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Kanon Another Story



永遠の煌き




by 幻



 ちりん……ちりんちりん……。
 鈴の音がする……。とても、懐かしい暖かい、ぬくもりを感じる音……。

 ちりん!
 耳元で、ひときわ大きく鈴が鳴ったような気がして、驚いて目を開く。
 しかし何も見えない。
 ただ真っ暗な世界。
 そして、わたしは夢を見ていたのだと知る。
 急速にさめてゆく懐かしさと暖かさの余韻を、少しでも長くこの体に残したくて、わたしは自分の体を強く抱きしめた。しかし、ぬくもりは灰色の粒子となって指の間をこぼれ落ちてゆく。
 いや、落ちていっているのではない。ここには上も下もない。あるのはただどこまでも広がる漆黒の闇だけ。

 わたしは、気がつくとこの空間を煙のように漂っていた。
 ここはどこだろう……、暗くて寂しくて寒くて静かで……。
 いままで、何度か来たことがあるような気がする。
 遠い昔? つい最近? よくおぼえていない……。
 もう、何度同じ夢を繰り返し、何度同じ問いを繰り返したのだろう。
 ただ、遠い昔この世界のことを誰かに語ったことがあるような気がした。やわらかなぬくもりに包まれて、あの人の息づかいをとても近くに感じて……。あのとき、あの人はなんて言ってくれたんだろう。

 薄く開かれた瞳から、闇が流れ込んでくる。
 すでに実体を失ったわたしの体は闇の侵入にあまりにも無力だった。
 黒い侵入者はわたしの中で勝手気ままに渦を巻き、細く白かった手や足、お気に入りだった黄金色の髪の毛、小さく整った顔を浸食していく。
 しかしすべてが霧となって闇の中に吹き散らされようとしても、わたしは胸の近くにある小さな白い輝きだけは、手放さなかった。
 これはなんだろう……。
 とてもやさしくて暖かい……。
 これがあるおかげで、わたしはなんとか存在していられる気がする。

 やがて、闇に犯されてちりぢりになっていた四肢が輝きを中心に、集まりはじめる。
 わたしの体は闇に光る灰色の雲となって復活する。
 もう何度も繰り返されてきた行為。きっと永遠に続くのだろう。
 役目を終えたかのように輝きは光をひそめてゆく。
 ぬくもりが消えていく。
 わたしはとても眠くなって、また目を閉じた。

 まどろみの中で、わたしはまた夢を見た。
 だが今度見た夢は、ぬくもりを感じるような夢ではない。
 なにか、とても後ろめたく辛い別れの夢だった。

 雪……。
 雪が降っていた。
 夢の中で降り出した雪は、やがて私の記憶を白く埋めていく。
 そう……、これは夢じゃない……昔のこと、わたしの失ったはずの過去だ。
 この雪の白い輝き……。
 わたしは久しく忘れていた言葉をつぶやいた。
「おかあさん……」



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