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Kanon Another Story



kanon


第1章 「無銭飲食と家出と大館」

by 淺川 秋



たとえばこんな1日…。
東京から・・、約3時間ちょっとだろうか?東北新幹線から地元のローカル線に乗り換え、
電車に揺られて何処かで見たことがあるような地形になってくる。
電車内のお婆さん達の会話の中に土地柄からか訛りが入っているのを見ると、戻ってきたな、
という気持ちを一層強くさせる。駅に着くための最後のトンネルを抜けると辺りは一面の銀世界・・。
レールの上辺の部分以外は全部雪で埋まっているのだ。東京ならばすぐに中央線とか山手線等が
すぐに止まってしまって、おおわらわになっていることだろう。 そんな不安を全く感じさせずに電車は駅に到着した。
 電車のドアが開くと、一気に外の寒気が僕の体の中に入ってきた。
一応厚着はしてきたつもりだったが、思わずコートを閉じてしまった。
ホームの屋根の間から見える空はどんよりとした
灰色で、さっきまでかなりの雪が降っていたのだろうか?駅の構内を過ぎ行く人々の傘には
多量の雪が付着しており、出口には雪が隅の方に山のように積まれていた。
 「1月のこの街だものな・・。でも、駅前は変わらないな・・。」
この街の駅前は僕が小さかった頃から商店街の一部としてにぎわっていた。
ここからさらに1時間ほど電車で行けば県庁所在地だから、今はベッドタウンとして発展を続けているらしい。
僕は目の前にあるバスプールの中央の時計台を見た。丁度、正午の針を過ぎたようだ。
 「ええと、叔父さんの家に行く前にどこかでご飯でも食べて…うわっ!」
誰かが僕にぶつかった!バランスを崩した僕は偶然下がアイスバーンだったため、
思いっきり尻餅をついてしまった。
 「いてて・・、おい、気をつけろよ!!」
ぶつかってきたのは僕と同じ位の年頃の女の子だった。
なにやら口の中にいっぱい積めているようだけど?
 「むぐ!むぐむぐむぐ!」
その女の子はぶつかったのにもかかわらず、ひょいと立ちあがると慌てて頭を下げ、
走り去ろうとしたその矢先に・・。
 「待て〜〜っ!無銭飲食〜っ!!」
 駅の近くの軽食店だろうか?そこから20代そこそこの男性が走ってきた。
 「むぐう!」
一瞬にして女の子の顔が青くなり、逃げようと走り出したが、案の定地面はアイスバーンである。
うまく走れない。しかし、女の子を追いかけている店の人は随分手馴れているようで、
簡単に女の子を捕まえてしまった。
 「うぐっ・・、ごっくん!やめてよお!離してえ〜〜っ!」
 「無銭飲食なんて、なんてことするんだ!店に戻れ!警察に連絡して引き取りに来てもらうからな!」
女の子は最初抵抗していたようだったけど、もう観念したせいか、おとなしくなって店の方に引き上げようとした。
しかし、彼女は何か深く、そして暗いものごしで悲しい瞳をしていた・・。
その時、僕は自分でも信じられない行動に出た。
 「あ、あのすいません・・。」
その店員はなんだ?という顔をして僕の方を振り向いた。
 「君は?この娘の友達かい?」
 「ええ、僕のクラスメイトなんです。そこで相談なのですけど、僕が彼女の食べた分のお金を払います!ですから、今回だけは許していただけませんか?」
何故、このようなセリフを言ったのだろう?僕にはわからなかった・・。
でも、あの悲しそうな目は以前どこかで見たことがあるような気がする・・。
その店員はしばらく首を傾げていたようだったが、どうやらその若さからの単純さからか、
なんとか見逃してもらえることになった。もちろん経費は払うことになったけど。
 「ふう・・、よかったね・・。なんとか許してもらって・・。」
彼女はきょとんとその場に立ち尽くしていた。
「ど、どうして助けてくれたの?あなたとはここでぶつかって、しかも・・、全然知らない人なのに・・」
 彼女は慌てて僕に問いただした。
 「なんでだか僕にも漠然としていてわからない・・。ただ、お店に連れていかれそうになった時の君の悲しそうな姿が以前にも何処かで見たとこがあるような気がすんだ・・。その「何処かで会った」っていうのは誰なのかわからないんだけど・・。だからその人と重なって助けずにはいられなくなってしまったんだ・・。」
 彼女はしばらく黙っていた。でも、優しく微笑むと・・、
 「ありがとう・・。私、実は家出しちゃってるんだ・・。本当は優しいお母さんがいたんだけど去年交通事故で死んじゃって、それからお父さんはすぐに再婚したわけだけど、新しいお母さんとはウマがあわなくって・・。今日で一週間目・・。」
 「一週間!?き、君何処に住んでいるの?」
 一週間も空けてしまっては下手すると本当に警察沙汰になってしまう。
 「私?う〜んと、大館。家出した時はお金持ってたんだけど、もうその時はフッ切れていて、とにかく遠くに行ってやる!という気持ちが強かったから・・。気付いたら無一文・・。」
  僕は仰天した。大館といえば、秋田県の中でも最北の都市にあたる。ここから100キロくらいはあるだろうか?
 「お、大館なんて・・。随分遠くまで来たね・・。でも、いくらウマがあわないとはいっても家の人が心配しているよ?」
 「うん。もう最初は絶対帰ってやらないっ!って思っていたけど、さっきのあなたの言葉を聞いてなんだかもう一度やってみる気になった・・。ありがとう・・。」
なんだ・・。本当はいい娘じゃないか・・。僕はちょっと顔が赤くなった。
 「あっ!いけない!私もう行かなくちゃ。」
 「えっ!?だって無一文なんでしょ?どこに行くにも行けないような・・。」
彼女は走り去ろうとした時、ぺろっと舌をだして、
 「へっへ〜実は行き先が一つだけあるのだあ☆ここには叔父さんが住んでいて丁度歩いていける距離なの。だからなんとか頼んでみるのお♪ついさっき思い出したんだけど・・。」 
 「そうだったのか・・。でも、家出なんかしちゃ駄目だよ!その叔父さんも心配するだろうし・・。」
 「わかってるって!あ、そういえば私の名前言ってなかったね・・。私は月宮あゆっていうんだ!」
月宮あゆ……
 「あゆちゃんっていうんだ・・。僕は……」
続けて僕も名前を言おうとしたが、彼女はもう走り去りながら・・、
 「そうだ・・、その「誰か」っていう人にまた会えたらいいね・・。んじゃね〜〜」
結局僕は自分の名前を言うことすら出来なかった。
彼女のシルエットは午後の人影の中にあっという間に消えていってしまった・・。
でも、最後に言った言葉はドキッとしたな・・。
再び外はちらほらと雪が降り始めた・・。
 「でもよかった。心は普通の女の子だったね・・。さて、僕も叔父さんの所に急がなくてはね・・。……結局ご飯食べられなかった・・。ぐすっ・・。」
これが月宮あゆちゃんとの最初の出会いであった。



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