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Original Novel kaeru Presents



Me・Her






 10月も半ばを過ぎ、夜の空気はいっそうに冷たさを増しはじめていた。結構厚手のパーカーなのに、自転車を漕いでいると冷気が流れ込んでくる。
 冗談じゃねえぞ、西紀のヤロウ。
 俺の家の近くを指定してきたのはせめてもの礼儀なんだろうが、ムカツクものはムカツク。倍返しを要求してやる。
 きっ。
 手入れ不足の銀チャリが、さびたブレーキ音を立てる。
 目の前の標識には「角倉公園」。ここだ。
 滑り台側の唯一の街灯。その儚い灯りで、広い園内を見回す。
 園内に歩を進め、街灯に照らされたベンチを確認するが、人影はない。
 灯りの全く届かない、錆び付いたブランコの側に、西紀はいた。
「ワリぃな、平沼。いきなり呼び出しちまってさぁ」
 暗闇で、西紀は気味の悪い笑い声をあげた。
「全くだ。何でこんな時間に呼び出しなんかすんだよ。昼間にでも言ったらよかったのに」
「いや、ワリぃ。急な話だったモンで……」
「彼女の誕生日が、急な話かよ?」
 俺の言葉に、あからさまに西紀はうろたえた。
「ついさっきまで忘れてたんだよ。で、ふと思いだして……そういやあいつ、いつも欲しがってたモンがあったっけなって、ショッピングモール見て回ってたら……期間限定で、その、何だ……とにかく、安く手に入るって事だったんだよ。その期間が、今日までだったから」
 俺は腕時計を確認した。夜光塗料で、針が浮かび上がっている。
 午後10:33。
「こんな時間まで、その店空いてるワケ?」
「え、あ、うん。絶対に今日中に買いますからって、頼み込んどいたんだよ。何だよ、ヤケに詮索すんなぁ……そんなに俺に金、貸したくないの?」
「いや、そんなことじゃねえ。俺は返してもらえるんならそれでイイから。ホラよ。彼女、喜ぶといいな」
 俺は財布から5000円札を取り出し、西紀に渡した。ヤツの手のひらはヤケに汗で湿っていた。
「さ、サンキュな平沼! 絶対返すから。それじゃな!」
 俺から金をもぎ取るなり、西紀はあっという間に姿を消した。
 一緒のクラスにいたのに気づかなかったが、今、はっきりと分かった。
 西紀のシルエットは、明らかに、ヤツが痩せ細っていることを俺に印象づけた。
 サイアクだ、あのヤロウ。
 そんで俺も、サイアクだ。


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