Back/Index/Next
Kanon Another Story



kanon


第3章 「柳の木の下で逢いましょう」 1

by 淺川 秋



たとえばこんな一日・・
1月15日月曜日午後6時30分・・。今日は転校先のガイダンスですっかり遅くなってしまった。
明日から正式にここの学校の生徒として登録されることになった。クラスメイトともいよいよ初顔合わせ
だ・・。名雪ちゃんは委員会の仕事で遅くなるから先に帰っててね、と言ってたな・・。
僕が昇降口から外に出ると外はもう真っ暗であった。この辺は夜になると人通りが少なくなる。向こうの
中央通りの賑やかな繁華街まではそんなに距離はないのにこの物寂しさはなんだろう・・?
校門から約100Mくらいは柳の並木道になっている。この並木道は川に面しており学校が設立された年に植えられた。当時は小さな苗木だったものの、数十年の歳月をかけて今では立派な柳の木並となって、この街の人々の憩いの場として知られている。ただ、夜になるとこのへんは電灯が少ないから月明かりに映える柳は不気味でもあり、幻想的でもある。…今は冬だからどちらかといえば不気味かな…。
僕は誰も歩いていないこの道を一人、とぼとぼと歩き始めた。
 「あれえ・・?昼までは雪降っていたのにいつの間にか止んでる・・。」
昼間まではどんよりとしていた雲も今となっては星がまたたくくらい晴れ渡っている。頭上を見上げると
黒い夜空の中に一つだけくっきりと浮かび上がる三日月が印象的である。
 「昔おじいちゃんから聞いた話だけど、夜の柳の木の下には幽霊が出るんだって…。た、たしかに
こんなにこの木が並んでいる所というのも珍しいだろうし、夏とは違った恐怖感があるよな・・。」
 普通、僕らが怪談とかで盛り上がるのは夏である。でも僕は一番怖く感じるだろう季節は冬だと
思う。なんていうのかな・・、冬っていう季節はカラフルな夏と違ってモノクロームの世界みたいだ。
寒さっていうこともあるだろうけど、なにか物寂しさみたいのも感じる。その分人間の心にも隙間が
開いて、そこにつけいる恐怖感・・。あなたの背後にもう一つの足音…な〜んて……

             ざわ………ざわざわざわ………………… 

! 僕は思わず後ろを振り向いた。
当然の風に柳の木の葉が怪しくゆらめき、積もっていた雪が一気に宙を舞い、学校の方の視界が雪の
ために見えなくなってしまった。風は強さを増しているようだ・・。あれえ?今日の天気予報で
こんな大荒れになるっていってたっけ?雪が降ったあとの強風はなにかと都合が悪い。一度積もった
雪が舞い上がる訳だから、湿っていて重い。その上それが体にまとわりつけば動きにくくなる。
こんなことになるのだったら傘持ってくればよかったな・・。僕は目に雪が入らないように
一歩一歩慎重に歩いて行く・・。。
そして僕が朝名雪ちゃんと一緒に渡った橋に差し掛かったその時であった。
こんな大雪なのにコートや傘もせずにずっと凍った川を見つめている人がいるのだ。見かけだと、
女の人みたいだけど・・。すでにその体は雪でかなり覆われており、小刻みに
震えているようにも見うけられる・・。思わず僕は話しかけた。
 「あ、あのう、こ、こんにちは・・。」
 「…………」
以外なことにそれは女の子であった。その子はこちらを振り向いて黙って僕を見つめている。…なんていう温かみを感じさせない表情なんだろう・・。唇は死人みたいに紫色でこの寒さのためか目はうつろである。すでに凍っている髪の毛には長時間ここにいたことを思わせるほど痛々しかった。
 「…………」
 「……え…」
しばらく二人でみつめあった。彼女の目はうつろながらも何かを感じさせる・・。そうだ、あの時・・、
駅前で月宮あゆっていう子に会った時と同じ目だ・・。「何処」かで見たことがあるような目・・。
目の前に薄い膜のようなものがあって、その奥には答えがありそうなのに・・。もどかしさだけが
心の中を動かす・・。
 「……オ……エハ……」
ふと彼女の口が開いた。その瞬間!
 「う…うわあっ!!な、なにを…!」
彼女の目つきが鋭く豹変し、突然僕に飛びかかってきたのだ。その手は僕の首をしっかりと掴み、締め上げてくる!
 「く・・くるしい・・っ・・!」
僕はふと祖父の言葉を思い出した。「夜の柳の木の下には幽霊が出る」柳の木の下ではないけれども、
強風で不気味に揺れる柳の木の音と首を締められる苦しみで朦朧とする意識の中僕は今生の別れを
予感した。



Back/Top/Next