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Tactics ONE Short Story



二人の出会い


〜七瀬留美と里村茜〜

by 道化師






Tactics ONE〜輝く季節へ〜
Short Story

二人の出会い〜七瀬留美と里村茜〜


ああ、授業がおわったぁ〜。
ぐいっと伸びをする。
やっぱり昼寝は古典に限るな。
さて、では昼飯といくか。
今日はどこで食うかな…?やっぱり茜の所かな、あいつは今日も中庭で食うだろうし。
…と、思ったら、茜が無言で弁当箱を持って、教室から出ていった。ちらっとオレを見たような気もするが。
じゃあ、行くとするか。
…しかし、そのときオレは目の前の七瀬がふと気になった。
最近では男どももよってこないし、いまいち女子の中にも溶け込めていない気がする。
七瀬はひとりだった。
話すのと言ったらオレか、長森か、他には話すと言ってもそう親しくはないはずだ。
…多分オレのせいだろう。
よしっ!ここはちょっと気を利かせてやろう。
「七瀬、飯一緒に食わないか?」
「はぁ、いつもいつも…好きにしなさい」
「いや、今日はちょっと外に行かないか。きっと外で食う飯はうまいぞ」
「なんでわざわざ…」
「漫画とかの乙女なら、外でもさぞ優雅に食えるはずなんだが、違ったか…」
「そ、そうね。食べれるわよっ」
「じゃ、決まり。早く行くぞ」
「えーっ、ほんとにぃっ?」
そして、オレらは茜がいる中庭までやってきた。
いつものように茜は無表情でオレらを見つめる。
「おっ、珍しい。茜もここで食ってんのか。俺らも混ぜてくれよ」
「…いつもここです」
「なんかわざとらしいんだけど、あたしの気のせい?」
「いいから、いいから」
そういって腰を下ろす。
「茜、知ってると思うけど、七瀬も一緒に食うって」
「…どうぞ」
「ど、どうも」
(ねえ、何か嫌ってない?あたしのこと)
七瀬が小さい声でオレに言う。
(あん?んなことないって。これが茜の普通なんだよ)
(そうなんだ、じゃあ、いいけど…)
「…七瀬さん」
「はいっ」
「…食べないんですか?」
「えっ…そうね、食べよっ」
オレもパンを取り出して袋からがさがさと出す。
………
無言。
………
沈黙。
………
静寂。
…静かだ。
三人で飯を食うのがこんなにも静かだとは。
七瀬も何となく決まりが悪そうにしている。
茜は何事もなくいつものようにもくもくと食べている。
とりあえず、オレがフォローを入れよう。
「お、今日も茜の弁当はうまそうだな。今日も手作りか?」
「…はい」
「へー、里村さん料理得意なんだ。そんなにうまく作れるなんて」
七瀬も乗ってのぞいてくる。
「…あんまり、見ないで下さい。…恥ずかしいから」
照れる茜、見てて悪いものではない。
「あ、ごめんね。でもいいなあ、あたしも作れるようになりたい」
「やめとけ」
オレはすかさず止めに入る。
「何でよ?」
「おまえのことだ。弁当作るときも『こんなにチマチマやってられるかーっ!』って叫んで弁当箱どころか机ごとひっくり返して、土鍋でも持ってきそうだ」
「そうだな、相撲部に行け。これからの時期はちゃんこ鍋がおいしいぞ」
「あのねぇっ…部活は関係ないでしょっ!」
「…そうだな。つい、な」
「はぁ…それで、里村さん料理得意なんだよね?」
「料理は好きですから」
「そっかー…ねぇ、あたしに料理教えてくれないかな?」
「…教えるほどではないです」
「うぅん、普通にそういうお弁当作りたいんだ。だめかな?」
めずらしく積極的な七瀬に、少々戸惑っている茜。少し悩んでいたようだが、考えてから言った。
「…わかりました」
「ありがとっ。えと、じゃあ、今度家教えてね」
「はい」
すっかり話し込んでいる七瀬をよそにオレはといえば、既にパンを食べ終え、七瀬の弁当を気付かれない程度のつもりでつまんでいた。
ぱくっぱくっ。
…お、この玉子焼きいける。
ん、これも中々…。
いや、これも、おおぉ…、うん、うまい。
むしゃむしゃ。
「…七瀬さん」
「えっ」
茜の視線の先には、七瀬の弁当を横からつまみ食いしてるやつの姿があった。
…というか、オレだけど。
「あんたは、また性懲りもなく…」
「まて、七瀬っ!落ち着け」
「これが落ち着いてられるか、あほぉっっ!!」
「ぐはっ」
何故今日に限って水筒持参なんだ…七瀬。
ものすごく頭が痛い。
「はぅん…ほとんどごはんしか残ってない…」
「七瀬さん、私のおかずあげますよ」
「ごめんね」
「いいですよ。悪いのは浩平なんですから」
茜、俺の痛みはそんなもんじゃないんだが…。
まあ、二人が仲良くなってくれて何よりだ。
そんなことやっているうちに昼休みは目いっぱい使ってしまった。
そして午後の授業もがんがん寝続ける。
なんか寝てばっかのような気もするが、気にしない。

そうして、休み時間になる。
七瀬が席を立った。どっかに行くようだ。
起きるのもめんどいので、寝ながら、聞き耳を立てる。
「里村さんっ、えっと…今日一緒に帰らない…?」
「…いいですよ」
「…でも、まだ休み時間です」
「あっ、うん。わかってる、今のうちに言っておこうと思って」
「…そうですか」
「実はさ……」
珍しいことだ、七瀬が誰かを誘うなんて。
まあ、いいけど。

そうして、まどろんでるうちにその後の授業も終わった。
「ふあ〜っ、良く寝た」
「寝すぎだよ、浩平」
そこにおせっかいの達人、長森が現れる。
「ん、長森か。どうした」
「んー、今日は部活ないから一緒に帰ろうと思って」
「ふーん、珍しいな。じゃあ、帰るか」
「うん」
「どっかよってくか?」
「うーん、そうだねぇっ」
いろいろ考えてはいたようだが、結局いつものようにハンバーガー屋で、適当に話すことになった。
「久しぶりだねっ、こうしてゆっくり話せるのも」
「いつも朝話しているじゃないか」
「はぁ…朝はいつも走っているから、ゆっくりじゃないよ…」
まるで、オレのせいとばかりに言ってくる。
「ま、いいけどな」
「よくないもんっ。浩平ももっと早起きしてよっ」
「できたらやってるって」
「はぁ…」
いつものように会話を交わす。
とりとめのない会話。
「そういえば昼飯のときな、七瀬がな…」
「あれ?浩平教室いなかったけど…」
「ああ、中庭で茜と一緒に食ったんだ。七瀬も入れてな」
「ふーん、めずらしいね」
「まあな、でも、七瀬も茜と仲良くなったようだし、よかったよ」
「へぇ〜、だから今日は七瀬さんと里村さん一緒だったんだぁ」
「一緒って…?一緒に帰ったのか」
「うん。たぶんね」
もしかして早速、茜の家に行ってるとかじゃないよな…?
「料理習いに行ってるのかも…な」
「えっ?七瀬さんて、里村さんに料理習いに行ったの?」
「ああ、あの七瀬が何を思ったか、んなこと言い出したんだ」
そう言って昼のことを適当に話す。
「まったく、あいつがどう頑張っても無理だと思うがなあ」
「…はぁ、浩平はほんとに鈍いんだから…」
「ん?どういう意味だ、そりゃ」
「言ったとおりだよ、浩平、七瀬さんが何で自分で料理したいと思うの?」
「全部自分で食うため」
「違うよっ、浩平に食べてもらうためだよっ」
「は…?」
一瞬理解できない言葉だった。
「だから、きっと七瀬さんは浩平のために料理習うんだよ」
「はぁ?んなわけないだろばか。だいたいなんでオレなんだよ?」
「んー、ほら、前さあ…一緒に食べたとき七瀬さんに浩平言ったじゃない」
「一度は自分で作ってみろって…」
長森が言いづらそうに言う。
「確かに言ったような…でも、だからってなんで?」
「はぁ、もういいよ浩平。…とりあえず七瀬さんが作ってくれたらちゃんと食べるんだよっ」
「うーん、でも、死なないだろうな?」
「なんの心配してるんだよっ、そんなわけないじゃないっ」
「うー、そうかぁ?」
しっかし、七瀬がオレに弁当を作る…?
とんでもない光景だ。
想像もつかない。
こんな感じか…?

「はい、折原。弁当作ってあげたわよ」
「おお、七瀬サンキュー。いやあ、うまそうだ」
「当然でしょ」
「では、いっただきまーす」
むしゃむしゃ。
………………………。
「ぐっ…、ぐはっ!」
予想もしない異質な感じが口いっぱいに広がる。
「…七瀬、これは何だ…?」
いかんっ、意識が遠くなって…きた……。
「あ、あれ?分量間違えたかなあ…」
「何の分量だあああぁぁっ!」
七瀬の声がさらに遠くなり、俺はばたっと倒れた。

…嫌すぎる。これでは下手すれば命にかかわるのではないか?
いや、でも教えるのは茜なんだし、死ぬことはないだろう。
…多分。
長森と別れた後もオレは明日のことが心配でしょうがなかった。

そして、翌日。
来て欲しくない瞬間こそ早く訪れるもので、気がつけば昼休みになっていて…。
気がつけば七瀬と茜に誘われて、中庭にやってきていた。
「…浩平」
はっ…、茜の声で我にかえる。
「食べないんですか?」
「あ、ああ食うぞ、もちろん」
悲しいことにカレーパン一個。
そして七瀬がなぜかいつもよりでかい弁当箱。
考えるまでもなく理由は明らかだ。
もっとパンを持ってくればよかった…。腹がさけそうなほど持ってくれば俺は死なずにすんだかもしれない。
「あのさ…」
七瀬が遠慮がちに話しかける。
「お、おお。何だ…?」
「お昼…それで足りる…?」
足りるわけがない。
オレはそれを言ったら危険な気がしたが、しかし、事実その通りであるし、七瀬のはずかしそうな照れた表情で見つめられてはどうしようもなかった。
そんな目で見るなよ…。
「うーん、多分足りないだろうな、わはは」
何故笑うのか自分でも分からない。
「じゃ、じゃあさ、あたしの分けてあげる」
「お、そ、そりゃ嬉しいな。ありがたくいただくよ」
「…浩平、顔がこわばってます」
「き、気のせいだろ、茜」
「ならいいですけど」
よくないが…仕方ねえだろ、この場合。
「いやあ、うまそうだなあ。どれもこれも手が込んでそうで、それでいて盛り付けも見事だ」
「そ、そうかな?」
確かに見た目はうまそうなのだ。
オレは覚悟を決めた。
ぱくっ…。
むしゃ…、むしゃ…、
ごくんっ。
…。
……。
………。
「どうかなっ?」
「…うまい」
「ほんとっ?」
信じられないことだが、それなりにうまかった。
「じゃあ、もっと食べていいよっ」
「ああ…」
七瀬のやつ、ほんとに料理できたのか…。
これなら、毎日でもいいかもしれない…。
そう思って、不意に茜を見ると、ほんのわずかに微笑んでいた。
何故かは分からないが、オレらを見て、嬉しそうだった。


「…あれで、よかったんですか?」
帰り道、二人はゆっくりと商店街を歩いていた。
「うん、もちろん」
あたしは茜のほうを向きなおして言う。
「でも…」
「いいの、今日は、ちょっと見返したかっただけ」
「ほんとに、それだけなんだ」
自分に言い聞かせるように、誰にでもなく言った。
「それなら…いいんです」
今日のお弁当はほとんどが茜が作ったものだ。昨日、むりやり頼んで夜まで手伝ってもらったのだ。
といってもあたしはまだまだ何もできてはいなかったけれど。
そのことを考えると、少し胸がきゅっと痛む。
「…留美」
茜が諭すように言う。はっきりと。
「また、料理教えます」
そして、こうつけ加えた。
「いつかは、自分でできるように…」
茜は分かっていた。きっと最初から、教えてもらうように頼んだときから、
あたしがどうしようもなく意地っ張りで、
そして、あいつのことが好きだってことも。
見返したいだけじゃ、ないよね…。
だから、あたしは茜に言う。
「うん。ありがとう、茜」
茜がやさしく、わずかに微笑む。それが、とってもうれしかった。
あたしは思う。
いつかは………あいつに。
まだまだ時間はかかりそうだけど。
いつか…、きっと。




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