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MOON Short Story



力と日常




by 純矢




「こら、いい加減に起きなさい。」
 お母さんが何かいっている。でも今日は休日だから絶対昼まで寝てやるのだ。
「ほら、今日は約束があるんでしょう?」
 お母さんがさらに何かいっている。そういえば今日は何かあったような・・・・

   !!

がばっ!

そうだ今日は友達と約束があったんだった!
「お母さんおはよう!今何時!?」一瞬で起きる。意識も一気に明白になる。
 お母さんは黙って目覚まし時計をさしだす。やばい、ぎりぎりに近い。
「もうこんな時間!どうして起こしてくれなかったのよ!!」
「何度も起こしましたよ。あなたが起きなかったんでしょう?」
「約束があると知ってるなら、多少乱暴でも早めに起こしてくれるべきじゃない!」
焦っているのもあって結構理不尽かもしれない文句を言う。冷静なら絶対いわない。なぜなら、
「あら、そうしてもよかったの?」
お母さんがにっこり笑って言う、しかし私の周りの空気は確実に5度は下がった。お母さんの周りにチカラがまといつくように集まるのがわかる。
「い、いえ、結構です!やっぱり朝は平和的に起こすべきです!」
引きつった顔で必死に答える、いぜんの”乱暴な”起こし方が頭をよぎったのだ。
「あらそう?じゃあ早く用意していらっしゃい。朝御飯できてるわよ。」
一転してにこやかに笑って出ていく。
「ふう」 息をついて着替え始める、こう見えても準備は早いほうなのだ。さらに自慢ではあるがかなりの美人なので大して手間をかけなくともばっちり決まる。着替えてキッチンに出る。
「あら?ねぼすけさんがようやく起きてきたみたいね。」
キッチンのテーブルでコーヒーを飲んでいた女性がこちらをみて声をかけてきた。
「おはようございます、晴香さん。」
女性の名前は巳間晴香、お母さんの一番仲のいいお友達三人の中の一人だ。
「おはよう、約束があるのに寝坊するだなんて由衣みたいな事してると彼氏ができないわよ。」
むか、この人はいつも一言多い。
「由衣さんもちゃんと結婚してるじゃないですか、現実に嫁き遅れている人にいわれたくはないですね。」
「何ですって!あたしが結婚しないのはあたしに見合う男がいないだけよ!望みもない貧乳の小娘と一緒にしないでほしいわね!」
売り言葉に買い言葉、感情が高まっていくにつれて二人の周りにチカラが集まってゆく。
「なんですって!だいたいおばさんは・・・!」
「おばさんですって!?よくも言ったわね!今日という今日は・・・」
周りの空気が帯電していく。ヒートアップしてきたあたしたちの争いを止めたのはお母さんの穏やかな一言だった。
「あらあら二人ともおしおきかしら?」
「い、いいえ!そんなことはありません!あたしと晴香さんはいつも仲良しです!」
「そ、そうよ。お仕置きだなんてそんなことあるわけないじゃない。」
二人そろって冷や汗を流している。あたしには生まれたときから普通の人にはない力があり、お母さんやお母さんの友達の晴香さん、葉子さんも力を持っている。もう一人の友達の由衣さんは持っていない。力の大きさだけなら、あたしがお母さんより少し強いのだけど、使い方の違いかお母さんにはさっぱりかなわない。晴香さんは大きさそのものがあたしやお母さんより弱い。葉子さんは持っているそうだけど、使ったところはみてない。
あたしの力は生まれつきだけど、お母さんたちの力は過去に何かあって身に付いたらしい。そのことについて聞いてみても、「あなたにはまだ早いの、もう少し大きくなってからね。」といってばかりで教えてくれない。昔一度他の人と違うことに悩んでいたとき、「あなたの力はあなたのお父さんから受け継いだ大切なものなの。そのことを忘れずに、力を大事にして他の人の害にならないように自分を強く持っていなさい。」とだけ教えてくれた。つまり少なくともあたしの力はお父さんが起源らしい。
あたしにはお父さんがいない、昔に亡くなったのだそうだ。お父さんがどんな人だったのか、お母さんは教えてくれないし、由衣さんも知らないらしい。晴香さんと葉子さんは何か知っているようだけどやっぱり教えてくれない。ただ、お母さんが子持ちにもかかわらず引く手あまたなのにさっぱり誰にもなびく気配がないのはお父さんを忘れられないためのようだ。
お母さんの過去には謎が多い。晴香さんたちと知り合った経緯やお祖母さんが亡くなった理由についてもあまり語ってくれない。自分が不幸だと思うこともないけど、自分の親に知らない過去があるのはあまり気分がよろしくない。
「ほら、もう時間なんじゃないの?」
お母さんが時計を指し示す。本気でやばいかもしんない。
「ああっ!晴香さんのせいで朝御飯食べてる時間もないじゃない!いってきまーす!」
靴を履いて急いで出ていく。後ろで晴香さんが何か文句を言っているようだが聞いてられない、時間がないのだ。
周りに人はいない、チカラを使って走る。元々足は早いほうだが今なら世界記録も軽いだろう。自分になぜこんな力があるのか不思議に思うことがあるが、いまはもう深くは考えないようにしている。お父さんが宇宙人だったとか悪魔だったとか適当なことを考えて済ませてしまう。悩んでも仕方がない。大好きなお母さんとあたしの面倒をみてくれる晴香さん達、それだけで今は十分幸せだ。まあすてきな彼氏がほしいと思うこともあるけど。
人がいる通りが近い。チカラを使うのをやめてふつうに走る。待ち合わせ場所が見えてきた。みんなもう集まっているのが見える、また文句を言われそうだ。
「遅いよー!未悠!」
「ごめーん!」
さあって、きょうはあそぶぞー!!



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