エピローグ 〜輝ける季節へ〜

 浩平がギターを始めて2年が経った。
 初めのうちは、人差し指1本で弦を全て押さえなければならないバレーコードに手こずったりしていたが、最近はだいぶさまになってきた。
 と、自分では思っている。
 長森に聞かせたりもしたが『かっこいいよ〜、浩平』とか、予想以上に感動されたくらいだ。
 複雑な技法も一通りできるようになり、あとは正確さを鍛えることに集中しなければならない。
 チャッカジャ〜ガチャッカジャ〜ガッ♪
 今日も1人、練習に励む。
 軽音部に所属しているが、もはや廃部同然のため、バンドを組める状態ではない。
 それ以前に、自分にバンドを組む意志がないことに最近になってから気付いた。
 ジャガジャジャジャッ♪ ジャガジャジャジャ〜ン……♪
 鮮やかにリタルダンドする。
「ふう〜。オレもギター歴2年にしてはなかなかだな」
 確かに浩平の上達ぶりは凄かった。
 だが――
「まだまだだ。センパイのギターに比べたら」
 どれをとっても、記憶の中のセンパイには敵わない。
 そう思い、今日も1人、夕日の河原で練習に励む。
 ジャララジャララジャラジャジャジャジャ〜ンッ♪
 無人の河原に、ロックテイストな曲が鳴り渡った。


「ホンマ、大バカや」
 浩平の両手が、ピタリと止まる。
 鼓動が早くなる。
「人の気持ちも知らんで……浩平のアホッ」
 昔のままの調子で、背後から突っ込んでくる。
「……おかえり」
「おかえりやないがなっ! なにしてんねん!」
「ギターの練習。一緒にやるか?」
「……どついたろか」
 振り返らずとも、その姿ははっきりと見えた。
「座れよ、センパイ」
 深春は浩平の隣に腰掛けた。
 肩の辺りで切り揃えた茶色い髪。大きな瞳。水色のカチューシャ。
 着ている服もライブに行った時のまま、今では流行に遅れたものだ。
 違うのは、少々小柄になって見えること。
「センパイ、身長縮んだか?」
 浩平を首を少し上げて見る。目には涙がたまっていた。
「……ホンマにバカや、大バカや」
「なんだよ、泣くことないだろ?」
 深春はその場で泣き崩れた。
 浩平はギターを置いて、優しく抱き寄せた。
 その太い腕、大きく温かな胸に包まれた深春は、長い時間の経過を悟り――
 そして、浩平の自分に対する想いの強さを全身で感じた。
「なぁ、センパイ……」
 声が震える。熱いものがこみ上げ、瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
「オレはっ……大バカで、よかったよ」
 浩平は更に強く抱き寄せた。
「ありがとな……ありがとな、コーヘイ」
 深春は浩平の胸に顔を埋めたまま、大きな声で泣いた。
 西の空に浮かぶ夕陽が、あたたかな光で2人を包み込んだ。


~ Fin ~



〜Presented by  Inugami Kaeru〜

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