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Original Novel kaeru Presents



Me・Her






 帰宅後、養父である叔父さんより先に風呂を浴びる。
 で、夕食を平らげていつものように2階のベッドでリラックスタイム。
 今日のネタは田所から借りた「Me・Her」。繰り返しておくが、エロマンガに非ず。
 俺も中身は知らなかったが、どうやら恋愛モノらしかった。
 薔薇の背景とか、白馬の王子さまなんてモノとは縁遠い、実に殺伐としたオーラを発していた。
 ひたすらに、破局しまくる。赤い糸が切れる、切れる。そりゃもうぷっつりと。
 遠距離恋愛は実らない――こりゃ、まあ当たり前だわな。
 幼なじみは相思相愛になった末、殺し合う――それは、愛憎ってことかい?
 永きに渡りイバラの道を共に歩んだ2人が結ばれ、でもそれは片思いの野郎の夢でしたっていうオチ――夢オチは反則だろ。
『恋愛なんかにウツツヌカシテんじゃねえよ』
 ということを言いたいだけの、くだらないヒガミマンガだったような気がする。少なくとも俺にはそーとしか取れなかった。
 いや、寒いね。体の芯まで冷え切ってしまったよ、俺は。
 田所はこれのどこに涙したと言うんだ?
『恋愛は難しいけれども、それでも牧村という彼女と確かな愛情で結ばれている俺は幸せ者だ』
 とでも思ったんだろうか。田所は楽観主義者だから、そう思ってても不思議ではない。
 でも、それは過程であって、普遍の事実ではないのだよ。
 このセリフを口にすることは、多分無いな。
 いや……田所と牧村が別れたら、どっちかに言うかもな。
 俺って、スゲェ性格ワリーや。
「トオル! クラスのお友達から電話!」
 階下から、俺を呼ぶ養母の声。「Me・Her」の表紙を眺めたまま固まっている自分に気づく。
 ケータイ持ってんのに、わざわざ宅電に電話かよ。ナニモノだ?
 俺は階段を降り、メヌエットの保留音を奏でる居間の受話器を取った。
「はい。お掛けになった電話番号は現在使われてネェよ」
『い、いきなりなんだよっ。俺だよ、同じクラスの西紀章(にしきあきら)』
「あ。ああ、西紀ね。お掛けになった番号は現在使われてネェよ」
『そんな冷たくしないでくれよ。ちょっと、頼みがあってさぁ』
 全く、何を言っているんだ、コイツは。
 俺のケータイ番号を知らないような、疎遠な間柄だというのに、言うに事欠いてお願いですか。
 こういう場合、悩める青少年としては大抵が俺と繋がりのある女子との間を取り持ってくれ、とか言うケースが多い。
「で、何?」
『今、角倉公園まで出て来れないかな?』
 俺は少し考える。相手の目的を推測する。何か雲行きが変だ。
「別に構わないけど、電話口で済む用件ならこの場で言ってくれ」
『電話じゃ……む、無理なんだよ』
「どうして?」
 電話口の西紀はヤケに焦っているようだった。俺としてはそれが不気味でならなかった。
『平沼、あ、あのさ……金、貸して欲しくて』
「Money?」
『そ、そう。マネー。金だよ』
 俺は居間にいる養父母にダイレクトに伝わらないように、思いっきり流暢な発音でそう言った。それでも2人の怪訝な視線が突き刺さる。当たり前だ。
「用途は?」
『ようと? あ、ああ……使い道は……プレゼントだよ、プレゼント。ホラ、俺の彼女、誕生日1週間後だろ?』
 知らねえよ、お前の彼女の事なんて。
「それで、プレゼントを買いたいと、そーいうわけかい?」
『そうなんだ。俺、バイトしてんだけど、今月無駄遣いしちゃってさ。ホンットワリぃんだけど、5000円ばかし貸して欲しいんだ。頼むよ』
 コイツは、絶対なんかある。
 でも、いいや。知った事じゃない。
「分かったよ。5分くらいで行くから、待ってろ」
『ああ、恩に着るよ』
 がちゃん。受話器を粗暴に置く。
 振り返ると、白髪混じりの――いや、頭髪のほとんどが白髪の養父母は心配そうな顔で俺を見ていた。
「トオル……友達に対してそんな冷たい応対はないと思うぞ。改めなさい」
「友達は大切にしなくちゃダメよ」
 自分の子供ではないから、なおさら“まっとうな人間”に育てなければいけないという意識の強い人たち。
 迷惑掛けてるよなぁ、俺もさ。
「ああ、そうだね。気を付けるよ」
 俺はパーカーにジーンズというラフな格好のまま、サイフを持って家を出た。


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