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Tactics ONE Short Story



二人の出会い


〜椎名繭と深山雪見〜

by 道化師






「ほら、繭。飯が食いたいなら学食に行けばいいんだ」
昼休み、オレは繭にそう言う。
「…うー」
「俺はもう買ってあるし、だいいちこの前一緒に行ってやっただろ?」
「うん…」
そう言って繭は教室から出ていった。
今日は長森にも行くなといってあるし、本当に一人で行くことになるだろう。
…やっぱりついて行ってあげればよかったかな。
繭のうしろ姿を見ると、ついそう思ってしまう。
うーん、だがそんなんじゃ意味がないし…。

オレは悩んだ末、結局あとをつけることにした。つれそっては行けないが、もしなんかあったら出てって助けてやろう。オレはそう考えて教室から出て繭を追いかける。オレが心配するまでもなく、繭はちゃんと学食までたどり着いた。
問題はここからだな…。
繭は何を食べたいのかあたりをきょろきょろ見回して、今にも泣きそうな顔でふらふらしていた。
結局というか当然というか、止まったのはハンバーガー売り場の前だ。
「うー」
財布を取り出そうとごそごそしているうちに、どんどん目の前で人が並んでは注文していく。なかなか取り出せないのか、それとも買いに行くのができないのがもどかしいのか、すねたような顔でもぞもぞしていた。
「うぐっ…」
今にも泣くかと思っていたが、なんとか取り出せて今度はお金を数え始めた。
「ごー、ろ…く、し…」
店の前でつっ立っていた繭がお金を数えていたとき、急いでいた奴がぶつかって通り過ぎていった。

結果、繭の手から百円玉が何枚か零れ落ちた。
「うーっ、うー…」
繭はあわてて拾い集めていた。だが、この人ごみの中でそううまくいくもんじゃない。
もう泣くな、と思い、我慢できずオレは出ていこうとする。
ちょうどその時、
「はい、もう落とさないようにね」
やさしく笑って、繭の手に拾ったお金を渡す人がいた。
「うん…」
繭が見とれていたのはオレが最近会った、3年の深山さんだった。
「あんまり悩んでると危ないから早く決めたほうがいいわよ」
「…はんばーがー」
「ハンバーガー?だったら早く行ってきたら?」
「…うん」
少しは元気になったのか繭は深山さんが見てる前で買いに向かった。
「…はんばーがー」
「あいよ。いくつ?」
店のおばさんが元気よく応対する。
「じゅう」
「10個?あんたそんなに食えるのかい?」
「たべれる…」
「たべれるわけないでしょ、その体じゃ」
深山さんが見てられない、といったようにぴしゃりと口を出す。
「今日は二個にしときなさい、ね」
「うー…、うん」
繭はしぶしぶ言うとおりにしていた。
…オレが出る必要もないかな。今日は大丈夫だろう。
オレは学食を後にした。


私は言ってみた。
「一緒に食べる?お昼」
「…うん」
その子は複雑な表情をしていたが、小さくそう言ってついてきた。
なんか、子どもみたいな…。私の目にはそう映っていた。
今日はお昼もみさきと一緒でどうせ食欲もわかないだろうし。
なんとなく、目のはなせない、まるで昔のみさきのように…。
「いこっか」
「ふい」
てくてくと私の後をついてくる。
くすっ…かわいい子。
「雪ちゃん遅いよ〜」
机で食べずに待っていたみさきが文句を言う。
いつもどおり、机の上はみさきの分のでいっぱいになってしまっている。
「ごめんね、みさき。ちょっとこの子がさ…」
「みゅー」
「雪ちゃんの友だち?」
「うぅん、そういうわけじゃなくって。何となく、ね」
「ふーん?じゃあ、私は川名みさきだよ、よろしくね」
「ほえ?」
「そういえば、私も名前聞いてなかったわね」
「あなた、名前は?」
「まゆ…」
「まゆ…?名字は?」
「しいな」
「椎名さんね、よろしく。私は深山雪見」
「うん」
にっこりと頷く。
ほんとに、子どもみたい…。
まるで私が…。
なんてね。
「よろしくね、繭ちゃん」
みさきが微笑んであいさつする。
それからはとくにとりとめも無く話しながら食事をした。みさきの食べっぷりには驚いたようで目を丸くして「ほえ〜」と繰り返していた。
「ばいばい、繭ちゃん」
「またね、椎名さん」
みさきと私はそう言って自分たちの教室に戻る。
椎名さんも自分の教室に帰っていくようだ。
「うん…」
さいごにそう言っていたが、他にもなにか言いたそうな顔だった。
でも、けっきょく何も言わずに、歩いていく。
「いこっか、雪ちゃん」
みさきがいつものように言う。
「そうね」
私もみさきの後に続いた。


繭が深山さんとあの後どうしたかは知らないが、どうやらうまくいったようで繭はちゃんと戻ってきた。
ほんとに、心配するまでもなかったな…。
オレはほっとする半分、正直嬉しかった。
「学食にはちゃんと行けたか、繭?」
「うん」
繭はにっこりと笑ってうなずく。
「そいつはよかったな」
「みゅーっ♪」
あまりの元気のよさにオレも今日は繭につきあいたい気分だった。
「よし、今日もどっかで遊んでくか?」
「うんっ」
「そうだなあ…、また七瀬でも見つけるか?」
「うんっ」
「よしっ。んじゃあ、先に七瀬を見つけたほうの勝ちだ、行くぞ!」
「みゅー」
繭がてってと走りだしていく。オレはだいたいの見当をつけ今回も部室が並んでいる辺りに向かう。たぶんあいつのことだからまだ部活見学をしているだろう。
さて今回はどの部活に行くことやら。

しかし、なかなか廊下を見まわしても姿が見当たらない。ふしぎに思いながらも必死に探すが、どこにもいない。
もしかして、今日はいないのか…?
そう思っていると、前のほうで繭がある部室で立ち止まっていた。
先を越されたかっ…。
オレが急いで繭のもとに駆け寄るとどうも様子が違う。何か困っているような感じでその部室をながめていた。
「どうした繭…?七瀬は見つかったか」
「…うぅん」
「じゃ、どうして?」
「うーっ」
オレがその部室の中をのぞくとどうやら演劇部のようだった。
いつもどおりに、澪が一生懸命がんばっていて、みさき先輩がぼーっとしている。そしてそんな部員たちに指示をする深山さんがいた。
「演劇部がどうかしたか?」
「うん…」
何か言いたそうなのだが、どうも要領を得ない。
じっとながめるその先にいるのは、深山さんだった。
「深山さんがどうかしたのか」
「みやま…?」
「ほら、あのみんなに色々言ってる優しそうな先輩だ」
「…おひる…、たべた」
「ああ、昼ごはん一緒に食べたってことか。で、それがどうしたんだ?」
「おれい…、いってない……」
なるほど、今日の昼のお礼を言っておきたかったというわけだ。
たまたま見つけて、それでも気にはかかっていたんだろう。
めずらしいが、繭なりに成長しているという表れなんだ。人とのつきあいを拒絶してきた繭だが、確かに変わってきている。
もういないフェレットに助けを求めることもやめたんだ。
いつかは自分で行けるように…、オレは言ってやった。その背中をやさしく押すように、
「なら、言ってきな…。ありがとうってな」
「…うん」
繭は意を決して、ゆっくりと踏み出していった。
小さく、しかし確実な一歩を…。


…ありがとう。

…どういたしまして。



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