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Original Novel kaeru Presents



Me・Her






 平沼透(ひらぬまとおる)。16歳。有名進学校に通う高校2年生。
 進学校にいながらも、成績は上の上。つまりはトップクラス。
 誰もがプロフィールを聞いてガリベン君を想像するが、実のところド派手な金髪ナンパ男――少なくとも外見は。
 家庭環境は普通と違う。幼い頃に両親を亡くし、母方の叔父夫婦の元で育てられている。
 義理の姉が2人。一人はイッコ上。もう一人は大学2年。
 俺、平沼透の中身は、俺にしか分からない。当たり前だけどな。
 実際のトコ、ただのリクツコゾウなんだよな。
 面白くも何ともない、一人の霊長類ヒト科。
 多分、な。
「で、任意同行の目的は何ですか」
「ま、座りなさいな」
 放課後。西日差し込む職員室。
 とてつもなくタバコ臭い。喫煙室、作れよな。
 友人が職員室の悪臭を“購買のカツパンの臭い”と評したが、うまいことを言うもんだ。
 とってもジューシーな臭いがする。気持ち悪ぃ。
 担任の伊園貴一が、キャスター付きの椅子を滑らせる。自分の受け持つ授業が終わればさっさと帰宅する、暇な家庭科担当教師の椅子だった。
「用事あるんで、手短にお願いします」
 俺は慇懃無礼に言う。
「嘘でしょ。どーせいつものように映画館行って、洋画観るくらいのモンだろ。ホラ、座った座った」
 かく言う伊園も、タバコ臭い職員室で、タバコをくわえながら俺に座れと命令している。
 俺は伊園に従い、椅子に腰を落ち着けた。
「単刀直入にお願いします。俺は回りくどいの嫌いだし、何言われても驚きませんから」
 伊園は顔を横に向け、紫煙を吐き出した。
「じゃ、言う。金髪ヤメロ」
「これですか」
 俺は頭に手を置いて聞き返した。伊園がああ、と頷く。
「“頭のいい”お前のことだ。そう言われるこたぁ予想済みだったろ」
「そーっすね。でも敢えて訊いときます。ナンデダメナンデスカ?」
「進路指導の連中がウルサイから」
 全く持ってうざったそうに、伊園は答えた。
 サスガだ、伊園。こーいう所は妙に親近感が湧く。
 しかしながらコイツの立場はあくまで教師。
 で、俺は生徒。
「ほとんどの教員が帰ったからって、あんま好き勝手言わないほーがいいっすよ、センセー」
「ほとんどの教員が帰ったからこーいうこと言ってんのよ。なぁ、トオルくん」
「周りの先生、聞き耳立ててますよ」
「そっから漏れたら、俺はもう知らん……とにかくだ、俺としちゃあ、お前がどんな髪にしようが構わない。やることさえやって、世間様に迷惑かけなけりゃ問題ない。どーいうことかお前は成績優秀、品行方正らしいからな」
「らしい、じゃなくて、実際そうなんですよ」
 伊園が鼻から煙を吹き出す。
「それを鼻にかけたら、イイ男が台無しだぞ、平沼」
「誰も鼻にかけちゃいませんよ。本当のことを言ったまでです。でも俺は、イイ男じゃないですね」
「食えないヤツだ」
「それはお互い様ですね」
 伊園はつまらなそうにタバコの火をもみ消すと、机上の片隅にあった没収品を俺に放った。
「ホラよ、エロマンガ」
「その節はドウモ」
 俺は没収品を回収すると、適当に礼をし、職員室を後にした。
 今日はサイアクの日か。
 微妙なラインだ。


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