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Kanon Another Story



祐一少年の事件簿


FILE 1 〜水瀬秋子さんの秘密(?)〜

by 荒竹



しゃり、しゃり・・・
「なあ、名雪」
「なに?祐一」
いつも通り雪道を歩く。
登校の途中、俺は、常日頃の疑問を、もう一度名雪に聞いてみることにした。
「秋子さんの職業って、なんなんだろ?」
「うーん・・・」
「お前、小学生の時とかに、作文に書かなかったのか?私のおかあさん・・・とか」
「うん、書いた書いた!」
「よし、家に帰ったらそれ見せてくれ」
「いいけど・・・」

その夜、早速名雪の昔の文集を見せてもらう。
すぐに持ってきた名雪の物持ちの良さと整理上手に感動を覚えながら。

 
わたしのおかあさん
1ねん3くみ 水せ 名ゆき
わたしのおかあさんは、とてもやさしくて、たのしくて、おりょうりがとっても上手です。
いちごジャムがおいしいです。トーストがおいしいです。シチューも・・・(以下略)
わたしもおおきくなったらおかあさんになりたいです

 
・・・作戦その1、失敗。
名雪のことだから、昔秋子さんに聞いたことを忘れてるだけかと思っていたが・・・こいつも本当に知らないらしい。

 
 
次の日の朝。
作戦その2。
ここは正面突破しかない!
「おはようございます、祐一さん。今日も早いですね」
「あ、おはようございます。秋子さん。あの、ちょっと教えて欲しいんですけど」
「?なんです?」
「秋子さんって、俺達を送り出してから仕事へ行ってるんですよね?」
「ええ、そうですよ」
「でも、俺が帰る頃にはもううちにいる・・・。パートか何かですか?その仕事」
「それは・・・」
「それは!?」
「企業秘密です」
だあ・・・

トゥルルルルル・・・・
「あら、電話・・・ちょっと失礼しますね」
「もしもし、水瀬です。はい、ええ、そうです・・・分かりました」
しばらく秋子さんは電話をしている。このままじゃあタイムアップだ。
作戦その2も失敗か・・・。

 
 
「行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
いつものように寝ぼけまなこの名雪を引っ張るように、俺は家を出た。
・・・・

「あ!?」
「どうしたの、祐一」
「すまん、名雪、俺忘れ物!ちょっと戻る!」
「じゃあ私も戻るよ」
「いや、お前は先に行って、先生に上手いこといっといてくれ」
「う、うん・・・」
納得行かない表情の名雪を戻して、俺は今来た道を戻る。
そして家の前の電柱の陰に隠れる。

「ふふふ・・・作戦その3。名付けて『秋子さんを追え』を、遂に実行する時が来た」
ぱたぱた・・・
「出来ればこういう手は使いたくないんだけど・・・」
ぱたぱたぱた・・・
「お、出かけるみたいだな」
玄関に人の気配を感じて、思わず身をかがめたその時・・・
「祐一く・・・」
がこ!
さっきまで俺の頭があった位置で、聞き覚えのある声と、鈍い音が聞こえた。
「うぐぅ・・・痛いよぉ」
「なんだ、あゆ。こんな時間に何してる?それに・・・重いぞ」
そこには電柱に思いっきり頭をぶつけて、俺の背中の上で痛がってるあゆの姿があった。
「いきなりしゃがむなんてひどいよぉ、祐一君」
「悪いな、俺には今、大事な使命が・・・って、まずい、隠れろ、あゆ!」
鍵を閉めて、門の方へ向かおうとする秋子さんの姿を認めた俺は、あゆと一緒に電柱の陰へ隠れ直す。
「?どうしたの?・・・あ、秋子さんだ!」
嬉しそうに駆け寄ろうとするあゆの羽リュックを、ぐっと引き寄せる。
「うぐぅ・・・ひどいよ。息が止まっちゃうよ」
涙目で俺に訴えるあゆ。
「今秋子さんに会うわけにはいかない。あゆ、お前も知りたいだろ。秋子さんの本当の姿を」
「ボクは別に知りたくないけど」
「と、言うわけで、俺は今から秋子さんがどこに行くのかを突き止める。それで秋子さんが何の仕事をしているのか分かるはずだ。じゃあな、あゆ」
いつも買い物に行く時と同じ鞄をもって雪の道を歩いていく秋子さんを、20メートルほどの距離をおいて追う。
遂に、謎に満ちた彼女の職業が明らかになるときがきた・・・

 
 
しゃり、しゃり・・・
ぱたぱた。
「どうやら商店街に向かって歩いているみたいだな」
「あ、ネコ!」
「ああ、ネコだ」

しゃり、しゃり・・・ぱたぱたぱた。
「む、誰かと挨拶してるな・・・なんだ、お隣の平野さんか」
「あ、たいやき屋さんだ!」
「ああ、たいやき屋だな・・・っておい!」
「ねえ、たいやき食べようよ」
「何であゆもついてくる?」
「何でって・・・ボクもこっちに用があるんだよ」
「用って・・・学校は?」
「ん?今日はお休み。そう言う祐一君だって」
「俺には重大な使命がある」
「じゃあボクも使命があるんだよ」
「嘘付け。ふう、まあいい、じゃまだけはするなよ」
「うん!」
「しまったあ!あゆと馬鹿なやりとりしてる間に、秋子さんが・・・あ、いた」

秋子さんは、歩道の端で身をかがめていた。
そこにある、子供が作ったであろう小さな不格好な雪だるまを、幸せそうに見つめていた後、また歩き始める。
「やっぱり親子だな」
何かほほえましい気持ちになりながら、俺も尾行を再開する。
「うぐぅ・・・ボク馬鹿じゃないもん」

 
 
「しかし、もう十時だぜ・・・随分余裕のある職場だなあ、フレックスか?」
秋子さんは、そろそろ開き始めたお店のショーウインドウを見ながら、ゆっくりと商店街を歩いている。
「フレックス?」
あゆが当然予想された質問を投げかける。
「ああ、フレックスというのはだなあ・・・げ!?」
秋子さんの方に向かって、一人の男が歩いてきた。
大柄。サングラス。派手派手なスーツ。スキンヘッド。いかにもな男。
秋子さんはウィンドウショッピングに夢中で、気づいていないようだ。
お約束のように、その男と肩がぶつかる。
「やばいぞ」
「何が?」
「こういうときは、因縁を付けられると昔から相場が決まってるんだよ。ほら!」

「おいおい、姉ちゃん、ぶつかっといて挨拶もなしか?」
「あら、嬉しいわね、姉ちゃんなんて・・・私、これでも娘がいるのよ」
いつもの笑顔で秋子さんは対応してるみたいだ。しかも既に話題がずれている。
「怖そうだね。あの人。秋子さん大丈夫かなあ?」
不安そうにあゆが聞いてくる。
やばいな・・・こうなれば尾行は中止だ。ここは男の俺が助けに!
「なめてんのか!おい・・・って、ああ!、おま、いえ、あなたは!?」
助けに・・・ん?
何か様子が変だぞ。

「す、すみません、ぶつかったのはこっちでした。あ、あのお怪我は・・・」
「いえ、大丈夫ですよ」
「そ、そうですか・・・で、では、これで失礼します!」
そう言って、男は、すごすごと立ち去っていった。

「・・・何が起きたんだ?」
「きっと、あの人もいい人だったんだよ」
「あゆ・・・お前、幸せな奴だな」
「うぐぅ・・・祐一君、ひょっとして、またボクのこと馬鹿にしてる?」

 
 
商店街を抜け、秋子さんは駅前にやってきた。
そして、駅前に並ぶ一つのビルの中に入っていく。
この町では一番高いビルだ、と名雪が言ってた様な気がする。
「ついに、秋子さんの秘密の仕事が明らかに・・・」
「わくわくするね」
「あゆ、お前結局ここまでついてきたのか・・・」

秋子さんは、そのビルのホールで、エレベーターに乗った。
さすがに一緒に乗るわけにはいかないので、止まった階を確認する。
エレベーターは、最上階で止まった。

「あの階のフロアでそれらしい部屋は・・・ん?AM料理教室?」
AM=AKIKO MINASE!
・・・謎は全て解けた!!
複数のテレビカメラがカシ!カシ!カシィ!っと俺の真剣な表情のアップを止め絵でうつす音を聞いた、・・・様な気がした。

「そうか、秋子さんは料理教室を開いていたのか!」
これなら納得できる。きっと彼女はここの先生で、主に主婦を対象にした料理教室を開いているに違いない。
ま、秋子さんの料理の腕と、レパートリーの豊富さを考えると、当然といえば当然だな。
それなら俺が学校から帰る時間帯に仕事が終わっていても不思議じゃあないしな。

「秋子さん、この学校の先生なの?」
「そうみたいだな・・・あゆ、お前も今の学校やめて、こっちへ通ったらどうだ?」
「それってどういう意味?」
「あゆの想像してるとおりの意味だ」
「うぐぅ、ボクもう帰る」
「そうだな、いい加減俺も学校へ行くか・・・」
また香里に嫌みをいわれるな、何て考えながら、俺は走り出した。
「まってよーーー!祐一君、走るの早すぎだよ」
どんどん小さくなるあゆの声を聞きながら。

 
 
翌朝。
「おはようございます。秋子さん」
水瀬家最大の謎を解決した俺は、すっきりした頭で秋子さんに朝の挨拶をする。
「おはようございます、祐一さん。名雪、まだ寝てます?」
「多分・・・」
「ふう、ホントに困った娘ね。あ、すぐにコーヒー入れますね」
「どうも・・・」

朝食がテーブルに並ぶ少しの間、俺はテレビを付ける。
名雪がいつも気にしている星占いをやっている局にチャンネルを合わせる。
悪い結果が出ていたら、からかってやろうと思いながら。

『・・・昨日○○町で、代議士の久瀬俊之氏が何者かに狙撃され、死亡するという事件が・・・』
え?○○町っていえば、この近くだよなあ・・・
『・・・久瀬氏は以前より暴力団組員との黒い噂がつきまとっており、警察も今回の事件との関連を・・・』

「な、なんか、物騒な事件ですねえ、秋子さん」
「そうですねえ。あ、そうそう、祐一さん。今晩はごちそうですから、早く帰って来て下さいね」
パンをオーブンに入れながら、秋子さんがそう言った。
ごちそう・・・いつもの食事があれだけ豪華なのに、ごちそうって、一体?
「分かりました。買い食いもしないですぐ帰ります!ところで、何かあるんですか?急にごちそうなんて」
「いえ、お給料が入ったので今晩はいつもより奮発しようと思いまして。そうだ、あゆちゃんも招待しましょうね」
そうか、今日があの料理学校の給料日なのかあ。
「お仕事、いつもお疲れさまです」
「?ええ、ありがとうございます。さ、朝御飯召し上がって下さい」
「あ、俺、もう一度名雪起こしてきます」
いうなり俺は階段を上がっていく。

「名雪!起きろ!こら、そっちは俺の部屋だ、階段じゃあない!」」
「くー」

『・・・警察の発表では、弾道計算により、久瀬氏は○○駅前のビルの屋上から一発の銃弾で頭部を撃ち抜かれたと推定されていますが、事件現場からの距離は相当離れており、プロの・・・』

作戦その3・・・成功?

 
<了>

あとがき
かなり早めのkanon二次小説では?
主役は私の今の属性、秋子さん。
やったもん勝ち?なコメディです(^-^;
べったべたですみません。
あゆが、「うぐぅ」連発してますが・・・本編もそんな感じなんで、許して下さい。
それにしても、秋子さんいいですねえ。
特に真琴シナリオとあゆシナリオの彼女は、全てを知った上で暖かく包み込んでいるようで・・・。
素晴らしい女性です。

一応FILE1となっていますが。
シリーズ化されるかどうかは・・・不明です。
でも、ONEに続いて、創作意欲を刺激される作品ですよねえ、kanonも。
サブキャラまでしっかりと立ってるからでしょうねえ。
ではまた!



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