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Kanon Another Story






真っ暗な部屋。
突然天井から当たるスポットライト。
暗闇から、一人の黒い服を着た少女が浮かび上がる。

「今晩は。今回の案内人、美坂香里です。皆様は、カノンという作品をごぞんじかと思います。全てのエンディングを迎えたとき、皆さんは驚かれたことでしょう。ヒロイン達のその正体に。生き霊に妖孤、果ては超能力者まで。そして、疑問に思ったのではないでしょうか?残りのヒロインも、本当は普通の人間ではないのでは、と。そう、この物語は私の親友、水瀬名雪の真実の姿を伝えるべく製作されたドキュメントなのです」

「お姉ちゃん・・・私は?」
舞台袖から声を掛ける栞の声を無視して、香里は司会を続ける。
「では・・・VTR、スタート」

画面が切り替わり、白字のタイトルが浮かび上がる。



「ちこく」


〜名雪の謎〜



by 荒竹



『異変に気づきだしたのは、いつの頃からだろう?』
そう、あれは・・・

<レポート1>

ぎしっ。
春の足音が近づいてきたある夜、物音に気づいて俺は目覚めた。
時計を見ると午前2時。

「草木も眠る丑三つ時、か・・・」
縁起でもないことを考えながら、部屋のドアを開ける・・・
そこには、寝ぼけまなこな少女がふらふらと歩いていた。

「何だ名雪、珍しいな、こんな時間に。トイレか?」
「?あ、祐一・・・私出かけてくる」
どうやらまた寝ぼけているらしい。俺は、少しからかってやることにした。
「朝までには帰って来いよ」
「うん・・・」
言うなり名雪は自分の部屋に入っていった。
俺もトイレに行って、寝直すことにした。

「ふう」
用を足してトイレから戻ろうとしたその時。
がさっ!
庭の方で大きな何かが落ちる音がした。
雪はもう残っていない。
「ピロ、・・・か?」

真琴とその相棒、ピロが水瀬家に戻って来てから一週間が過ぎていた。
「ピロ!?」
「フーーー!」
機嫌が悪いらしい。俺は外を見ることなく、トイレを出た。
「しかし・・・あいつあんなに重かったっけ?」

「おはようございます、秋子さん」
「おはようございます。今コーヒー入れますね」
いつもの朝。
「名雪は・・・まだ寝てるのか」
最近、名雪の寝坊が以前よりひどくなったような気がする。
遅刻ぎりぎりでも、走れば何とか間に合った登校も、今では3回に1回は遅刻している。
俺がしびれを切らして先に行くこともしばしばだ。
「すみません・・・春ですからねえ」
秋子さんが本当にすまなさそうに謝る。
「まあ、暖かくなってきましたから・・・」
「やっぱり、父親似なのかしら?」
「え!?」
名雪の父親?秋子さんの旦那さん?
ここに来て随分立つが、その名前を秋子さんの口から聞くのはこれが初めてであった。
「あ、秋子さん。名雪のお父さんって・・・どんな人だったんですか?」
「それは・・・」
「そ、それは!?」
思わずぐっと拳を握る俺。

「おはよう・・・」
俺の気合を、名雪の気のない声がそぐ。
「名雪ぃ、お前いいところで出て来るんじゃあ・・・って、どうした、それ?」
振り向いた俺の目に映ったのは、小枝や泥で汚れたパジャマに身を包んだ名雪の姿だった。
「お前、どういう寝相だったらそんな格好になれるんだ?」
あきれながらも、俺は深夜のトイレでの出来事を思い出していた。
「まさか・・・な」
しかし、俺はこの時見逃さなかった。
秋子さんの真剣な表情を。
こんな朝が、何日も続いた。

 
<レポート2>

そして、これは、3日前の朝の事。
「今日は遅刻しなくてすみそうだね」
「ああ・・・」
珍しく、本当に珍しく歩いて、名雪と一緒に登校することが出来た朝のことだった。
「昨日は早く寝たからね」
早くって・・俺は昨日は7時以降名雪の姿を見ていない。
実は、名雪の異常に気づいてから、俺は常に名雪の部屋に注意を配っていた。
しかし、確たる証拠が見つからないまま、数日が過ぎ去っていた。

しばらく歩くうち、俺は自分達の前に、よく見知っている二人組がいることに気づいた。
「おーい、舞、佐祐理さん!」
「あ、祐一さん、おはようございますー」
「・・・・」
舞の校舎での事件が解決してほぼ一月。
春が近づいても、二人とも相変わらずだった。

そして・・・
「えと・・・おはようございます。前に教室でお会いしましたよね?」
「え、えーっと・・・祐一さんと同じクラスの方ですか?」
「ああ、紹介がまだだったけ?名雪。こっちの上品な先輩が倉田佐祐理さん。それでこっちの無愛想な奴が川澄舞だ。佐祐理さん、こいつは水瀬名雪。俺の従姉妹だ」
「あ、あなたが倉田先輩?よ、よろしくおねがいします」
「あははー。先輩だなんて・・・名雪さん。佐祐理でいいですよお」
「私も名雪でいいですよ、佐祐理さん」
うむ・・・さっと「先輩」という言葉が出るあたり、名雪もああ見えて陸上部なだけある。

「ほら、舞も」
予想通り無愛想な舞を、佐祐理さんが無理矢理会話の輪に入れようとした。
その時。
「ごろごろ・・・」
何を思ったのか、舞は突然名雪の喉をなでた。
「お、おい、舞・・・?」
「はえー・・・舞、それ新しい挨拶?」
「いや・・・そうしてほしいのかと思って」
無表情に舞が答える。
「舞・・・こいつは猫じゃないって・・・」
いくら猫好きだからって、猫扱いされては、さすがの名雪もいい気はしないだろう。
そう思って名雪の方をみると・・・
「ほー」

ぐあ!?こ、恍惚としてる!?

「は!?あ、あの、川澄先輩、何を?」
ようやく正気に返ったのか、驚いた顔で名雪が訪ねる。
「・・・・」
それには答えず、黙って俺達の先を歩く舞。
相変わらず、舞ってよくわからん奴だ。
しかし、それにも増してわからんのが、今のお前だよ。名雪。

 
<レポート3>

「祐一、お昼休みだよ!」
「・・・しまった!帰らないと。じゃあな、名雪」
「もう・・・まだ午後から授業あるよ」
「相変わらず冗談が通じないな。いい加減俺の行動パターンを理解しろ」
これは、昨日の昼の出来事。
「今日も学食で食べるの?」
「ま、他に選択肢が無いからな」
「うん、じゃあ一緒に行こ」

学食に行く途中・・・
「すまん、名雪、ちょっとトイレ。先に行っててくれ」
「わかったよ、ゆっくり歩いてるね」
用を足しにトイレに行こうとしたとき。
「相沢さん」
「おう、天野」
過去の悲しい別れで心を閉ざしていた少女、天野美汐。
こいつも今では真琴の良い遊び友達だ。

そんな天野がいきなり口にした台詞が・・・
「ひよりみの林は、ご存じですよね?」
「・・・はい?」
「年老いた猫が、猫又となって何十年も住み着いている、そういう林です」
「ちょ、ちょっと待て!そんな伝説もこの街にはあったのか?」
「以前私、この街の半数が真琴達の仲間かも、何て言いましたよね」
「あ、ああ・・・」
「ひょっとしたら、その中には、ひよりみの林の住人も混じってるのかもしれません。彼女のように」
「彼女って・・・?おい天野!」
それだけ言い残すと、天野はすたすたと早足で俺の前から立ち去った。
「祐一・・・遅いから戻ってきたよ」
入れ替わりに名雪がしびれを切らして戻ってきた。
「・・・」
すれ違いざま、天野は名雪の方をみた。それはほんの一瞬のことであったが、俺にはそれがやけに引っかかったのだった・・・

 
<レポート4>

多分、これが最後のレポートになるだろう。
つい一時間前のことだ。決定的な物を、俺は見てしまった。

名雪とピロが初めて出会ったこの時、事件は起こった。
今まで会わなかったのが不思議なくらいだが、真琴の部屋から抜け出したピロと、名雪は、この時初めてお互いを認識した。
「ねこー」
「な、名雪。よせ、離れろ」
「ねこーねこー」
「うにゃあ」
・・・駄目だ、既に耳に入っていない。ピロも嬉しそうに近づいてきてるし。
「ねこー」
遂に名雪がピロを抱きかかえる。ぼろぼろ涙をこぼしながら。
「いわんこっちゃない・・・ほら、離せよ、名雪」
しかし、その時、俺は見た!
泣きながら猫を抱く名雪の頭部に、何かが生えてきたのを。
毛皮で出来たようなふさふさした三角錐状のそれは・・・耳?
変化は名雪のスカートの中にも現れた。
あれは・・・しっぽ?しかも二本?

<ひよりみの林は・・・>
<猫又が・・・>
昨日の天野の言葉が俺の脳裏に浮かんだ。

 
『・・・慌てて俺は自分の部屋に戻り、この最後のレポートを書き上げている、間違いない、彼女は・・・』
コンコン。
誰かがドアをノックする。
「だ、誰だ!?」
うわずった声で、問いかける。
「祐一・・・」
「な、何だ。名雪か。どうしたんだ?」
「知っちゃったんだね・・・私の秘密」
「な、何のことだ?俺はお前の事なんて・・・全然・・・」
どうしたことだろう。身体がしびれて動かない。
「いいよ。祐一だったら。私の本当の姿、見せてあげる」

名雪は小さな、しかしはっきりとした声で話し始めた。
「私のお父さんはね、ひよりみの林の猫又なんだよ。猫アレルギーっていうのは、私を猫から近づけさせないための、お母さんが私にかけた暗示。だって私、同族に近づくと、人間の姿が維持できないんだもん」

「でも、春になると、どうしても野性の本能が抑えられないんだよ。だから、どうしても夜行性になってしまうの。今までは出歩くだけで済んだんだけど、それもそろそろ限界みたい。祐一、助けてくれる?」

「あ、ああ・・・。俺に出来ることなら」
「よかった・・・。じゃあ、私に・・・狩られて頂戴」
「か、狩るって・・・まさか?」

ゆっくりとドアが開く。その様子を、俺はまばたきすら出来ない状態でじっと見ていた・・・

ギィィィ。
暗闇から浮かび上がるシルエット。
それはもはや人間のそれではなかった。
長い髪はそのままだが、全身を覆う体毛。
足は四足歩行動物のモノ。
そして大きな耳。四肢に付いている鋭利な爪。

俺は見てしまった。名雪の本当の姿を・・・

そして・・・
「ごめんね、祐一」

それが俺がこの世で聞いた、最後の言葉だった。

 
「・・・以上が私の友人、相沢祐一が残したレポートを元にして製作した再現VTRです。このレポートを残した後、相沢君の姿を見た人が一人もいなかいという事も、付け加えておきます」
暗がりの中。再び香里にスポットが当たる。
「これが私の親友、水瀬名雪の真の姿だったのです。もうお分かり頂けたでしょう。カノンという物語において、ヒロイン達は皆、普通の少女では無かったという事を」

「あ、あの・・・お姉ちゃん?私は一応普通の女の子なんだけど・・・」
舞台の袖から一人の少女、美坂栞がそっと声を掛ける。
「・・・あなた、誰?私には、妹なんていないわ」
「え?お、お姉ちゃん?」
「私の妹・・・栞は、彼女が高校に入る前に死んで、もうこの世にはいないの。その栞の名前を語る、あなたは一体誰なのよ!?」

漆黒の闇の中で二つの赤い光が不気味に浮かび上がる。
「く、くくくく・・・知りたい?私の正体・・・」
栞を名乗っていた赤い光がゆっくりと香里に近づいていく。
「それはね・・・」

 
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「お、おいあゆ・・・驚きすぎだ」
「うぐぅ・・・」
明るくなった講堂内。
正面に貼られたスクリーン。
そしてその上部に書かれた「校内映画祭」の文字。
「うーん・・・こんなにあゆを怖がらせるとは・・・香里の奴、やるなあ」
祐一は手に持っていたパンフの
『監督=美坂香里』
の文字を読みながら、しきりに感心していた。
「祐一君の嘘つき・・・名雪さんや栞ちゃんが登場する感動大作だって言ったから観に来たのにぃ」
「ははは・・・。でも、別にそこまで怖くはなかっただろう?」
「うぐ、怖いよう・・・だって、祐一君はいなくなって帰ってこなかったんだよ」
「おい、俺はここにいるって」

「あ、あゆちゃんも来てたんだ」
後ろの席から祐一達を見つけた名雪が、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「よう、どうせ上映中ずっと寝てたんだろ?」
「そんなことないよー。ちゃんと半分くらいはみてたよ」
「半分はちゃんとと言うのか?」
祐一のつっこみを聞いていないふりをして、名雪は話を続ける。
「ねえ、あゆちゃん、どうだった?私の演技・・・あれ?」
その時、あゆは既に名雪から遥かに離れたところにいた。
「珍しく素早いな。おーい、あゆ。あれは演技だって・・・って、当分信じてくれそうにないな、あれは」

 
 
それからしばらく、あゆは名雪と栞には近寄らなかったという。

<了>

 
あとがき
予告編の後を受け、カノンの謎本編第3弾。
蒸し暑くなってきた夜に向けて・・・今回は怪談風。
タイトル元ネタは・・・リング2の同時上映の奴です。

校内映画祭ネタ第二弾でした。

(注)「コメディのためのカノン」であるため、みんな健在EDを想定してお話を作っています。



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