、ごめんなさ…」
 緩やかにカーブのかかった後れ毛。桜色の唇。
 俺は手をさしのべる途中で、その子に見とれてしまった。
「いえ、私も慌てていたので…」
 優しく通るか細い声。澄んだ眼差しが、僕をとらえた。

 僕の手の中の受験票。そこに書かれている名前が、その少女の名前だった。
 …僕の初恋の、相手の名前だった。



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