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Original Novel happy Presents



ファイブフォースストーリー五力伝


黄金獣を捕獲せよ!





「ラクレス、怒ってる……」
 かたく拳を握り、歯を食いしばってオルクスと退治しているラクレスの表情は、今までパティが見た事の無いものだった。
 何があってもたいていは笑ってすごしているラクレス。その彼が怒っている。心の底から人(獣)を操るという行為が気に要らないのだろう。
「魔法で操られてるとなると、近くに術者がいるはずなんだけど……」
 なんとかしてやりたいと思う。ラクレスにあんな顔をさせてはいけないと強く感じていた。
 大いなる力に満ちた世界『フォース・ワールド』と自らの体を使って交信し、その力でこの世界の法則に干渉する。それが魔術師〈ゲートユーザー〉の能力である。
 同じ魔術師である彼女は、他の魔法を感じ取る事ができる。その力で、なんとか逆探知しようというのだ。
「あの子に流れこんでいる力がどこからやってくるのか。考えるんじゃない、感じるのよ」
 かつて師匠に教わった言葉を思い出し、パティは全神経を集中させた。



 そのあいだも、ラクレスとオルクスの対決は続いていた。いや、正確には飛びかかる獣を、ラクレスがいなしていると言った方が正しい。すでに全身に爪あとが痛々しくついている。
 疲れを知らぬかのように攻撃の手を休めないオルクスを、彼は冷静に観察していた。
(こいつはただ突っ込んでくるだけだ。何にも考えず・・・・・・)
 それでもこの弾丸のごとき突進を止めるのは容易ではない。ラクレスは覚悟を決めた。
「ここだッ!」
 疾風のごとき攻撃を読みきり、ラクレスが右腕を差し出す。

 ガキィッ!ザクッ!

 ゴールデン・オルクスの強靭な顎が、ラクレスの右腕にくらいつく。牙はふかぶかとくいこみ、腕からは大量の出血が確認された。
「ラクレスッ!」
 たまらず悲鳴を上げるパティ。だが、当の本人は冷静に腕に力を込め、筋肉を収縮させる。
 オルクスが(正確には術者が)くいこんだ牙が筋肉に挟まれて抜けない事に気がついた時にはもう決着はついていた。
「悪くおもうな、一回は一回だ」

 ドスウッ!

 みょうな理屈をつけながら、ラクレスの左拳がオルクスの腹部を強襲する。たまらず失神した黄金獣は、力無く地面に崩れ落ちた。



「見えたわ!」
 今のショックでオルクスを操っていた術が解ける。パティはその瞬間を見逃さなかった。
 倒れたオルクスの頭から、細長い糸のようなものが見える。肉眼では見えない、魔法の操作線だ。糸はすこし離れた木の上に続いている。
「そこにいるんでしょう!出てきなさい!」
 パティの叫びが聞こえたのか、木陰からオールバックの初老の男が現われた。手には魔術師の杖を持っている。
「ふっふっふ、まさかゴールデン・オルクスを倒し、ワシの術をも見破るとは。子供と思って甘く見ていたようだな」
「お前がノストラードか!」
 ラクレスが怒りの声をあげる。だが、その声にはあきらかに憔悴の色があった。無理もない、右腕のキズは骨まで達しているのだ。
「いかにも、そして!」
 ノストラードがパチンと合図すると、どこに隠れていたのか、十数人の男たちが二人の前に立ちはだかった。
「こいつらがワシのファミリーよ」
 男たちは手に手にナイフや山刀を持ったりして武装している。その中に、昨日捕まえたはずのジョンソン達の姿もあった。
「あ、あいつらはラクレスが捕まえたはず?」
「ふっふっふ。ワシは精神操作系の魔術が得意でのう。誰もワシに逆らう事はできんよ」
「なるほどね……」
 パティは全て納得した。あのオルクスを操ったのと同じように、堂々と街へ乗りこんで、保安官を魔法で無理やり操ったに違いない。
「同じ魔法使いとして、あんたのやり方は許せないわ!」
「ふん!ぬかせ小娘。者ども、そやつらを引っ捕らえよ!」
 木の上からのボスの合図で、戦闘員さながらに襲いかかるノストラード・ファミリー。たとえ一人一人はたいしたことが無くても、この人数に一度に襲いかかられるのはやはり脅威だ。
「覚悟しなさい!力撃〈エネルギー・ボルト〉!」

 ピカアァ!チュドンッ!

『うわあぁ』
 パティのかざした魔術師の杖の先端から、光り輝く球体が3方向に発射された。魔法の光を受けて、数人が一度に倒れる。
『力撃』は対象にぶつかったさいに爆発し、その衝撃力で目標を破壊する魔法である。フォース・ワールド第一階層に位置する初歩的な攻撃魔法とはいえ、レベルの高い術者が使えば十分人間を破壊できるのだ。さすがに加減して撃ってはいるが(その分弾数が増えている。『力撃』は術者の力量で、一度に発射できる弾数が増えるのである)
 ちなみに呪文を省略すると、魔法の制御や命中精度に問題がでるが、術者の力量がその魔法を上回っていれば大きな問題ではない。
「ラクレス!前衛は任せたわよ!」
「オウ、心配するな」
 と左手の親指を立ててラクレスが応える。だが、その右腕はだらりと垂れ下がったままで、ひどく痛々しい。
 それでも、左腕一本で迫り来るファミリーの連中を次々と打ち倒しているのはさすがだ。
「お前らみたいに根性の曲がったやつらは、オレが叩きなおしてやる!」
 二人の活躍は目覚ましかった。パティは後衛から『力撃』で、数名づつ確実に倒していく。ラクレスも、負傷をものともしないガッツで敵を寄せ付けず、見事にバリケード役を果たしていた。
「ち、ナカナカやるではないか。だがこれならどうかな?」
 立っているファミリーはもはや数名といったところで、木上から見下ろしていたノストラードがいよいよ動き出した。
 ふしくれだった指で魔術師の杖を握り締め、低い声で呪文を唱える。
「夢の世界より生まれし霧よ。汝の世界へ引きずりこめ。眠霧〈スリープ・ミスト〉」
 かざした杖の先から濃い霧が噴出される。それはまっすぐにパティを狙っていた。
「危ない!パティ!」
 自らを盾にしてパティをかばうラクレス。立ちはだかった小柄な身体を、魔法の霧がおおい隠した。
「大丈夫ッ!?ラクレス」
「う……なんだ、眠気が……」
 とたんによろめき出すラクレス。
「ふっふっふ、『眠霧』を思いきり吸ったな?一呼吸で5つ星の獣魔ですら眠らせる魔の霧よ。二度と目覚めんかもしれんな」
 ちなみにノストラードはこの魔法でこれまで数々の獲物を捕らえてきたのだった。ゴールデン・オルクスもまたしかり。
「ち、ちくしょう……こんな奴に……」
 たまらず崩れ落ち、そのまま動かなくなる。あわてて駆け寄るパティ。
「しっかりして!起きなさいラクレス!」
 ラクレスの胸は規則正しく上下していた。即死ということは無かったようだが、その事に安堵する暇も無く、自分の置かれた状況が最悪の展開を迎えた事を悟る。
「さて小娘、おとなしく杖を捨ててもらおうか」
 ファミリーの残った4人がすばやくパティ達を取り囲む。この状況では、たとえ『力撃』で2、3人倒せても、残る1人の攻撃は防げない。4人同時に倒せる魔法も無いわけではなかったが、制御の難しい魔法なので呪文無しで成功させる自信はパティには無かった。ラクレスの防御あってこその必勝の布陣だったのだ。
 仕方なく杖を捨てる。カランと乾いた音がむなしく響いた。
「(ボソ)あとでぜったい泣かしてやるんだからッ!」


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