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Original Novel happy Presents



ファイブフォースストーリー五力伝


黄金獣を捕獲せよ!





「何でアンタがついてくんのよ!」
 翌朝、トレーニングから戻ったラクレスに起こされ、(トレーニング内容は『野望と書いて夢と読む3』参照)パティ達がダグザード山へ向かおうと宿を出ると、リョウが馬小屋の前で待っていた。
「まあそういうなよ。昨日のあれは痛み分けってことで」
「よく死ななかったわね。本気で撃ったのに」
「やっぱり殺す気だったのか……まあそれは置いといて」
 かなり重要な問題(パティの殺人未遂)をひとまず置き、
「俺もダグザード山へ登るんだ。旅は道連れってね」
 被害者であるリョウが問題を棚に上げてくれたので、別段断わる理由も無く、同行を許すことにした。
「ただし、変なことしたら今度こそ黒こげだからね!」
「OK。それでいきましょう。なんか出てきたら頼むぜ。ラクレス」
「オウ!まかせろ!」
 元気に応えるラクレス。リョウはにやりと口元に余裕の笑いを浮かべながら、さっさと歩き始めた。二人もそれに続く。



 鬱蒼とした木々の茂る山道を歩きながら、パティは吹き抜ける風に肌寒さを感じていた。
「はっくちゅん!うう、結構冷えるわね」
「服の布が少ないんじゃないか?」
 ラクレスが見たままの感想を述べる。自分の方こそ半袖の胴着姿なのに、鳥肌ひとつ立てていない。
 リョウはそれなりに旅装束で、寒さをしのげる格好だが、パティは魔術学園の制服(夏服)のままだった。
「『ランスロウ』じゃこのくらいでちょうど良かったのよ」
『ダグザード』の秋は短い。パティ達の住む『ランスロウ』より北方に位置するため、一足先に冬がやってくるのである。
「いやいや、パティちゃんはそれがいいんだよ。そのタイトに切れ上がったスカートからのぞく生足が……」

 ビシッ!

 いやらしく視線を下へ向けているリョウの後頭部を杖で強打する。
「フンッ!スケベ!」
「うおお……見とれててよけられなかった……」
 涙目になるリョウ。結構効いたらしい。頭をさすりながら、
「ところで、そのゴールデンなんちゃらはどうやって見つける気だ?」
「ふっふっふ、目には目を、野生には野生よ」
 と言いつつラクレスを指差し、
「さあラクレス。ここらで始めましょうか」
「オウ!」
 元気良く返事をしたラクレスは、何を思ったか、周りの草むらをかき分け、においをかぎ出した。
「おい、あいつ何やってんだ?」
「これぞラクレス探知機!自然の中で育ったあいつは、獣のにおいで大体どんな種類かがわかるのよ」
 そう、長年カースホーリー山で狩猟生活をしていたラクレスは、においと獣道を見て大体の獣(獣魔)の種類を当てる事ができるのだった。
「ほう、そりゃあたいしたもんだ。じゃあ俺はこの辺で自分の用事をかたづけに行くかな」
「用事って?」
「ちょいとヒトに会いにさ。まあ帰りがけに宿で会おう」
「そう。じゃあね」
 別れはあっさりだった。それなりにいい男ではあったが、あまりお金を持ってそうではないので(なにせ食費を値切ろうとするくらいだ)気にしないことにした。(パティのいい男の判断基準は、1にハンサム、2にお金持ち、3に実力である。なんともはや、現金な娘だ)
「(ボソ)それにスケベだし……」



 リョウが去ったあと、木陰からパティ達を見つめる影があった。
「お頭、あいつら別れやしたぜ」
 昨日ラクレス達にやられた男――ジョンソンである。
「で、あの子供の方にやられたというのか」
 内に怒りを秘めた口調で、もう一人の男が確認する。手にもった魔術師の杖(魔法制御の助けになる)はプルプルとふるえていた。
「お、おかしらぁ、それがあのガキ、めっぽう強くて……」
「もうよい!誰であろうと、このワシに逆らうことは許さん!」
 彼こそがドン・ノストラード。ファミリーを束ねる男である。オールバックにした髪にはずいぶん白いものが混じっていることから、50代といったところか。
「別れた男のほうも捕まえろ!さて、あの子供には実験台になってもらおうか。なあ?」
 口元に残忍な笑みを浮かべ、ノストラードはかたわらの獣の頭をなでながら言った。
「さあ、エサの時間だ……」



「パティ!オレからはなれろ!」
 捜索活動にふけっていたラクレスが突然叫ぶと、パティを軽く押した。
「きゃあ!い、いきなりなによ!」
 超人的なパワーを持つラクレスにとっては軽く押したつもりでも、一応?普通の女の子であるパティにとってはかなりの衝撃になる。
 突き飛ばされる形になったパティは尻もちをつきながら文句をたれるが、ラクレスの真剣な表情からただ事ではないと判断した。
「なにがあったの?」
「くるッ!」

 ザザザッ!

 ラクレスが叫んだ瞬間、草むらから何かが飛び出してきた。
「あ、あれは……」
 それは美しい獣魔だった。野生の狼に似た4本の足には獲物を引き裂く鋭い爪、口元には獲物をかみちぎる犬歯がずらりと並んでいる。青い瞳は鋭く光り、そして何より、その輝かんばかりの黄金色の毛並みが、他の獣魔とは一線を画する神々しさを備えていた。
 ゴールデン・オルクス。密林の王者。
「見つけたわ!ゴールデン・オルクスよ!」
 パティが目を$マークにしてはしゃいでいる。それもそのはず、ゴールデン種の毛皮は破格で売れるのだ(安くとも数百万。物によっては数千万)。もっとも、彼女の計画は保護して愛護団体から謝礼をもらうという円満なものだが。(パティは動物好きなのだ)
「よーし。なんとか交渉ね」
 と言いながらパティは呪文を唱え出した。動物会話〈スピークウィズアニマル〉の魔法である。これは、相手に意志を直接飛ばすことにより、ある程度知能のある動物と会話できるようになる魔法である。
 オルクス種は獣魔の中でも知能が高いはずなので、交渉は可能とパティはにらんだのだ。さっそく話しかけてみる
『え〜と、ボク?あたしはパティっていうんだけど』
 目の前のゴールデン種は体長150センチほどだ。獣魔辞典によると、成人したオルクスは2メートルほどに成長するとのことなので、パティはまだ子供と判断した。
『いっしょに来てくれたら、あったかい寝床とおいしいご飯をあげるんだけど……』
 だが、オルクスはグルルゥと威嚇行動をとりながら、今にもラクレスに飛びかかりそうである。
「パティ、話してわかってもらえなかったらどうするんだ?」
 ゆだん無く身構えるラクレス。こちらも戦闘準備万端だ。
「ちょっと待って」
 動物会話を使いながら、パティは妙な違和感を覚えていた。まったくの無反応なのである。たとえ知能が低くても、『腹減った』とか『眠い』などといった簡単な感情は持っているはずなのだ。
 しかし、このゴールデン・オルクスの子供からは、そういった感情すらも感じられないのである。これではまるで……
(死んでる?そんなはずは……もしかして!)
 パティはある可能性に思い当たった。
「ラクレス!その子は誰かに操られてるんだわ!」
「なに!?」
「たぶん精神操作系の魔法で操られてるのよ。だって、その子の意識がまったく感じられないんだもの」
「じゃあどうすればいい?」
「なんとか魔法を解ければいいんだけど……きゃッ」
『グルアァァァ!』
 パティの思案をよそに、オルクスは全身の筋肉を収縮、爆発させ、弾丸のように飛びかかってきた。

 シュパンッ!ズバァッ!ズドムッ!

「ク、やるな!」
 ラクレスが右肩を押さえている。あまりに一瞬の事でパティには見えなかったが、オルクスの爪がすれちがいざま彼の肩を切り裂いていったらしい。押さえた手の下から血が流れている。
「だ、大丈夫!ラクレス」
 パティは少し焦った。なにせ、ラクレスが『怪我』をしたところはいままで見たことが無かったからである。
 祖父のG―ロトゥールの奥義を食らったときも、10メートルのストーンゴーレムのパンチを受けたときもケロッとしていたのだ。
 そのラクレスが外傷を受けている。ゴールデン・オルクスの攻撃とはそれほど強力なのだ。
 そのオルクスの方はというと、

 バキバキバキバキィ!ドドーンッ!

 さきほどの突進のあと、樹齢数十年はあろうという大木に激突し、思いきり叩き折っていた。まるで後先考えずにただ攻撃しているようにしか見えない。
「パティ、はなれてろ」
 続く第二波を予想してラクレスが身構える。右手を平にして胸から拳三つ離した位置で構え、左手は指だけで拳を作り、わきをしめる。右で受け、左で仕留める、拳術『アーツ』天覇活殺、『覇の構え』だ。さらに、
「はああぁぁぁ」
 一瞬で大きく肺いっぱいに空気を吸い込み、静かに少しずつはいていく。体内に気を練り戦闘力を数段高める、気功術『プラーナ』である。達人は『硬気功』によって身体を岩のように硬くするという。ラクレスにはそれができた。
「いい、殺しちゃダメよ」
「わかってる」
 パティにはあれだけ高速で動く敵に魔法を命中させる自信はなかった。
 かくして、ラクレス対ゴールデン・オルクスの、野獣対決が始まった。



『ガアァァァァッ!』
 先手を打ったのはオルクスだった。その強力な筋肉からはじき出される跳躍力を突進力に変え、ラクレスの喉ぶえを食いちぎらんと牙をむく。その速度は実に時速600キロに達する。(なんと0・5マッハ)

 パンッ!ダスッ

 だが、草むらに突っ込んだのはオルクスだけだった。低く伏せた獣の喉からは苦痛のうめきが漏れる。右腹部に拳の形にあざができていた。
「さすが……」
 しかし、感嘆の声をあげたのはラクレスの方だった。彼は完全に拳が入ったと思ったのだった。オルクスの突進を右手で受けとめ、左手で打ち落とそうとしたが、そのすさまじいスピードに受けきることができず、そのせいで打ちこみも甘かったのだ。
 すさまじい対決である。オルクスが跳躍してからラクレスに襲いかかるまで0.02秒もかかっていまい。そしてラクレスは、さらにその数十分の一の瞬間に拳を叩きこんでいたのである。オルクスはその拳を動物的本能でさっし(まあ獣なのだが)身をひねってダメージを最小限にとどめていた。
 それにしても、オルクスは先ほどから全力で突っかかることしかしてこない。まるでひるむという事がないのだ。
 たとえ獣でも、自分の身が危険ならばしり込みするものである。特に自分より強いものを相手にするならば。
 だがこのオルクスにはそれがない。なにか野生の枠組から外れてしまったような行動だ。長年山で生活してきたラクレスにはそれがわかるのである。
「どうやら、ほんとに操られてるんだな」
 ラクレスは怒っていた。これまで狩りで数多くの獲物をあやめてきたが、それらは全て野生の節理の一部である。負ければ相手の糧になる。いわば自然法則の中の出来事だった。
 だが、目の前の獣は、他人に心を操られ、自分では望まぬ戦いにかり出された哀れな存在である。
 だからラクレスは、自然に生きるものとして、戦士として怒っていた。
「いま楽にしてやる……」


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