Back/Index/Next
Original Novel kaeru Presents



Me・Her3 空回る傀儡少年


3.ボランティアの境界線



「倉上か。トオル、なかなかいいセンスしてんじゃねえの」
「うーん、そーかな? 倉上さんって……悪いけど、同じ中学出身の私としてはイマイチだと思うわ。確かにルックスはクリアしてるかも知れないけど、あの人に媚びるような性格はねえ」
 2時限目の休み時間に、ふと倉上の告白のことを友人に話すと、それぞれの反応が返ってきた。
 田所はなかば好意的。
 反対に、星埜亜柚夢(ほしのあゆむ)はしかめっ面でもの申した。
 それよりも何よりも、2人とも倉上聡美のことを知っていることに俺は驚いたんだけど。
「あんなあ、星埜。それは同性のお前から見たときそう感じるだけなんだよ。ヒガミ根性に近いぜそりゃあ」
「なっ、ムカツクわね。勝手に悟り開いたように語ってんじゃないわよ……それはつまり、私が倉上さんよりブサイクで、私が彼女を悪く言うのは嫉妬してだっていーたいわけ? 冗談じゃないわよ」
「おいおい、ルックスに限定して言ってるワケじゃねえだろう」
 話題の中心が俺からずれかかっている。
「とにかくさ、もう会うって事にオーケー出しちまったんだから、結論は日曜日って事になるんだよ。いちいち言い争わんでくれや」
 俺が口を挟む。
「別に争ってなんかないわよ。突っかかってきたのはモトヒロの方で、私じゃないもの」
「あっそ……ワリぃな」
 子供のように己を正当化しようとする星埜と違って、さっさと引く田所の方が一枚上だ。
「トオル、日曜日に会う前に、一度倉上を見といた方がいいんじゃねえ?」
「アユムー、ちょっといい?」
「なにぃー?」
 田所が言う横で、友人に呼ばれた星埜はさっさとどこかに行ってしまった。
 俺はかぶりを振った。
 どんな人なのか確かめたい気持ちも山々だが、ここは一つ、日曜日までお預けにしておこう。俺は何故か、直感的にそう思う。
「開けてビックリ、玉手箱ってか?」
 田所がおどけて見せた。
「どーだろうなぁ……ま、いつ会おうが結局は同じ事だし、可愛くてもそーじゃなくても、俺が気に入るタイプってのは良くわからんしな。“顔よりも性格”ってよく言うけど、今の俺にはキレイ事にしか聞こえないのも事実だし……あー、とにかくいいんだ。日曜日、直で行くよ」
「ああ、それもいいかもな。お前の意思で決めんのが正解だろ」
 田所は俺から顔を背けると、隣の机に寄りかかって伸びをした。
 目の前に立ちはだかっていた田所が動いたから、黒板が視界に入る。日直の女子――仲渡小夜(なかとさよ)が黒板消し片手に、板書を消していた。身長の低い仲渡は背伸びしたりして懸命に腕を動かしている。
 あ、粉でムセた。
 何か見てらんねえなぁ。
「ちょい、貸して」
 黒板に歩み寄って声をかける。と、仲渡のメガネの奥の瞳が、怪訝そうに細まった。
「え……平沼くんて日直じゃないよね?」
「ま、気にせずに」
 俺はひょいと彼女の手から黒板消しを拝借すると、板書を消した。
 紺の制服に白チョークの粉がまとわりついて、なかなか取れない。日直の宿命だ。
「ねえ、平沼くん」
 ポンポンと粉を払っていると、仲渡がぼそっと口を開いた。
「余計なこと、しないでくれる?」
 ずしりと、重い一言。
 ……しまった。相手を選ぶんだった。
「ワリぃ。ついついお調子者の血が騒いじまってな。謝る」
 仲渡は鼻を鳴らして俺を一瞥すると、傲然と席に着いた。彼女は小柄な割に気が強く、加えてワガママな性格の持ち主だ。クラスから煙たがられる存在である。
 仲渡が相手じゃなくても、いつもこんな女たらしみたいな真似をしたら周囲に敵を作ることになるんだろうな……下心ナシなのに、うまく行かないもんだ。いちいち悲観するのも馬鹿らしいが。
 教室の後ろを見ると、田所が肩を震わせて笑っていた。
 その仕草は、
『仲渡相手にそりゃまずいぜ、トオル』
 と、あからさまに訴えていた。
 いろんな点でかなわねえな、田所には……



Back/Top/Next