10.永遠の盟約

 わたしはゆうひがだいすき。ゆうひにそまったそらもだいすき。
『おかえりなさい。パパ、ママ』
 だって、パパとママはゆうひがしずむじかんにかえってくるんだもん。
 そらがきれいなオレンジになると、もうすぐかえってくるよって、そういうあいずなの。
 パパとママはおさかなやさんをしてるんだ。だから、いっつもいそがしそうにしてる。
 あさはわたしがおきるまえにでかけちゃう。おさかなをしいれにいくんだって。
 ばんごはんをたべたあとは、つぎのひにどんなおさかなをどれくらいしいれるのか、ふたりでそうだんしてる。
 そのときわたしはだまってテレビをみてるの。いっしょうけんめいおしごとしてるパパとママをこまらせちゃいけないもん。
 だからわたしはゆうひがだいすき。ゆうひにそまったそらもだいすき。
 おしごとからかえってきたパパとママは、わたしのおはなしをにこにこしてきいてくれるの。
「ねえ、パパ、ママ。きょうね、かんじのおべんきょうしたんだよ。あと、たしざんもやった。わたしね、3かいもはっぴょうしたんだよ」
 おさかなやさんのおしごとはたいへんそう。がっこうがやすみのひも、パパとママはトラックでおみせにいっちゃうの。
 わたしにはおともだちがたくさんいるけど、やっぱりパパとママがいてくれないとさみしい。
 でも、わたしはがまんするんだ。
 パパとママがおしごとをがんばってるのは、おさかなやさんとおうちをいっしょにするためなんだから。
 そうなれば、わたしががっこうからかえってくればどんなときもパパとママにあえる。
 わたしはあまえんぼうだから、がまんするんだ。

 きょうはゆかちゃんとちかくのこうえんであそんだ。
 とってもたのしくて、はじめはあたまのうえにあったおひさまが、つぎにみたときはオレンジいろになってやまのうえにきちゃってた。
『バイバイ』
 わたしとゆかちゃんはこうえんでおわかれして、じぶんたちのおうちにかえっていった。
 わたしがおうちにつくと、パパとママがいつもつかってるトラックがおうちのまえにとまってた。
『かえってきてる』
 きょうはとってもたのしかった。おとこのこみたいなあそびをいっぱいしたんだ。
 ゆかちゃんとブランコでどこまでたかくこげるかきょうそうしたり、すなのおしろをつくったり、みずふうせんであそんだり。
 はやくパパとママにおしえたくて、わたしはおうちにはしっていったの。
 いつもママにおこられてるのもわすれて、げんかんでくつをばらばらにぬいだの。
 いまにはいると、パパはまどのちかくでよこになってた。
 せなかに、あかいゆうひがあたってた。
 かおをしたにしてねてる。くるしくないのかな。
『パパ、ただいま』
 わたしはそういったけど、パパはおきなかった。
 かたをゆすってみた。それでもおきなかった。
『パパ?』
 パパをゆすったてに、なにかついてた。
 あかくて、ドロドロしたもの。
『ママ……!』
 わたしはだいどころにかけこんだ。
『マ……マ…………?』
 しろのかべに、ふとくてあかいせんがついてた。
 ゆかがまっかだった。
 ままは、ながしだいによりかかってすわってた。
 めをあけたままうごかないママに、うしろからゆうひがあたってた。
 ままはわたしのほうをみてた。
『……ただいま……ねぇ、わたしかえってきたよ。パパ、ママ、ただいま……』
 わたしもまっか。
 それは、ずっとずっと、とれないあかいいろ。
 どんなにどんなにがんばっても、わたしはずっとあかいまま。

 わたしはゆうひがだいすき。ゆうひにそまったそらもだいすき。
『ただいま』
“おかえりなさい、深春。ああ、またそんなに汚しちゃって。いっぱい遊んだのね。ほら、お洗濯するから上脱いでね”
『ただいま』
“お、帰ってきたか。おかえり深春。もうすぐママがゴハン作ってくれるから、手を洗って来なさい。そのあとで、一緒にテレビ観ような”
『ただいま』
“…………”
『ただいま』
“…………”

 そして、小さな私は夕焼けのない世界を望んだ――

←Back | Next→