3.乙女剣士とのエンカウントA

 ドタドタドタ……
 だんだんそれが近づいてくる。
 はじめは気にも留めなかった長森だったが、音の接近に気づき振り返った。
「女の子が走ってくるよ?」
「あん?」
 浩平が振り返ると、確かに女の子がこちらに向かって猛スピードでダッシュしていた。2人と同い年くらいで、必死の形相で辺りを見回しながら足を回転させている。
 2人はとりあえず歩くのをやめ、朝から熱血している人物をまじまじと眺めた。
「髪の毛が青い……不良だな」
「そうは見えないけど」
 ドタドタドタッ!
 あっという間に2人のもとにやってくる。浩平と目を合わせた女の子は、少し躊躇したようだったが、目の前で急停止した。風圧で、浩平の前髪がなびく。
「すみませんっ……ゼーハーゼーハー」
 肩で息をしながらずいっと近づいてくる。
「“武道館”どこにあるか知りませんかっ?」
 そう聞かれて気付いたが、快活な印象の濃い女の子の右手には長い棒が握られていた。
 竹刀だ。この地域では見かけない、青と白のタイトな制服だから、剣道の大会に出場しようとこの街に来たんだろうか。
「ええっと、武道館なら……」
 長森が言おうとするのを、浩平が遮る。
「このまままっすぐ行って突き当たりを右、2つ目の交差点を左、その通りをしばらく行くと左手に小便小僧が見えてくる。その小便小僧を無理矢理押し退ければ、なんと武道館に続く地下階段が出て来るんだ。ハメハメハ大王もビックリだな」
 女の子は視線を宙に泳がせて、浩平の無茶苦茶な説明をシミュレートする。
「分かりました、ありがとうございましたっ!」
 ドタドタドタ……
 よほど慌てていたのか、青い髪の女の子は『小便小僧』と反芻しながら駆けていってしまった。
『ひ〜んっ、団体戦不戦敗になっちゃうよ〜!』
 去り際に叫びが聞こえた。
「あいつ、何が分かったんだろうな」
 少女を騙したことにまったく悪びれる様子もなく、浩平が呆れたように言う。
「こ、浩平……やりすぎだよ」
「ふっ。あの手の輩はどうもからかってやりたくなる性分でな……ナム」
 走り去った方に向けて合掌する。
「だがな、長森。いくら慌てていたからと言え、あんな話フツー信じると思うか? あいつにも責任の一端はある。武道家たるもの平常心を忘れてはいけないんだ」
「浩平が変なこと言わなきゃ問題なかったはずだよ……」
 長森はひとり蒼白になって、浩平を小声で糾弾した。
「それはいいとして、オレたちも遅刻するぞ」
「よくないよ〜」
「大丈夫だって。いくらバカでも、途中で気づくに決まってるだろ」
 浩平は平然たるもの。長森だけが後ろめたい気持ちを抱え、学校へと向かっていった。

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