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Original Novel kaeru Presents



Me・Her3 空回る傀儡少年


4.前世は傀儡師



 太平洋側の冬は晴れの日が多い。
 12月18日、日曜日。
 今日もそのご多分に漏れず、快晴とまでは行かないまでも青空眩しい晴れの日だった。
 いつも通り、午前7時に起床。7時半に朝食。食い終わって時間をおいて朝ブロ。
 と、一連の慣例を済ませると時計の針は9時を示していた。
 その後、英文法と部分積分の勉強をこなし徐々に約束の時間は近づいてくる。
 太陽が南中し、昼飯を食うため台所に俺は向かう。
「……ぉはよ」
 寝ぼけ眼のなごみネエが、乱れたパジャマ姿のまま、モーニングコーヒーに口を付けていた。椅子に座って、だらりと机に身を預けるその様は、ナメクジのようでもある。
 ……はだけた背中から、パンツ見えてるしよ。
『……午後も全国的に晴れ、絶好のお出かけ日和です』
 当たり前に点けられたテレビの天気予報が、今日の天気を告げていた。
「はよ、じゃなくてこんちはだろ。なごみネエ、そのグータラ生活にいい加減見切りつけねえと大学落ちっぞ? ただでさえ模試D判定なのにさあ。大体、センターまで後1カ月切ってるダロ?」
「ン……ああ、そーねえ……でもさ、女って勉強できなくても世の中渡っていけるから大丈夫」
「何だよそれ。お水の世界にでも入ろうってのか?」
「そうそう。私の志望校はお茶の水女子ー」
 まだ寝ぼけてやがる。これだから低血圧の女は。
「いいのよ。私もみやびネエみたいに、稼ぎ頭のオトコとくっつくからさ」
 あくびをしながら、くしゃっと茶髪を掻き上げる。
 こういう女に引っかかるオトコって、一生を棒に振るんだろうな、とか、変な心配が頭をよぎった。あながち間違いでもないっぽい。
 ま、女に貢ぐのが生き甲斐って言う男も少なくないだろうから、それはそれでバランスとれてんのかな……
 少なくとも、俺はそんなアマちゃんじゃねえぞ。
「ラブラブ彼女とデート、今日だねー」
 俺が向かいの椅子に座るなり、突拍子もなくなごみネエは言った。
「だから何なんだよ。なごみネエは受験生らしく、おとなしく勉強してろ」
「成績優秀だからって生意気言うんじゃないわよ」
「バカヤロウ。俺だって努力あっての今の学力なんだよ。年がら年中ゴロゴロしてるなごみネエから文句言われる筋合いはない」
 なごみネエは辟易した表情になる。
「まったく、出来のいい人間ってこれだからなあ……弱者の入り込む隙がないもんね」
 おいおい、俺が悪者みたいな言い方するなよな。
「母さん、ご飯まだー? あたし、これから映画観に外出るんだけどー」
 なごみネエが壁一枚隔てた向こうに声をかける。
「もう少し待ちなさい」
 母の声。心なしか苛ついているようだ。
 そりゃ、受験を控えた娘がこんな気の抜けた生活してたら機嫌も悪くなるわな。
「朝起きたばっかりでよく食欲があるもんだ」
 俺は感心して声を漏らした。
「1日の食事の内、一番大切なのは朝食よ。それくらいあなたなら知ってるでしょ」
「知ってるが、もはや昼食だと思うぞ」
「起きて一番初めに摂る食事は朝食と呼ぶのよ」
「それは定義と違うぞ、きっと」
 なごみネエがムッとして、髪を掻きむしった。
「あー、うっさいわねぇ。とにかく、ノーミソに栄養を与えてやるの。黙ってなさい」
「へいへい……って、映画、1人で観に行くのか?」
「違うわよ。2人で」
「ほー、相手はオトコ?」
「そうね」
 俺はしばし沈黙し、
「なるほどねえ」
 窓の外の緑を観ながら、しみじみ呟いた。
 程なくして、カルボナーラとコンソメスープが食卓に運ばれてきた。
 俺は空っぽの胃にパスタをスープと一緒に流し込むと、コートにマフラーを身につけて家を出た。
「いってらっしゃーい」
 それをどこかの落語家のように見送るなごみネエがいた。
 腕時計の針は12時45分を指し示していた。



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