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Original Novel
Dekuno Presents



オルゴール


第3話

思い出の時



 その後、僕は彼女と同じ高校受験を受験した。 受験する高校はこの前の時に知った。受験票に書いてあったから。
 勉強会をやっていたおかげで何とか入れそうな学力はあったし、願書の受付もぎりぎり間に合った。通うのにも困らないところにある高校だからと、友和たちも巻き込んだ。
 彼女を見かけたが、向こうはこちらに気づかず、試験が終わると帰ってしまった。

 合格発表。新聞をひろげて、僕も彼女も悪友たちも受かったことを知る。

 入学式。悪友とは隣のクラスに別れたが、彼女と同じクラスになった。
 そして葉桜の緑がまぶしくなる頃、僕は彼女と付き合いだした。

 彼女は中学3年になる頃、隣の学区へ引っ越したんだそうだ。元から目立たない上、当時は短かった髪を伸ばしたせいで、同じ学校の生徒に聞いても判らなかったんだろうと、彼女は言う。

「夕綺、どうしてこの学校を受けたんだ?」
 夕綺の手作り弁当を食べながら、僕は聞いた。
「最初いた中学の友達が来るって言っていたからよ」
 しかし、夕綺の中学時代からの友達というのは、この高校にはいないようだ。夕綺が仲良くしている女子は出身中がそれぞればらけている。
「付き合ってる友達は、ここに来てから知り合ったんだろ?」
「うん…中学の友達は、ランクを落として別の高校に行ったみたい…。この学校って、制服がかわいいから女子の人気が高いんだよ」
 どうりでこの学校の4分の3が女子な訳だ。それほど有名校って訳でもないのに競争倍率が高かった理由も判る。…ついでにここの高校を受けると決まったときに友和が喜んだ理由も判った。
「寂しくない? 僕は友達引っ張ってきたから好き勝手やってるけど、夕綺はいつも巻き込まれているような感じだし」
「ううん、大丈夫だよ。それにあなたのお友達、おもしろいし」
 そう言って笑いながら、魔法瓶からお茶をついで僕に渡す。
「そうか…。そう言えば、今度の日曜、映画に行かないか?」
「うん、良いよ〜。なんの映画? 怖いのは止めてね〜」

 こうやって、たわいもない言葉を交わしながら、それでも楽しい日々が過ぎていった。
 夏には海へ、秋には遊園地へ。夕綺はよく笑い、よく僕の誘いを受けた。
 思い出は増え、夕綺のことを知るたびに僕は彼女と付き合える幸せを感じた。
 夕綺は本当に、優しくて可愛い。最初に見たとき、僕が思っていた通りに。


「友和、唯聡! 一生のお願いだ!」
 両手を会わせ、二人を拝んだ。
「彼女のプレゼント選び、付き合ってくれ!!」
 彼女の誕生日が近い。そのプレゼントを選びたいんだが、一人で買いに行く勇気がない。そこでおなじみ、困ったときの友人頼みをしているわけだ。
「どうする? 友和」
「どうしようかねぇ、唯聡」
 二人とも意地の悪そうな笑顔で僕の顔をのぞいた。
「この前の日曜、一緒に出かけようと思ったのに、デートだったよな?」
「その前はバイトだったし」
 そう、高校2年になると原付免許を取って良いことになっている。もちろん免許を取るつもりだし、バイクも買いたい、その資金を貯めるため、最近バイトを始めたのだ。
「バイト始めたせいで夕綺と会う時間が減ってるんだ、その埋め合わせをしたいんだよ」
 バイトは休みの日に出た方が実入りがいいので、だんだんと夕綺とデートする回数が減ってきている。本当にこの辺で何かしてやりたいところだ。
「うーん、それなら、俺は新車のバイクを貸してもらうってことで手を打とう」
 と、友和。
「じゃ、僕は昼飯良いところでおごってもらうって事で」
 と、唯聡。
「協力、感謝する!」
 僕は二人の手をがっしり掴んだ。

「おい、どんなのをプレゼントしたいか、考えてあるのか?」
「いや、友和、お前に聞こうと思って」
 とりあえず僕たちはデパートに来た。女が喜びそうな物がまとめて置いてあるからだけど、ここを薦めたのは友和だ。
「考えて来いよ、お前の彼女だろ?」
 そう言いながら、友和はすでに物色を始めていた。
「夕綺ちゃんに派手なアクセサリーは似合わないし…服や靴はサイズが判らないしな。何か彼女の好きな物、知らないのか?」
「可愛い物は普通に好きだからな…。一番が何かは判らない」
 夕綺の部屋を思い出すが、特に集めていそうな物は無かったように思う。何かが好きだって話も聞いた覚えがないし、欲しがってる物も知らない。
「一番無難な物っていうと、ぬいぐるみとかだな」
 言いながら上の階に上る。階段を上りきったところで、ふと目に付く物があった。
 前を歩く友和の袖を引っ張って、僕はそれを指さした。
「ああいうのはどうかな?」
 友和は振り向いて、頷いた。
「良いんじゃないか? どれが良いかはお前が探せよ」
 僕は頷き、店舗の中に入った。

 手のひら大に包まれたそれに、赤いリボンをかけてもらった。
「ありがとうございましたー」
 店員の声を背中で聞いて、俺たちはその場を去った。
「唯聡、今日の殊勲賞はお前だ。すき焼き食い放題に行こう! そのくらい奮発してもいい気分だ」
「やった!」
「俺も一緒におごってくれるだろ?」
「友和は自腹を切ってくれ。代わりにバイクを貸すからな」
 僕はこのプレゼントに大いに満足した。少し照れくさいが、こういうのを贈るのも良いだろう。
 俺たち3人は上機嫌で街中を歩いた。


「誕生日、おめでとう」
 僕は用意していた包みを夕綺に差し出した。
「嬉しいな。ここのところ一緒にいられなかったから、こんなのを用意してくれてると思ってなかったの」
 夕綺は大事そうに包みを受け取り、両手でそっと抱いた。
 今、家には誰もいない。二人きりのバースディを、夕綺は俺の部屋で祝いたいと言ったので、ちょっと人払いをしたのだ。元々親父が残業気味だったので、夫婦二人きり外で食べてきたらどうかと進言したのが通ったらしい。
「開けても良い?」
 ちょっと照れながら、僕は頷いた。
 夕綺の手が器用にリボンをずらし、包装紙を破らないようにテープをはがしていく。
 中のは子を取り出し、ゆっくりと蓋を開ける。
「あ…」
 小さく驚いて、中身を取り出す。
 長方形のそれを手のひらに乗せ、更に蓋を開ける。
 金属製の澄んだ音色。細く、高らかに奏でられるメロディ。
「オルゴール? それにこの曲は…」
 そう、俺が選んだのはオルゴール。曲は、以前見に行った映画のラストにかかっていた曲だ。この曲名が判らなかったのを、唯里が教えてくれたんだ。
 僕は驚く夕綺の手に自分の手を重ねた。
「この映画を見たとき、夕綺は泣いてただろ?」
「だって、結局ヒロインと主人公は結ばれなくて…」
 そう、その二人のアンハッピーエンドを見て、夕綺は泣いたんだ。そしてそのとき…。
「そのとき、僕が言ったこと、覚えてるか?」
 夕綺を慰めたくて、僕はこう言ったんだ。
『たとえ別れても、君が好きなことは変わらないよ。世界を敵に回しても』
 我ながら、かなり恥ずかしいことを言ったと思っている。でも同時に、それは本心からだとも思っている。
「忘れないわ…あなたが言った言葉だもの」
「今も、いつでもその言葉は変わらないよ」
 僕を見上げる夕綺の瞳に見とれながら、照れくさいながらももう一度、恥ずかしい言葉を口にする。
「夕綺だけに、言う言葉なんだからな…」
 頷くと夕綺は僕にもたれかかってきた。

 明かりも蝋燭も消した部屋の中で、僕は手の中で滑り落ちる夕綺の黒髪を愛おしく思っていた。
 自分の腕の中の、夕綺の存在すべてが愛おしい。
 柔らかい唇も、黒い瞳も。

 すべてが愛おしかったはずだった。その時は。



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