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風華 Original Novel



OUR TIMES


第2話 時を越えて・前編

by 風華




私たちが向かったのは江戸時代、徳川家光が活躍していた時代だ。時代劇なんかでみるような光景がみたい、といったら、なるべく危険が少ない方がいい、大きな争いが収まったころがいいだろうといわれた。やはり話についていけそうになかったので細かいことはほとんど美來に任せることにした。
『時間を飛ぶ』。頭で理解できなかったそれは、実際にやってみてもなかなか理解しがたいものだった。時間を飛んだ、という感覚はほとんど無く、ふと気がついたら自分はそこにいた、という感じだ。そこ、といっても周りの景色が大きく変わったわけではなくて、私には先ほどと同じ山の中のように見えた。唯一先ほどと違うところがあるとすれば、空に星ではなく太陽が輝いているところぐらいだろう。
「・・・ちゃん・・・響ちゃん・・?」
それまでのぼんやりとした視界に、急に美來がみえた。心配そうに私の顔を上から覗き込んでくる。それで私はようやく自分が地面に寝転がっていることに気づいた。
「大丈夫?具合悪い?」
「ん・・・平気、ちょっとぼんやりしただけ。」
体を起こしながら、答える。美來は何処からか水の入ったペットボトルを取り出すと、私に差し出した。
「最初は気分が悪くなったりするみたいなんだよねぇ。私はそういうの全然無かったんだけど。でもそのうち慣れると思うし、一応薬もあるから・・・」
「だから平気だってば。心配しすぎだよ、美來は。」
実際、どこも具合が悪いところはなかったし、水を飲んだらだいぶ頭もはっきりしてきた。そう告げてやると、美來は安心したように微笑んだ。

「タイムマシンは時間を飛ぶものであって、場所は移動しないからね。ここはあの裏山なんだよ。だから、たいして変わって無いように見えるの。自然の流れは人と違ってとてもゆっくりだからね・・。」
最初に感じた疑問に美來はそう答えた。周りを、ゆっくりと見回しながら。
「ところでさぁ、美來?この服・・・」
自分と美來を見比べながら尋ねる。2人とも先ほどとは違った格好をしている。なんだっけ、こういうの。農作業のおばあちゃんみたいな・・・もんぺ姿?
「この時代を響ちゃんたちの時代の格好で歩いたら大騒ぎになっちゃうよ。たまにはいいと思わない?こういうの。」
美來はどうやら気に入ってるらしい。
「いや、いいんだけどね。これ、どうしたの?」
「バーチャルだよ。おもしろいでしょう?」
ルンルンで答えられてしまう。全く、こんなもの一体誰が発明したんだ?ノーベル賞どころじゃ、すまないと思うぞ?

山を降りるとそこはいろいろな店が軒を連ねる、小さな商店街のような場所だった。あちらこちらで商いの声が飛ぶ。にぎやかな風景。店の様子も人々も生き生きと輝いている。その光景に私はすぐに惹かれた。
「うわぁ、すごい。ねぇ、美來、これってお買い物とか、できるの?」
「お買い物?もちろん。ただ見てるだけじゃ寂しいじゃない!」
美來もそのつもりだったようだ。なにやら草の陰に隠れて作業をはじめていた。何をやっているのだろう、と思いながら待っていると、美來はすぐに戻ってきて、笑顔で何かを握った手を私に向けて出した。
「はい、響ちゃん、手ぇ出して?」
得意そうな笑顔を浮かべている。素直に手を出すと、何枚かの硬貨が私の手の中に落ちた。少し錆びた感じの、教科書とかで見たことあるようなお金だ。
「美來?これ・・・どうしたの?さっき、一体何をしてたの?」
「ん?う〜んと・・・平たく言うと、換金、かな。」
「ふ〜ん・・・で、これ、誰のお金?」
多分・・・私のじゃないよね?もしかして・・・・・
「あはははは♪」
ごまかすように美來が笑う。どうやら図星のようだ。
「駄目だよ!美來のお金なんでしょう?受け取れないって!!」
美來にお金を借りるわけには行かない。どうやって返せばいいのかまるでわからないし、こんな風に借りたのでは、借りた金額もわからないからだ。懸命に押し返そうとするが、美來はけたけたと笑うばかりで決して受け取ってはくれない。
「響ちゃんってば面白い♪そんなに慌てなくてもいいじゃない。」
そしてお金を持たされたままの私の手をつかむとぐいぐいと店の方へ引っ張っていった。
「ほら、早く行こうよ。」
「でも・・・」
「いいから早く!」
ぽんと背中を押され、にっこりと微笑まれて、私は反抗できなくなった。
「じゃぁ・・・でも、あとで返すからね、絶対!!!!」
美來にきっぱりと断言してから、私たちは人の流れに入った。
しばらく辺りを見回しながら歩くと、ふと、店先に置かれた、小さな一つのお皿が目に止まった。美來のお金しかもっていないのでどうしようか一瞬迷ったが・・・私はそのお皿に手を伸ばした。
と、向こう側からも手が伸びてきた。白くてきれいな手。ほとんど同時に、手が触れる。
「えっ?」
「んっ?」
思わず顔をあげると自分と同じぐらいの歳の、きれいな女の子と目が合った。
「あ、えと、すみません。どうぞ。」
慌ててお皿から手を離すと
「あぁ、いや、すまぬ。私は構わないから・・・」
相手も手を引っ込める。これじゃあ全く意味が無い。
「いえ、だからどうぞって。」
「だから私は構わぬといっただろう。」
「だーかーらーっ!!」
「だーかーらーっ、ではなくて!」
たまたま似たもの同士、意地っ張りだったのか、譲り合いだったはずの会話はだんだんと喧嘩に近くなってきた。そんな私たちの様子を、美來は止めることもできずただおろおろとしていた。

「あれっ?香子ちゃん?」
徐々に白熱していく2人の戦い(?)を制したのは、ようやく2人の存在に気がついたこの店の主人だった。
「こんにちは、お久しぶりです。お元気でした?」
香子という名前らしいこの少女は、店の主人に笑顔で挨拶した。名前を覚えてもらっているところをみると、どうやら常連のようだ。私のことなんかそっちのけで、話を始めてしまった。
「あぁ、もちろん元気だよ。香子ちゃんはまたお忍びかい?」
「私にはどうも城の空気より町の空気のほうがあってるみたいなんだ。」
2人の会話の内容に、私と美來は顔を見合わせた。お忍び・・・・城・・・?
「も、もしかして・・・・」
美來も私も同じ考えのようだ。
「お姫様!?」
香子はこちらを向くと、きょとんとした顔で言った。
「なんだ、気づいてなかったのか?私はてっきり、私が姫だから遠慮しているのかと思ったぞ。」
「別にあれはそんなつもりじゃなくて、ただの親切で・・・」
まぁそりゃ確かに言われてみればなかなかよさそうな着物を着てるし、わかる人にはわかるのかもしれないが・・・そんなこと思いもしなかった。
姫様は不思議そうに私の顔を覗き込むと、尋ねた。
「では本当に、私があの皿を買ってしまってもいいのか?」
「だからさっきからいいって言ってるじゃないですか。」
「あれが最後の1つだぞ?本当にいいのか?!」
「本当にいいですって。」
「本当に本当か?」
「本当に本当に本当です!!!!」
負けじと言い返すと、姫様は満足したようににっこりと笑って皿を手に取ると、店の主人に値段を尋ねた。
「一件落着?」
呆れたように笑いながら美來が言った。
「じゃない?行こうか。」
相変わらず店の主人と仲良く話している姫様を残し、私たちは歩き出した。
「お団子でも食べようか、響ちゃん。」
「そうだね、おなかすいたね。」


「おい、そこの2人!待て!!」
突然叫ばれて、思わず立ち止まる。振り返ると、先ほどの姫様が息を切らせて追いついてきた。
「え・・・っと、まだ何か?」
困惑気味に尋ねると姫様はにっこりと笑って言った。
「先ほどのお礼だ。おごらせろ。」
「・・・えっ?」
思いもよらない台詞に反応できない私たち。
「近くに馴染みの店があるんだ。そこでよければ、だが・・・」
「え?えぇ、全然構いませんけど・・・」
まだ固まったまま返事ができない私の代わりに美來が答えた。姫様は美來の返事を聞いて嬉しそうに笑うと、それなら早く行こう、と私たちの背中を押した。

それにしても何で今日はこんなにおごるとかいう話が多いのだろう。きっと今日の占いは金運絶好調だったんだろうな・・・。



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