初音のないしょ『To Heartおまけシナリオ』
ふゅーちゃりんぐ 岡田軍団


キーンコーンカーンコーン…
休み時間の鐘が鳴った。
さっそく私は「関西女に一矢報いるための計画ノート」を取り出し、考えを巡らせ始める。
まったく関西女め…こっちが挨拶したんだから、返事くらいしなさいよ!
そりゃ、ちょっと声が小さすぎたかもしれないし、目を見て挨拶しなかったけどさ…。
でもこの私が声をかけたんだから!
「ちょ〜っとぉ!!大企画、大企画ぅ!!」
「んだよ? 相変わらず騒がしいやつだな」
そんなところに、隣のクラスの長岡さんがいつものように教室に飛び込んできた。
相変わらずやかましい玉ねぎ頭ね。
藤田君もあからさまに鬱陶しい、といった感じで応じている。
私は手を止めて、その会話に耳を傾けてみた。
「で、その大企画ってのは?」
「なによ、今日はやけに素直ねぇ。あんた、もしかして、あの日?」
「いったいなんの日だ」
相変わらず変な掛け合いをやっていて、一向に本題に入る気配が無い。
よくもまあ…いつも同じような会話をして飽きないものね。
「あっ。あかり〜っ、ちょっとこっち来て〜!」
長岡さんは、丁度教室に入ってきた神岸さんに声をかけた。
なんでも神岸さんに、これから藤田君と交わす約束の証人になって欲しいんだとか。
さらに詳しく話を聞いてみると……幽霊がどうとか言ってるけど、よく聞き取れない。
「ふふ〜ん。たしかに聞いたわよ」
何を聞いたんだろう?
気になっていると、神岸さんがまさに代弁するかのように聞いてくれた。
「ねぇ、結局なんの話?」
さすが神岸さん! 関西女なんかと違って気がきくじゃない!
(わたし内部、神岸さんポイント+2…いや、思い切って+3あげちゃう!)
「そうだよ、いつまで引っ張るんだ。さっさと本題に入りやがれ」
「そうねぇ〜。ホントはこの倍くらい引っ張るつもりだったんだけどぉ」
「無駄な時間に付き合わせるな」
そうしてまたあの二人は絡み合っている。
これ以上あの人たちの会話についていったら、こっちまで頭が悪くなる気がするわ…。
などと思った矢先、
「わーった、わった。それより話を進めてくれ」
藤田君が不毛な会話を打ち切ってそう言った。
ふぅ、とうとう本題に入るようね。
「きもだめし大会ぃ〜!?」
藤田君と神岸さんがそろって大声をあげた。
聞いた所、今夜九時から校内できもだめしをするらしい。
「なあなあ、委員長。今晩ヒマか? いまの聞こえてただろ?」
あっ!? 藤田君が関西女を誘っている!
……そうだ! これよ!! これを利用しない手はないわ!
この時私は、ある計画を思いついたのだった。
そのイメージを夢中でノートに走り書きさせ、形にしていく。
ふっふっふ…関西女め、見てなさい! そのすまし顔に、きっとほえ面かかせてやるからね!

キーンコーンカーンコーン…
ようやく、放課後のチャイムが鳴る―――
私はさっそく松本と吉井に声をかけた。
今晩空いてないかとたずねたところ、二人とも特に用事がないとのこと。
ちょうどよかった!
私は計画を実行すべく、詳細を二人に説明した。
「関西女を驚かす?」
二人が眉をひそめる。
「そうよ。いい? あの時藤田君が関西女を誘ってたでしょ? だから、きもだめしに便乗して、関西女にひとあわふかせてやるのよ!」
いつもすました顔の関西女が、恐怖で顔をゆがめる…
これ以上痛快なことはないわ!!
私は思わず力が入り、グっとこぶしを握り締めて力説する。
「岡田、本っ当に懲りないわねぇ」
「それに、保科さんたしか断ってたじゃない」
なんだか心底あきれた表情で吉井が水を差すと、つられて松本までもがそんなことを言う。
「まったく、二人とも私との付き合いが長いわりにはわかってないわね」
私はチッチッチッと指を振る。
「口だけよ。わかんなかった? 藤田君たちが喋っている時、あの女いつ自分に話を振られないかってソワソワしてたもん。行く気マンマンよ」
「そんなの普通わかんないって」
手をパタパタさせながら溜め息まじりで吉井が言う。
「岡田、なんだかんだ言って保科さんにかまってもらいたいだけなんじゃないの?」
「へえ、そうなんだ岡田?」
吉井のとんでもない発言につられて、松本もにやりとしながらからかってくる。
「ち、違うわよ! 私は純粋にあの関西女を驚かしてやりたいだけよ!」
そう言っても、二人はただクスクスと笑っているだけだ。
ムカツクわね…
「まあいいわ。とりあえず今夜九時に校門前に集合。見つかんないようにね。必要なものは私が用意するから」
「ハイ、了解」
二人とも真面目に返事をするものの、顔は笑いをこらえるので引きつっている。
やっぱりムカツク…

―――そして夜。
静かにそびえる校舎を背景に、私は二人が来るのを待っていた。
用意したものは白い布切れ。いささか単調ではあるけど、軽く驚かすだけなら
この程度の用意でも十分でしょう。
驚いて腰をぬかす関西女、実に爽快だわ。
「ふっふっふ……関西女め、見てなさいよ!」
「岡田、その含み笑い、怖いよ」
「余計なお世話よ…って、あんた達いつの間に来てたのよ?」
振り返るといつからそこにいたのか、松本と吉井の二人が揃って後ろに立っていた。
まったく気付かなかった…
「ま、まあいいわ。ほら、これ受け取って」
平静を装いつつ、持ってきた白布をばさっと二人に渡す。
「……」
布を受け取った二人は、無言でこっちを見ているだけである。
その表情から『マジですか?』という思いがヒシヒシと伝わってくる。
「なによ! しょうがないじゃない、突然のことだったんだから!」
思わず大声をだしてしまった。落ち着いて、落ち着いて…
「とにかく、凝ったもの用意できる時間が無かったのよ。あんた達もそれで我慢しなさい」
「でも、今時こんな布で驚く人いるのかしら。松本怖い?」
「ううん、全然」
布をかぶりながらぶつぶつと呟いている二人。
こいつらはっ…!
パシャッ!!
腹にすえかねた私は、布をかぶった二人をデジカメで撮ってやる。
ちなみに、このカメラは驚いた関西女を撮る為に持参したものだ。
「や、やめてよ〜! こんな恥かしい格好を撮るの!」
松本が心底恥ずかしそうな表情で訴えてくる。
「ごちゃごちゃ言ってないで。関西女はまだ来てないみたいだから、さっさと行くわよ」
「はいはい」
やる気の無い二人の声に苛立ちと多少の不安を覚えつつ、私は校内へと入っていった。

ギィィィ……
静まり返った校舎に昇降口の扉を開ける音が響き渡る。
「さて、問題はどこで驚かすかよね。やっぱり油断してる所を思いっきり驚かしてやりたいから、ゴール前でスタンバイするのがいいわ。玉ねぎ頭の話ではゴールは屋上らしいから、そこに向かうわよ」
「えぇ〜、じゃあこの暗い校舎の中を歩かなきゃいけないの?」
「玄関にしようよ〜。みんなが帰ってきたところを驚かすのでいいじゃない」
真っ暗な校舎内を不安の表情で見渡しながら、松本が不満の声をもらす。
さらに吉井も乗り気でないみたいで、妥協した根性のないことを言い出す。
まったくこの二人は!
ここまで来ておいてなに腑抜けたことを言ってるんだか。
「だめよ、目標は関西女一人だけなんだから。まさか、あんた達怖いの〜?」
放課後のお返しとばかりに、ふふんと鼻を鳴らして言ってやる。
「だってぇ」
「ねぇ…」
しかし二人とも恐怖の方が先行していて、まったくからかい甲斐がない。
なによ、つまんないわね。
「もう、とにかく行くわよ。3人もいるんだから平気でしょ」
このまま話していてもらちがあかないので、私は歩きだす。
後ろの二人も、溜め息をもらしながらついてくる。
やる気の無さがこっちに伝染しそうだわ、まったく。

コツコツコツ……
夜の廊下を延々と歩く。
ちなみに電灯を持ち歩くわけにもいかないので、月明かりだけが頼りである。
が、それだけだとやはり心もとない。近くにあるものがかろうじて見える程度である。
後ろの二人も相当怖いのだろうか。
ソロソロと歩いているらしく、私の足音だけがやけに響く。
夜の校舎というものは一種特殊な雰囲気があり、闇はより暗く、静寂もより深く感じるようになっている。
かく言う私も実は結構怖いのだけれども、この二人の手前そんな弱みを見せるわけにはいかない。
「…………」
しばし無言のまま歩いていく。
「お〜か〜だ〜」
「ひっ!」
階段を登ろうとしたところで、後ろからうらめしい声がして肩をたたかれた。
びっくりして思わず飛び退いてしまう。
振り返ると、ぼーぜんと佇む二人の姿。
「な、何よ。いきなり後ろからそんな風に呼ばれたら驚くじゃないの」
「ご、ごめん。それより…今あっちの方で何か光ってなかった?」
「え?」
吉井の指差す方向を見てみるが、特に変わった様子はない。
「別に何もないじゃない。守衛さんの懐中電灯かなんかじゃないの?」
「私も見たよ。青白い光がぼぉ…ってゆらめいてたの。あれ、きっと人魂よ!」
「またそんなこと言って、私を驚かそうとしてもダメだからね」
そう言って二人をにらむと、しかし二人は緊張したような表情で視線を違う方向に移していた。
その視線の先は―――私の後ろ。
その瞬間、背中がゾクッとして"何か"の気配を感じとった。
今振り向いてはいけない!
だが頭ではわかっていても、好奇心は簡単には抑制がきかない。
好奇心に負けておそるおそる振り向くと…その目の前に"それ"は居た。
青白く光る…そう、まさに人魂のような火の玉の中心に、内ハネでロングヘアーの女の子の姿。
「あの、長岡先輩に…」
「きゃああああああああああ!」
私は恐怖のあまり、"それ"が何やら喋るのを遮って脱兎のごとく逃げ出した!
「あ、まってよ岡田!」
待てない! 松本と吉井の二人も後を追うように走ってくるが、そんな余裕はない。
全速力で昇降口の所まで戻ってきて下駄箱の陰に隠れる。
「こ、ここまでくれば…ハァ、ハァ」
続いて後の二人もやってきた。
「岡田、走るのが速いよ…」
「ふぅ……疲れちゃった」
しかしそのセリフとは裏腹に、二人ともさほど疲れた様子がない。
よくもまあこの状況でそれだけ落ち着いていられるものだ。
どういう神経をしているのだろうか。
「なに余裕かましてるのよ! 今の見たでしょ? 本物の幽霊がいるなんて聞いてないわよ!」
「なに言ってるのよ。あの子うちの制服着てたじゃない」
「は?」
そういえば、吉井の言う通り学校の制服を着ていた気もするけど…
でも人魂みたいな物とか、うらめしい雰囲気もあったし…
「長岡さんがどうとか言ってたから、たぶん驚かし役として頼まれたんじゃないかな?」
「そんなこと言ってた?」
まあ、とっさに逃げ出したからそんな細かい所まで覚えてるはずもないんだけど…
「言ってたわよ。あんた、あの子が喋った瞬間逃げ出すんだもん」
「岡田、よっぽど怖かったんだ〜」
「うっさいわね! しょうがないでしょ、突然だったんだから!」
そう言いつつも顔が赤くなるのが自分でもわかる。校舎が暗いおかげで向こうにはわからないだろうが。
「まあいいわ。気を取り直して屋上に向かうわよ。タネさえわかっちゃえば怖くないわ」
「えー、まだやるの?」
心底疲れたという表情で言う松本と吉井。
さっき走ったこともあり相当疲れているようだが、このまま引き下がったのでは私の気が治まらない。さっき私が受けた以上の恐怖をあの関西女に与えなければ!
私は四肢に気合を込め、ふたたび屋上を目指して歩きだしたのだった。

「それにしても、さっきの人魂ってどうやって飛ばしてたんだろう?」
歩き始めたところで松本がふとその疑問を口にした。
「あの子手に何も持ってなかったし、後ろから誰かが吊るしてることもなかったし、仕掛けらしい物は見当たらなかったわよ」
「いいじゃないなんだって。きっと超能力かなんかでしょ」
そう言って適当にその話題を流す。
こっちはいかにして関西女のすまし顔を歪めてやろうかと必死に考えてる最中である。
「岡田、それはちょっと強引なんじゃ…」
「あ、でも聞いたことあるよ。一年の女の子に超能力が使える子がいるとかって」
思い出したようにそう言ったのは松本である。
よし、松本えらい!
(わたし内部、松本ポイント+1あげよう!)
そのまま二人で超能力談義でもやっててちょうだい。
「メイドロボットがいる時代なんだから、その話もあながち嘘じゃないかもよ?」
「人間って、結構いろんな事ができるのねぇ」
妙に感心した表情で、吉井はうんうんとうなずいている。
「よ、吉井?」
なにやら話が変な方向にいきそうで怖いんだけど…
と思った、その時だった。
ガシャーン!!
何かが割れる音が校舎内に響き渡る。
「こ、今度は何!?」
結構派手な音で、思わず身構えてしまった。
ガシャーン!!
また聞こえた。
しかし先程のこともあり、私はすぐに落ち着きを取り戻した。
一回深呼吸をして余裕の表情を浮かべる。
「たいしたことないわ。また誰かが驚かし役をやってるんでしょ」
「でも、この割れる音は本物みたいだけど?」
ガシャーン!!!
吉井の言葉に答えるように、ふたたび何かが割れる音が聞こえる。
確かにこれは本当に何かが割れているようだが、ガラスが割れるという音とは違う。
「これはきっと、空手少女かなんかが瓦でも割ってるんじゃないの?」
「だからぁ、さっきからタネ明かしが意味不明だってば」
「しょうがないでしょ。何となくそう頭に浮かぶんだから。細かいことは気にしてないで行くわよ」 吉井がつっこみを入れたくなる気持ちもわかるが、時間も惜しいので強引に話を打ち切って先に歩みだす。
「うーん…」
納得いかない顔をしつつも、二人とも一緒に歩き出す。

やがて先程の階段に行き当たった。
先程の失態もあったので、改めて気合を入れなおす。
「さあ、今度はちゃんと屋上までいくわよ!」
そして力強く一段目を踏みしめた、その時だった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
絹を裂くような女性の悲鳴。
三人に緊張が走り、思わず顔を見合わせる。
「上からよ!」
私はそう言い放つと、ダッシュで階段を駆け上る。
二階に上がったところで、ひゅっと廊下を駆ける人影があった。
暗くてよくわからなかったけど…
「今の…長岡さん?」
人影が過ぎ去った廊下を見ながら、吉井がそう言った。
「あんた、見えたの?」
「うん。今の長岡さんだよ。なんか泣きながら走ってたみたい」
この暗闇で人の顔がわかるものだろうか? しかも表情まで…
首をかしげながらも、とりあえず廊下に出てみる。
「何があったのかしら?」
廊下を見渡してみても、暗い道が延々と続くだけで、これといった変化もない。
「別になにも無いわよ・・・って、あれ?」
階段の方を見ると、今までいた二人の姿がそこにはなかった。
「えーと…? よしい? まつもと?」
どこかに隠れてるのかと思ったが、ここには隠れられるようなスペースもないし、そんな時間もなかったはずである。
「よしいー? まつもとー?」
もう一度読んでみるが、やはり返事はなかった。
「どこいったのよ…まったく。先に屋上にいったのかしら?」
そう呟きつつ私も屋上に向かった。

屋上の扉の前、身を潜められるちょうどおあつらえむき場所があったので、そこで関西女がくるまで待つことにした。
でもあいつら…、いったいどこいっちゃったんだろう……?
結局屋上に来てみたものの、二人ともそこにはいなかった。
一人でここにいるのも少々不安だけど、待っていればそのうち来るでしょう。

………来ない!
まさか二人とも帰っちゃったとか!?
いや…、黙って帰るような薄情なことは、あの二人はしない。
しょうがないわね…。
このままっていうわけにもいかないから、二人を探すことにしましょう。

階段を降りて、さっき二人を見失った場所まで戻る。
するとそこには二人はいなかったが、変わりに予期せぬ人物がいた。
お洒落とはまったく縁のなさそうなダサイ髪型。
いかにも委員長です、といわんばかりの真面目ぶった眼鏡。
その憎たらしい顔はこの暗闇でも見間違うはずが無いわ!
見つけた、ついに見つけたわよ関西女!
あんたのせいであの二人に無様な姿をさらすことになったんですからね!
その報いはたっぷり受けてもらうわよ!!
心の中で精一杯毒を吐きつつ、そろりそろりと階段を降りて目標に近づいていく。
物音を立てないように細心の注意を払いつつ、抜き足、差し足、忍び足。
そして、目標の真後ろに到達した…!!
吉井、松本、あなた達の死は無駄にしないからね。
この場にいない二人に弔いの言葉をかけ、空気を吸い込み、全力で驚かそうとしたその時だった。
スッ……
関西女がノーモーションでこちらに振り向き、目が合ってしまう。
やばっ、ばれた・・・!!
しかし、驚かそうとしたなんてわかったらそれこそ「低レベル」のレッテルを貼られてしまう!
こっ、ここはひとまず冷静に・・・
「ほ、保科さん。こんな時間にどうしたのよ? 私は長岡さんに呼ばれてきたんだけど」
いかにも胡散臭いが、黙っているよりましだろう。
「まさか、保科さんも呼ばれたの?」
ぽん、と肩を叩いた…つもりだった。
あるはずの手応えを感じる事無く、私の手は関西女の体を素通りした。
あ、あれ?
スカッ、スカッ!
何度も身体に触れようとしても、その手は空しく宙を薙ぐだけ。
嫌な予感がして、冷や汗が頬をつたう。
「なんや、うちを驚かしたかったんちゃうんか?」
関西女は、そんな私を楽しむかのようににやりと笑って言う。
そしてすぅっと空気に溶けるように透明感が増し―――
やがて、消えた。

ふたたび校舎内を静寂が支配する。

ゴクッと、私の喉が鳴る音が響き渡る。
この間頭の中は、情報整理のためにフル回転されていた。
先程までの出来事が走馬灯のように駆け巡る。
そして、たどり着いた結論は…
「そっか。あれは幽霊だったのね!」
そうよ! それなら今の出来事も納得できるし!
……って、ゆーれい?
今のが……ゆーれい!?
ユーレイっていうと、ゆうれいが幽霊で、ゆうぅぅーー!!?
「はぅっ!」
導きだされた結論の重みに耐え切れず、私の意識は遠ざかっていく。

…そして、声が聞こえた。
その声が、私の意識をわずかながらであるが、現実の世界とつなげていた。
「驚かしすぎたかな? 気絶してもーたで。どないするん?」
「校門まで運んでおけばいいんじゃない?」
「そうね。楽しませてもらったから、私たちで運ぼうよ」
聞きなれた声…
憎たらしい関西弁と、吉井と松本の声。
声の主はわかるけど、思考がうまく働かず、なにをしゃべっているのか判断ができない。
「しかし、芹香のじょーちゃんに呼ばれるのも久しぶりやったね」
「面白かったねー。また呼んで欲しいね」
「さて、この子を運んじゃおう」
「うん」
ふわっと、身体が浮いた感じがした。
重力ゼロの空間で漂っている感じ…
なんだかすごく、いい気持ち……
これは、夢なのかな?
まどろみのような心地よさに身を委ねながら、私の意識は混沌へ落ちていく―――

―――それからどれくらい時間がたったのだろう。
『岡田、起きてよ岡田!!』
誰かが私を呼ぶ声がする。
『岡田ってば、ねえちょっと! 大丈夫!?』
今度の声は、ふっと私の中に意識を戻してくれる。
うっすら見開いた目に、吉井と松本の姿が映し出された。
「あ、あれ? 私、一体…」
ぼーっとした頭を振って、意識と記憶を取り戻す。
「ここは・・・校門前?」
「そうよ。来てみたらあんたこんな所で倒れてるんだもん。びっくりしちゃったわよ。なんでこんなトコに寝てるのよ?」
気付いてみると、今の私は校門の壁を背にしてもたれかかっている状態だった。
いつの間に校門に来ていたのか、もちろん記憶にはない。
「そういえば、あんたたちどこ行ってたのよ?」
「待たせちゃってごめん。岡田の家に電話したんだけど、もう家を出たっていうからさ」
「電話しなくても直接私に…って、家に電話って何のことよ?」
「だから、急用が入って遅れるよって岡田の家に電話したら岡田がもういなくてさ」
「ごめんね〜。私も急にバイトが入っちゃってさぁ」
松本も、両手を合わせながら申し訳なさそうに頭を下げて言う。
「は?」
私は二人に向かってハテナマークを浮かべる。
「いまいち話が見えないんだけど?」
すると、今度は向こうが私にハテナマークである。
「だ・か・ら。岡田の家に電話をしたら、まだ帰ってきてないっていうから心配してきてみたんだよ。」
吉井の説明に松本がうなずく。
「そうだよ。そしたら、岡田が校門の前で倒れてるんだもん。びっくりしたよ」
二人とも、嘘を言ってるようには聞こえない。
どうやら本当に今来たようだ。
ということは、さっきの学校での出来事は一体・・・?
「それにしても岡田、ぐっすり眠ってたね。いい夢見れた?」
松本が、顔を覗き込むようにして言う。
夢・・・
そうか、夢よ! 今までのは全部夢だったのね!
変な人魂も、何かの割れる音も、悲鳴も、関西女が消えたもの・・・全部夢。
うん、そうに決まっている!
まったく、変な夢を見ちゃったわ。
「やけにすっきりした顔だね。ひょっとして、保科さんを驚かせたの?」
「うん、その話はもういいの。やっぱり肝だめしなんて子供っぽいしね」
「ふーん?」
すっと立ち上がり、スカートをはらう。
時計を確認するともう9時過ぎになっている。
これから実行するにはもう遅いし、さっきの夢もあって、いまいち気分も乗らない。
せっかくの準備が無駄になっちゃうけど、関西女を驚かすのはまた今度でいいでしょう。
「関西女に一矢報いるための計画ノート」には、まだまだ実行してない計画もたくさんあることだしね! うん!
「さて、帰りましょう。もうだいぶ遅い時間みたいだし」
そう言って荷物をまとめて、帰り支度をすませる。
白い布、財布、デジカメ…全部あるわね。
……デジカメ?
この言葉に、何かひっかかる。
夢の中で…デジカメ…
「あ、それ最新式じゃない。ちょっと見せてよ」
「ん、いいわよ。ほら」
興味津々という眼差しの松本に、デジカメを手渡す。
「何か写ってるね……何これ?」
「どうしたの?」
吉井も隣から覗き込んでいる。
学校に来た時に、メモリーは一回消してきたから何も写ってないはずだけど……
………。
思い出した。
夢の中で、一回撮っているんだ!
「ちょっと、見せて!」
松本からカメラを強引に奪い取って、画像をチェックする。
そして、そこに写っている物を見て私の身体は硬直してしまった。
「ねえ、この白い布、なに?」
松本が画像を覗き込みながら無邪気に聞いてくる。
当然、この画像に写っているのは、さっき吉井と松本を包んだ白い布である。
だが、それを認めるわけにはいかない。
あってはならない現実。
最も望んでいなかった結末が、その画像に映し出されていた。
そ、そんなっ!! だって!
私が押し黙っていても、松本はお構いなしに質問を重ねてくる。
「この布、どうやって浮かせてるの?」
事情をしらないとは言え、無邪気に訊ねてくる松本が恨めしい。
そう、松本の言う通り、この画像に映し出されていたのは白い布。
二人の姿はなく、ただ宙に浮かぶ白い布だったのである。
その意味を考えると、さーっと血の気が引いていく。
「これ、心霊写真みたいね」
心霊写真……
吉井のこの一言で、私の意識が断ち切られた。
「はうっ!」
「ちょ、ちょっと、岡田!?」
「こんなところで、いきなり寝ないでよ!」
寝てるんじゃなくて、あまりのショックに気を失ってるのよ!
反論を二人に聞かせることなく、またもや私は混沌へと旅立ったのだった。
「関西女に一矢報いるための計画ノート」がその真価を発揮する日は、いつになることやら……(涙)



おしまい♪