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Original Novel kaeru Presents



Me・Her






「ねー三鷹さん。覚醒剤ってやったことある?」
 昼休み、とうに弁当を食い終わった俺は、隣の席でツナサンドをかじっている三鷹琴美に声をかけた。
 三鷹が軽くむせた。
「え、無いよ、そんなの。こわいモン……トオルくん、エッチなマンガの次は、覚醒剤?」
「へぇ。三鷹さんって、一言多い人なんだねー。面白い事実発見」
 へらへらと三鷹を眺める。サスガに食事中に見つめられて、三鷹は軽く赤面した。
「な、何なの?」
「別に、ただ訊いてみたかっただけ。意外と三鷹さんみたいなおとなしいタイプのヒトが、そーいうモンに手を出したりしてるってのが専らの噂なモンで。三鷹さんは違うやね」
「からかわないで。怒るよ」
 ホントに機嫌を悪くしたみたいだ。
 俺ってどーもイヤラシイ訊き方しか出来ねえんだよな……
「ごめん。謝るよ」
「え、うん……イイよ、別に」
 急に素直に謝る俺に、三鷹は拍子抜けする。やっぱ俺ってすげえ変なヤツだ。
「でも、どうして急に覚醒剤の話なんて出てくるの?」
 三鷹はウーロン茶でツナサンドを流し込んで訊いた。
「あー、ちょっと事件が起こりそうな雲行きでね」
「事件?」
「いや、起こりそうっつーか、現在進行形なんだよね、きっと」
「え、なになに?」
 三鷹が興味津々の様子で身を乗り出す。全てに我関せずを徹底しそうな外見に似合わず、好奇心旺盛らしい。
 俺は考えるまでもなく、口を閉ざすことにした。
「あー……ここまで話をふっといて悪いんだけど、これ以上は言えない。失敬」
 あからさまに三鷹は機嫌を損ねた。
「何それ。中途半端にやめるんなら、始めから話を持ちかけたりしないでよ」
「ごめん。それはごもっともなご意見です」
「もういい。話しかけないで」
 三鷹は昼食に戻った。
 俺は苦い顔で席を立つと、星埜の席に向かった。おしゃべり好きの星埜は、いつものように仲間3人とベラベラ喋りながら箸を動かしていた。
 口から食ったモンが飛んでるぞ、うら若き乙女よ。
「あぁら、トオルさん。ご注文は?」
 俺に気づくなり、星埜は変な調子で声を上げた。
「テメエはどこぞのホステスか。やめてくれ」
「あーはん。失礼しちゃうわ。目一杯サービスしたげるわよ」
「いらん。別の人に代わってくれ」
「……で、用件は何? トオルくんから話しかけてくるなんて、珍しいじゃない」
「質問。西紀の彼女はどこのどいつだ?」
 星埜はおしゃべり好きなだけあって、学校内に関する情報は豊富に持ち合わせている。色恋沙汰となればケタが違う。
「西紀って、西紀章?」
 星埜がクラスの片隅で雑誌を読む西紀を見やって訊く。
「そうだ。ヤツの彼女は誰か教えてくれ」
「彼の彼女は……2組の瀬戸渚(せとなぎさ)さん。まさか、狙ってるの?」
「違うよ。お前の脳味噌はそっちにしか回転しねえのか」
「失礼しちゃうわ。彼女、瀬戸さんは男子に凄い人気があるから、ひょっとしたらあんたみたいな朴念仁でも虜にされたのかと思っただけよ」
 星埜は鼻を鳴らした。
「ほー、その瀬戸さんとやら、そんなに人気あるんか?」
「そりゃもう。学年男子の最低2割は彼女を支持してるとみるわ。でも瀬戸さん、ガード固いことでも有名で、西紀君と付き合って以来告白撃沈率は100パーなのよ」
 なるほど。段々話が見えてきた。まだ瀬戸渚を確認していないからどうとも言えないが。
「みんな『どうして西紀みたいなただのとっぽいヤロウと付きあってんだ』って、不思議がってるのよね。私も……不思議ね。改めて彼を見ても。最近の彼、人にお金を借りて回るようなセコイ真似してるらしいし」
 人に金を借りて回る。
 チクショウ、やられたか。分かってたことだが、大衆と同じ目に遭うのは十把一絡げにされたようで気分のいいモンじゃない。
「お前だって、人のこと言えないぜ」
「相変わらずいちいちムカツクわね。情報提供の恩を仇で返してくれちゃってさ」
「ムカツキ結構。じゃあな」
 自分の席に、踵を返す。
 背後で星埜のおしゃべり仲間の忍び笑いが聞こえる。星埜が中指を立てているのが気配で分かる。
 面白いヤツだ、相変わらずな。
「後でケーキぐらいおごってやるよ。情報感謝する」
「1個じゃ足りないからね。そうね……せめて、3つ。プラスシナモンティー」
「あいよ、承知した」
 俺が振り返ると、星埜は中指を慌てて引っ込めた。
 バレバレだっつーの。


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