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Tactics ONE Short Story



二人の出会い


〜長森瑞佳と川名みさき〜

by 道化師






いつもの日常を、いつものように学校で過ごしていればただ毎日は過ぎていく…。
しかし、みさき先輩と出会ってからは、いつもの、とはいかなくなったようだ。普段は気付かないことも先輩といると改めて思い知らされる。
…ほんとうに、いろいろと。
「どうしたの?」
先輩がオレを呼び戻す。
「えっ…、あ、いや。なんでもない」
「ほんとに?なにか私の顔についてるとか」
「そうだな、大量のごはん粒がついてるぐらいかな」
「え…、早くいってよ〜」
あわてて口のあたりを、手でぬぐう。…もちろん、なにもついてはいないが。
「ついてないよ…、浩平君のうそつき」
「冗談だよ」
「それ、だれの真似?」
「じゃあ、そろそろ戻ろうか、みさき先輩」
「…質問に答えてないよ」
「ま、いいからいいから」
「よくないよ」
すねる先輩をうながして食堂をあとにする。
…今日は珍しく先輩とオレのところの授業が早く終わり、誰かの陰謀ではないかと思うぐらい偶然にも食堂で先輩と会った。
オレが来たときにはもうテーブルの上に空になった皿が何枚も置かれていた。
先輩はオレがきたあともペースを変えず、食べていたが…。
オレは一度先輩の食欲の限界が知りたいとも思うが、それは知ってはならない領域なのだろう。
そんなわけで、まだ時間にはかなり余裕がある。
「と、いうわけで図書室に来たわけだ」
「浩平君…誰に言ってるの?」
「いや、べつに」
「それよりさ、みさき先輩は今日はどんな本を借りに来たんだ?」
「うん。今日はちょっと新しいジャンルの本に挑戦してみようと思ったんだよ」
「新しい…ジャンル?」
「推理小説だよ」
「…というか、いつもはどんな本読んでるかも知らないな、オレ…」
だいたい、点字の本だから隣で見ていても分かるわけがない。
「いつも?うーん。古典が多いかな、あっ…でも、名作とかも読むよ」
「へぇ、結構読んでるんだ」
「本は好きだからね」
そういってとてとてと本棚まで歩いていく。オレはといえば、用はないので辺りを適当にぶらつく。普通に本を読んでいる奴や、勉強をしているやつ(昼休みなのにご苦労なことだ)、机に本を枕代わりに寝入る奴。さまざまだ。
充電中の緑色の髪の毛のロボットなんているわけないよな…。
いたら、すごいけど(何がだ)。
「浩平君、お待たせ」
先輩が数冊の点字の本を持って現れる。
「おう、じゃあ行くか」
「うん」
図書室を出たはいいが、まだ昼休みは時間がある。正直教室に戻っても七瀬をからかうぐらいしかないだろう。
それなら先輩と一緒にいるほうがいい。
…そこで、オレはこんなことを思いついた。
「なあ、みさき先輩。まだ時間があるし、ゲームでもしないか?」
「ゲーム?どんなことするの」
「名づけて『屋上の夕焼け争奪戦!』」
「夕焼けはまだ出てないけど…つまり、屋上までの競争だね」
「で、どうかな?」
「うん。いいよ」
「では、先輩は女の子だからハンデということで、オレが10秒待っていよう」
「じゃあ、よーい、どんっ」
そう言って、たたた、と走り去っていく。
オレは無限にも思える10秒を待ち………そして、スタートを切った。
「うおおおぉぉーーーーっ」
そこらにいる奴らを華麗に避けながらも、全力で走り、屋上を目指す。
…しっかし、先輩はよく誰にもぶつからずにいけるもんだ。妙なところで感心してしまう。
階段をさっそうと駆け上がり、曲がり角を折れていくつもの上級生の教室の前を走りぬき、ちょうどそこで、先輩の後ろ姿をとらえる。
「よし…」
この距離なら追い付く。
…そして、先輩が俺のすぐ前で角を曲がった瞬間…………。
ごんっ。
既視感を覚えるような、鈍い音。
「いたいよ〜」
先輩の痛々しい声が聞こえる。
「…また目がちかちかするよ〜」
「先輩っ、大丈夫かっ?」
オレは駆け寄って先輩に近寄る。
「浩平君…ぶつかった人は?」
「あ、ああ」
オレはそこで倒れている女生徒を見る。
そして、驚いた。
なんと、先輩と見事にぶつかり、倒れていたのは、長森だった。
「…えと…大丈夫ですか?」
先輩が心配そうに聞く。
「な、長森っ!おーい、大丈夫か?」
「…」
返事がない。ただの…
…なんてことじゃなく、どうやら、長森はほんとに気絶しているらしい。
「特に傷とかはないな…」
「浩平君の友達なの?…ほんとにごめんね」
「いや、それよりも…」
涙目の上級生と、ぶっ倒れている同級生。
そこでたたずむオレ。
…まずい。
現状はかなり誤解されそうだ。しかも悪い方向に。
何より、長森を放っておくわけにはいかない。
とりあえず…。
「先輩、とりあえず屋上まで行くんだっ」
「う、うん」
俺は長森を担いで、屋上まであがっていく。
長森を屋上から出たドアの脇にもたれかける。
「それで、浩平君…その人、大丈夫なの?」
「ああ、どうやら気絶しているだけらしい」
「おーい、長森〜生きてるか〜?」
ぴしぴしと頬をたたいてみた。
「ふえーん。ごめんなさーい」
先輩が情けない声で謝る。
「いいって、先輩。こいつが不注意なんだよ」
「…う、うーん」
やっと長森が目を覚ます。
「…浩平?なん…で、ここにいるの?」
「大丈夫か?」
「えと、ごめんなさい」
「………?」
先輩とオレを交互に見てふしぎそうに悩む長森。どうやら、現状が分かっていないな…。
「おまえは先輩とぶつかったんだよ」
「…えっ、そうなの…。え、じゃあ、あの、ごめんなさい」
「いや、こっちが悪いんだよ。ごめんなさい」
「そんなっ…私がきっと気をつけていなかったから…」
このままだと、どちらもずっと謝り続けかねない。
「それより、二人ともけがとか、大丈夫か?」
「うん。私はもう、大丈夫だよ」
「私は、まだちょっと…ふらふらするみたい」
「ばぁか、おまえがもうちょっと気をつけてればよかったんだよ」
「そんなっ、わたしだって痛いもんっ」
「…ごめんね」
おそらく先輩の頭はかなりの石頭にちがいない。だとすると、確かに長森の痛さは半端ではないだろう。
「…それより、浩平っ。時間は?もう授業始まっちゃうよ」
長森があわててオレの方を向き直る。
「まずい、確かにもう始まるぞ」
オレらが走り出すと、先輩の情けない声が聞こえてくる。
「おいていかないでよ〜」
急いで、階段を駆け下り、オレ達は放課後会うことにして教室に戻っていった。
そして授業に何とか間に合ってオレは一息ついた。
一息ついたところで落ち着いてさっきのことを考えてみると、
先輩の頭は凶器だな…。
という結論に至る。
でも、なんでそんなに…固いんだ?
気になるな。
そんなことを考えて眠りながらオレは、授業を終えた。

授業も無事終わり、(オレは寝てるだけだったが)放課後には約束どおり先輩がオレらの教室に現れた。もちろんオレと長森が残っている。
長森もいいと言ってたんだが、先輩がどうしても謝っておきたいそうだ。
「…大丈夫?」
「…え、ええ。もう、ほんとに大丈夫ですから」
「そういうわけだから、先輩、気にしなくてもいいって」
「…うん。でも…ほんとにごめんなさい」
「それよりさ、なんでそんなに先輩の頭は固いんだろうな」
「そんなことないよっ。普通だよ」
先輩が必死に弁解する。
「うーん、でもなあ…かなりのもんだと思うぞ」
「浩平、失礼だよっ。そんなこと…」
「じゃあ、被害者としての意見を聞こうか?長森」
「えっ…被害者って…」
「実際くらったからわかるだろ?」
「え…えっと、どうかな…」
言いづらそうだ。どうやら長森も少しはそう思ってるだろう。
…なんせ失神するぐらいだからな。
「…で、先輩。その理由で何か思い当たることない?」
「…うーん、特にないよ」
「ほんとに?じゃ、なんでかなあ…?」
「でも、えっと…川名先輩…ですよね?先輩も大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。…けっこう慣れてるからね」
「えっ」
オレは思わず聞き返しそうになった。
慣れてる…?
もしかして、先輩って…。
「先輩…そんなによくぶつかってるのか…?」
「うん。最近は少ないけど、前は1週間に一度ぐらいかな…」
「そうなんですか、大変ですね」
「もう慣れたよ」
そういってにっこりとほほえむ。
…和やかに話している二人には悪いが、オレには先輩の頭が固い理由がだいたいわかった。
簡単なことだ。
先輩はけっこう、いや、しょっちゅうぶつかっているらしい。
となれば、それを繰り返すうちにかなりの耐性、すなわち攻撃力を身につけてもおかしくはない。
…ついでに、先輩がこの校舎で、軽快に走れるのも、皆が避けてくれているからではないだろうか?
先輩の噂はけっこう広まっている…だから、知っている人ならわかっているのではないだろうか。
…この学校には、盲目の『石頭の』女生徒がいると。
知ってる奴なら間違いなく避けるだろう。…長森や、オレといった知らない奴を除いて。
次オレがぶつかる頃には、負けるかもしれないな…。
オレも気をつけよう。
それにしても…やっぱり、先輩は目がはなせないな。
「もともとは浩平君が競争しようって言い出したんだよ」
「はぁ…ごめんなさい先輩。浩平のせいで」
オレは苦笑して、楽しげに話す二人を見る。
盲目だけど暖かい目を持つ、優しい先輩を。
おせっかいだがいつも隣にいてくれる幼なじみを。
ちょうど、二人は改めて自己紹介をしていた。
「私は川名みさき。よろしくね」
「わたしは長森瑞佳です。川名先輩よろしくお願いします」
「よろしくね、瑞ちゃん。私のこともみさきちゃん、でいいよ」
「…え、えーと、わたし年下ですから、みさきさん、でいいですか?」
「残念だけど…うん。いいよ」
そういって先輩はいつもの笑顔を見せる。
…また、会いに来よう。長森も連れて。
俺はふと、そう思った。
この二人と一緒ならきっとどんなことでも楽しいだろう。
多分長森はまだ先輩が盲目ということを知らないだろうが、いつ気付くかも楽しみだ。
もしかしたら、先輩が言い出さない限り気付かないかもしれないな。
だったら、オレから言うことではないだろう。
気づくまでこのままでいい。
「どうしたの?浩平君、ぼーっとして」
先輩が振り返る。
「いや、なんでも」
そういって空を見上げると、
…今日も気持ちいいぐらいの夕焼けだった。
70点くらい。
でも、今日は言わないでおこうと思う。
長森と先輩の会話を聞きながら、オレはそう思った。
前を見ると、二人の髪が音もなく、風にゆられていた。



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