3.乙女剣士とのエンカウント@

『浩平っ! 遅刻するよっ!』
 制服に着替え終えた浩平の耳に、階段をドタバタと駆け上がってくる音が聞こえた。
「浩平っ!」
 蝶番が吹き飛びそうな勢いでドアを開け、長森が部屋に飛び込んでくる。
「あれ……?」
「おう、遅かったな」
 既に着替え終えてベッドに腰掛けている浩平を見て、長森は拍子抜けした。
「ど、どうしたの、浩平?」
「何がだ」
「何がって……いつもの浩平ならベッドの中だもん」
「毎日そうとは限らないぞ。考えを改めろ」
「浩平にそう言われると、なんだかとっても理不尽な感じがするよ……」
 長森が疲れたように嘆息した。
「でも、変だよ〜。絶対何かあったでしょ」
 長森は両手を腰に当て、浩平を問いつめた。
「別に。ただ、なんとなく目が覚めただけだ」
「嘘だよ。どこか体の調子、悪いんじゃない?」
「俺は至って健康だ。敢えていうなら牛乳の飲み過ぎで少々便がやわらかいくらいだ」
「朝からおげれつだよ、浩平」
 長森の表情が歪む。
「どうでもいいんだが、時間まずくないか?」
「あっ! 浩平、朝ゴハン食べた? 歯磨いた? トイレ行った?」
 早口でまくし立ててくる。
「……ガキか、オレは?」
「行くよっ、浩平」
「行くか」
 2人は浩平の家から走り出た。
 歩いて20分ほどの距離に2人の通う中学校がある。朝のホームルームが始まるまで残り15分だから、少し急がなければならない。
 2人はどちらが先に出るでもなく並んで走っていく。2人3脚でもやったら、優勝できそうなほど息が合っていた。
 いつも寄り道して帰る商店街にさしかかったとき、浩平は腕時計に目をやり立ち止まった。
「もういいだろ。ここからなら歩いて十分間に合う」
「うん。そうだね。そうしよっか」
 長森もそれにならった。
 浩平と長森は改めて空を見上げた。
 今日も晴れ。ただ、昨日のような快晴というほどではなく、空の至る部分は雲に覆われている。
「浩平。今日の英語の小テストの勉強、ちゃんとやってきた?」
 浩平は胸を反ると、「ふっ」と鼻先で笑った。
「そんなもの、存在すら忘れてた」
「そこでどうして威張るかな……」
「お前、ここまで来たらもはや開き直るしか道はないだろ」
「ハァ〜……心配だよ。小テストだからって、甘くないんだよ?」
 乱れた呼吸を整えながら会話を進める。
「なんとかなるだろ」
「ならないよ〜。知識問題なんだから」
 右手にファーストフード店があるところにさしかかる。この時間帯から、なかなか盛況なようだ。
「“朝マッグ”してく?」
 “地球寄ってく?”のノリで浩平が提案する。
「遅刻するよ」
 視線もくれず、あっさりと流される。
 ドタドタドタ……
 その時、背後からやかましい足音がした。多くの人が行き交う朝の繁華街ではあるが、その足音の闖入は喧噪の中でも異質なものだった。

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