夢のつながり


空が赤く染まっている……。
燃えるような夕焼けの商店街に、何故か私は立っていた。
ここは、祐一さんとデートをした思い出の場所。
周りを見渡してみると、どうしたことか、人の姿がまったく見当たらない。
私、どうしてこんなところにいるんだろう?
確かさっきまで、公園で祐一さんといっしょにいて……
眠っちゃった祐一さんにお別れを告げて、それから―――

「あれ、栞ちゃん? どうしたの?」
一人呆然としていたところで、突然名前を呼ばれた。
聞き覚えのある声。
振り向くと、予想通りの顔がそこにはあった。
おもちゃの羽をパタパタさせた、かわいい女の子。
「あ、あゆさん。こんにちは」
「こんにちは、栞ちゃん。こんなところでぼーっとして、どうしたの?」
「それが、わからないんです。気付いたらここに立ってて……それに、この時間で商店街に人が全然いないから、ちょっとびっくりして…」
「うぐぅ……そう言えば。おかしなこともあるもんだねー」
にっこりと笑ってそう言う。
あゆさんは、この不自然な状況をなんとも思わないんだろうか?
「ところで、あゆさんはどうしたんですか?」
「ボクね、えーとね、うーんと……あれ? なんでここに来たんだっけ?」
首をかしげてそんなことを言う。
何事にも動じないし、やっぱり祐一さんと仲が良いだけあって、面白い人だ。
「……」
そんなことを思ってたら、あゆさんがこっちをじっと見ている。
失礼なことを考えていたのがわかっちゃったかな?
すると、あゆさんは思い出したようにこう言った。
「そうだ、落し物……」
そういえば、以前にもそんなことを言っていた。
落し物を探しているとか……
「あの、まだ見つかってなかったんですか? 落し物」
「ううん。たった今、落とした場所を思い出したから、これから取りに行くんだよ」
「そうですか、それはよかったですね」
「うん……」
しかし、答えたあゆさんは何故かうつむいてしまった。
「あの、どうかしたんですか?」
そう聞くと、あゆさんはまた笑顔をつくって
「ううん、なんでもないよ。ところで、栞ちゃんもいっしょに来ない?」
「私……ですか?」
「うん。栞ちゃんに、来て欲しいんだ」
真剣な表情でそう言う。
「はい、かまいませんが……」
「じゃあ、行こう。こっちだよ」
そうして、あゆさんに連れられて落し物があるという場所まで案内された。


「あ、この場所は……」
祐一さん達と初めて出会った場所だ。
コンビニに行った帰りに歩いていて、そこで―――
「あ、ひょっとして、ここでぶつかったときに落としたんですか?」
「あはは…そうじゃないよ」
そして、あゆさんはたくさん植えられている樹の中の、ある一本の前に立った。
「あの、そこに?」
「うん、この樹の根元に……」
あゆさんは、しゃがんで土を掘り起こし始めた。
冬の土はまるで凍ったように硬く、冷たいので、素手で掘り起こすのは重労働だ。
「うぐぅ……冷たい」
案の定、手が真っ赤になっていて、傍から見てつらそうだ。
あゆさん…そんなに大切なものが、そこにあるんですね。
「私も、お手伝いします」
あゆさんの横にしゃがみこんで、私も土を掘り始める。
「栞ちゃん……ありがとう」
「それで、どれくらいの深さにあるんですか?」
「1メートルくらい」
「……」
「って、祐一君なら言いそうだよね」
「そういうこと言う人……今は、嫌いじゃないです」
「あはは」

二人で掘り進めていくと、薄茶けた物体が見えた。
「あ、何かありますね」
掘り出してみると、それは小さな、あゆさんのように羽の生えたかわいい人形だった。
「この人形が?」
「うん」
「でも……随分ボロボロですね」
「うん、7年前の物だからね」
7年前……?
あゆさんを見ると、笑顔とも泣き顔ともとれる表情で、人形を手にとって見つめている。
その姿はとても儚げで、夢の中にいるんじゃないかと錯覚を起こすほどである。
「祐一君は、もう私がいなくても大丈夫なんだね」
人形に向かってあゆさんがつぶやく。
え?今、祐一さんがどうとか……
「あの、その人形、祐一さんと何か関係が?」
「この人形はね、どんな願いもかなえてくれる奇跡の人形。祐一君からもらったんだ」
奇跡―――
そのフレーズを聞いて、すべてを思い出す。
そうだ、私は、今……。
でも、すると、この世界は?
なおも、あゆさんは続けて言う。
「栞ちゃん、言ってたよね。奇跡は、起きないから奇跡だって」
「え、なんで……」
確かに言ったけど、あゆさんはあの場にはいなかったはずじゃ?
「ボク、全部知ってるよ、この世界のことは。だってここは、栞ちゃんと祐一君たちの世界でもあるけど、ボクと祐一君の世界でもあるんだから」
「……?」
いまいち、よくわからない。
「そして、ボクと祐一君の世界では、奇跡はちゃんと起こるんだ。たった1回だけ、人が、誰かのために、心から願うことによってね」
「奇跡が……起きる?」
そんな都合のいいこと…あるわけない。
奇跡を信じて失望するよりは、最初から無いものと考えたほうが気持ちが楽だ。
しかしあゆさんは、私の想いを見透かしたように、そして、なだめるような口調で言った。
「栞ちゃん……キミは、祐一君の傷ついた心をボクの代りに包んでくれた…。こうして同じ世界を共有できてるんだよ。だから、キミにも奇跡がきっと起こる」
「あゆ……さん」
なんて、穏やかな表情なんだろう。
あゆさんは、本物の天使と見紛うような微笑みを浮かべている。
「ほら、栞ちゃん……祐一君が呼んでるよ。はやく帰らなくちゃ」
「あの、あゆさんは、これからどうなさるんですか?」
一瞬の沈黙。
この沈黙が、逆に全てを物語っている。
「栞ちゃんが目を覚ましたら……そこで、この夢は終わり」
「終わりって……私の夢が終わると、どうなるんですか?」
「ボクはね、今、栞ちゃんと同じ世界に存在している。そして、片方の世界がなくなるとすれば、 当然ボクの世界も夢と共に…」
「と、いうことは?」
あゆさんは、コクリとうなずいた。
「栞ちゃん、祐一君をよろしくね」
そして―――
あゆさんから羽根が飛び散り、温かい光に包まれる。
それが夢の終わりの合図で、今度はまばゆい光が飛び込んできた。


「う……ん」
ここは…病院……?
私はいったい……
「栞?」
懐かしい声が耳から入ってくる。
「あ、お姉ちゃん、おはよう・・・」
「ばか、『おはよう』じゃないわよ。何日寝ていたと思ってるの」
そう言って、向こうを向いてしまった。
カレンダーの日付を見ると、もう3月になっている。
「あはは、大寝坊だね」
「まったく、名雪だってそこまでひどくないわよ」
名雪さんか……祐一さんの彼女って言ってくれたとき、嬉しかったな。
祐一さんは、もう私のことなんか忘れちゃったかな?
会いたいです……祐一さん。
「ところでお姉ちゃん、学校は?」
「あせらなくても大丈夫よ。まだ春休み中なんだから」
「そっか。新学期からは・・・・・・きっと、一緒に学校行けるよね、お姉ちゃん」
「栞っ―――」
そして、不意に抱きしめられる。
「…苦しいよ、お姉ちゃん」
そういえば、お姉ちゃんの泣いた顔って初めて見た気がする。
私も、こんな時は泣いてもいいんですよね、祐一さん?


あの日以来、よく同じ夢を見るようになった。
そして今日もまた、同じ夢を見ている。

タイヤキを持っているかわいい女の子。
天使のような笑顔を浮かべて
天使のような羽を揺らしながら
街のはずれにある大きな樹に向かって
女の子は元気に走っていた



FIN

【スペシャルサンクス】
いろいろとアドバイスしてくださった
Crockさん
朝倉 惇さん
ありがとうございました。