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風華 Original Novel



OUR TIMES


第1話 現在からの旅立ち

by 風華




ここが何処なのかさえもわからずに、ただひたすらに走る。こっちは3人とも疲れてだんだんと走る速度が遅くなってきているというのに、追っ手は少しも速度を緩めることなく、徐々に徐々に距離を狭めてくる。どうしたらいいのか、考える余裕などとても無い。
全く、何をやってるんだろう・・・・・・・


OUR TIMES


事の始めは3日前。ただし、これはあくまで私の中での話だ。あの時から私は、いや、私たちはひどく曖昧な時間の中を、不規則に進んでいた。だから正確にはあの時からどれだけの時が経っているのかなんて、わからない。私が、3日前だと思ったのだ。
とにかく、その時私は、なんだかむしゃくしゃして、すべてが嫌になっていた。中3の9月。受験のこととか引退間近の部活のこととか友達のこととか、悩みならいっぱいあったけど、どれがどう影響して、というわけではなかったと思う。ストレス、とかそういうのとも違った。焦り、というのが一番近いのかもしれない。戸惑いみたいなものも少しあった。周りが急に全ての色を変えてしまったような、奇妙な感覚に押しつぶされそうで、気がついたら、学校をサボって裏山への道を歩いていた。
何処へ行くつもりなんだろう、もはや自分のことすらわからなくなったのか。そんなことを考えふと空を仰いだ時だった。いきなり頭の上から、人が降ってきた。
「えっ?」
「わぁっ!」
反射的に体が横に動き、衝突は避けることができたが・・・
「・・・っぅ〜」
おかげでその人・・・私と同じ年ぐらいの、かわいい女の子だったが・・・はおもいっきり地面に体を打ち付けてしまった。
「大・・丈、夫?」
しゃがみこんだままうめいているその子に、おそるおそる話し掛けてみる。
「・・え?あぁ、平気平気。ごめんね。びっくりしたでしょう?」
「そりゃぁ・・。驚くけど。」
彼女は突然降ってきたことを詫びると、笑顔で自己紹介をしてきた。
「私、あまら天良 みらい美來。15歳だよ。」
「偶然だね。私も15だよ。名前はそらい空井 きょう響。ところで・・なんであんなところから?」
彼女がきたと思われる方向を、空を見上げて見る。ヘリコプターや飛行機が飛んでいた形跡はなかったし、頭上にあるのは人が乗れるとは思えない細い枝だけだった。
「あはは・・・。そうだねぇ。」
困ったように笑う。もしかしたら聞かないほうが良かったのかもしれない。私だって今ここにいる理由を問われたら、答えようがない。
「響ちゃん。」
そんなことを考えていたら、突然声をかけられて、びっくりした。
「えっ?」
「あ、ごめん。馴れ馴れしかった?」
「いや、別にいいけど・・・」
本当?と彼女は嬉しそうに笑った。私も「美來」でいいからね、と。
「荷物、重くない?座ったら?少し、話でもしようよ。」
学校に行くつもりだったから、かばんは教科書などの重みで膨れていた。それが彼女の目には重そうに見えたのだろう。話でも、といわれても見ず知らずの他人と何が話せるのだろう?少し不安を感じたが、同時にこの何処から来たかもわからない少女に興味も抱いた。
ゆっくりと腰をおろすと、彼女は満足げに微笑んだ。
「嬉しい。最近、あんまり同じぐらいの年の女の子と話せてないんだよね。」
その一言が少し、気になった。

話してみるとこの不思議な少女と意外にも話があった。自分の身の周りにいる人の話とか、ドジ話とか、たわいも無いことばかりだったが、話が弾むのだ。美來は話し上手だったし、聞き上手だった。今日初めて会ったなんて信じられないほど私たちは打ち解けて、ふと気がつくと空が茜色に染まりはじめていた。

「響ちゃん。あのさ、例えば時間を超えて別の時代に行くことができたら、素敵だと思わない?」
夕焼けを眺めながら、美來が言った。
「え?・・そうだねぇ、SFとかでよくあるね。どうだろう?確かに楽しいだろうとは思うけど。美來は何処か行きたいところ時代があるの?」
軽い気持ちで尋ね美來の方を見ると、彼女は何か真剣に考え込んでいた。
「美來?どうしたの?」
・・・反応なし。表情ひとつ変えない。
「美來?なんかあったの?ねぇってば・・」
「響ちゃん!!」
私の声は突然何か思い立ったように叫んだ未來の声に消された。
「私と一緒に来て欲しいの!一緒に『時の旅』に行こう!!」
「・・・はぁ?」
一体何を言い出すんだ!?駆け落ちドラマのワンシーンじゃあるまいし。
「あのね、信じられないかもしれないけど、聞いて欲しいの。私、2236年から来たの。」
真剣なまなざしでこちらをみつめ、美來がいった。確かに信じられないことを今彼女は口にした。でも・・・
「私たちの時代では、ううん、私たちよりずっと前の時代から、タイムマシンの研究が進められてきたの。それが、100年以上の時を経て、私たちの時代で完成された。まだ実用化には踏み切れていないけど、今このときが夢じゃない限りは、タイムマシンは使えるということよ。私はその試作品を使って、この時代にやってきた。」
彼女の、美來の顔を見れば、それが嘘じゃないことがわかる。もちろん今実際に話されていることに驚いていないわけではないが、不思議と疑う気持ちは消えていった。素直に、美來の話を信じることができる。
「今までずっと、1人で旅をしてきたから、誰かと一緒に時を旅してみたかったのよ。それが響ちゃんだったらいいな、と思ったんだ。」
「・・・私と?」
「もちろん、響ちゃんの行きたいところ時代に連れて行ってあげる。帰りたくなったら、いつでもこの時代に帰してあげるし、私、響ちゃんの迷惑になるようなことは絶対にしない。だから・・・」
必死になって頼み込んでくる。この目で見つめられて、断れる人がいるというのだろうか?
「いいの?私で。迷惑になったりしない?」
美來の表情が、ぱぁっと輝いた。
「迷惑になんて、ならないよ!一緒に来てくれるだけで、十分!」
「本当?じゃぁ、面白そうだし、何より私も美來と旅行、してみたいし、一緒に行かせてもらおうかな。」
「いいの!?よかったぁ、響ちゃんなら一緒に来てくれるって、思ってた!」
実はちょっと不安だった。でも彼女が本当に嬉しそうな顔で笑うのが嬉しくて、きっと大丈夫、楽しい旅になるだろうって思えたんだ。

着替えも何もいらないよ、と美來にいわれ、私たちはすぐに旅立つことにした。家族に何か言ってから出るべきかとも思ったが、おそらく信じてはもらえないだろう。ばかにされたくなくて、言うのをやめた。
タイムマシンとか言うから、どんな大きな機械かと思えば、美來はポケットの中から銀色に光るブレスレットを1つ取り出し、渡しただけだった。聞くとこれがタイムマシンだという。さっきの話よりよっぽど信じられなかった。そういうと美來は目を丸くし、それからけらけらと笑った。
「どれだけ大きいの想像してたのかは知らないけどさ、今の・・・23世紀の技術じゃ1台の機械で標準の大人5人を運ぶのが精一杯。あ、1台っていうのはそのブレスレットじゃなくてこの、リモコンなんだけど。1人1人にブレスレットつけて、このリモコンでまとめて運ぶ。機械も人も、あんまり重いと時を飛ぶなんてできなくなっちゃうよ。」
なんだかよくわからないが、そういうものなのだろうか。まさか引き出しの中にタイムマシンがあるとまでは思ってなかったけど、かといってこんなブレスレットがタイムマシンというのもいまいち信じがたい。
「それで?どうすればいいの、私。」
とりあえず余計なことは考えないことにして、美來の指示を仰ぐ。
「うん?そうだねぇ、とりあえずブレスレットつけて。そしたら、さっきも言ったけど、私がこのリモコンで『時間のひずみ』を作るから、そこに入ってくれればいいよ。」
ぼら、またわからないことを言う。とりあえずブレスレットはつけるけど・・・
「『時間のひずみ』って何?」
う〜ん、とうなり声を上げて、美來は悩み始めた。
「なんていえばいいのかなぁ?だからね、このリモコンにはね、時を狂わせるといいますか、そんな作用を起こさせることができるんだよ。そもそも時の流れというのは、いっしゅのかがくへんかにすぎなくて・・・」
美來の言葉が全て宇宙語に聞こえるのは私だけだろうか?
「だからぁ、要するにぃ!!」
「????」
「・・・もういいよ、響ちゃんは理屈なんて知らなくて。」
ついにさじを投げられてしまったようだ。私ももう理解しようとは思わないが。
「じゃぁ・・・行くよ?」
美來が手元のリモコンをいじる。と、美來の右側に陽炎のような揺らめきが見えた。
「これが・・・?」
時空のひずみ?美來がゆっくりとうなずく。
ほとんど迷いは無かった。ただその揺らめきの方へ、時間のひずみの方へとゆっくり、歩き出していく。
一歩、また一歩・・・

星が小さく瞬きだすころ。あれが全ての始まり。



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