0〜∞.現(うつつ)と永遠と

 世界は、道城深春という、確かに存在したはずの人間を、まるで初めから居なかったかのように流動している。
 そもそも、人1人の存在なんて、あろうがなかろうが大差ないのかも知れない。
 しかし、俺にとって彼女は違う。絶対に必要な、大切な人だ。
 先輩が居なくなってから、俺はギターを弾き始めた。
 全然巧く弾けない。指の皮は擦り切れるし、散々だ。
 先輩は一体何を思って、ギターを弾き続けていたんだろうか。
 夕焼けに対する抵抗か。
 いや、違う。
 純粋に、ギターが好きだったんだ。
 彼女はただ、ギターを弾くことが大好きな女の子だったんだ。
 先輩が幼い頃に負った心の傷なんて、そんなものは関係ない。
 彼女を呼び戻すことが出来るのはギターと――
 そして、人との強い絆だ。
 俺はそう信じて、ひたすらに毎日を過ごした。


『みちしろ、みはる……?』
『そうだ。絶対に、知加子先輩なら思い出せるはずなんだ』
『その子とあたしは、親友だった……?』
『そうだ。10年以上も一緒に過ごした、かけがえのない親友だったんだ』
『みはる……みはる……。思い出せない』


『知加子先輩。俺、深春先輩がよく弾いていた曲を練習したんだ。CDとして出てない楽譜だけの曲だから、先輩の奏法を真似ることしかできないけど』
『……どんな曲?』
『あまり巧く弾けないけど、今聴かせるよ。<Avant Pop Star>の“a Serene Blue Sky”って曲だ』
『…………』


『浩平くん。あたしな、小さい頃こっちに引っ越してきたとき、寂しそうに独り公園のブランコに揺られてた女の子が居たような気がするんや。ひょっとして……』
『どんな女の子だった?』
『……ほとんど覚えとらんのやけど……確か、まん丸の瞳が印象的な女の子やった気がする。ホントに微かに、そう記憶しとる』


『どうだ、知加子先輩? 俺もだいぶ上達してきたから、深春先輩に近い演奏が出来るようになってきたとは思うんだが……』
『うっ……うぅっ』
『どうして泣いてるんだ?』
『浩平くん――あたし、思い出したわ』
『先輩……!?』
『どうしてっ……どうして忘れたりしたんやろっ……! あたしがみぃちゃんに気づかんかったとき……みぃちゃんはどんなに辛い思いをしたんやろ。あたし……最低やっ! あたしとみぃちゃん、ホントに親友やったはずやのに! あたしは上辺だけやったんか……!? あたし、最低や……最低や』

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