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Kanon Another Story



kanon


第3章 「柳の木の下で逢いましょう」 2

by 淺川 秋



必死に彼女の手を引き離そうとする僕には祖父の言葉だけが脳裏をよぎった。
本当に幽霊なんて存在するのか?ただ僕は忍び寄る死の恐怖に怯えながらも必死に手をふり解こうとする。しかし、すごい力だ…。で、でもどこか良い香りが・・、シャンプーだろうか?
…そんな余裕はない。その時ふと彼女の口が開き、
 「ヨクモ・・、ワタシヲ・・、」
手の力が一瞬緩んだその瞬間僕は好機と見て、彼女を両手で思いっきり突き放した!
この寒さだ。瞬く間に彼女は体のバランスを崩し、足を滑らせてその場にすっ転んだ。
 はあはあはあはあ・・、僕も長い間首を締められていたせいか、疲れきってその場にしゃがみこんでしまった。
 「はあはあ・・、お、おい!なんてことするんだ!警察呼ぶぞ!!」
その場に崩れている彼女ははっ、と気がついた様子だった。そしてぴょこりと起きだすときょとんとこちらを見つめている。
 「あ・・あれ?私・・?」
 「? 何を言ってるんだ?さっき僕を殺そうとしただろう!しらばっくれるな!」
ふと彼女は僕の顔を見た。その目はさっきのような虚ろで殺意に満ちた目ではなく、ごく普通の少女の穏やかなものになっていたのだ・・。
 「あ・・、あなたは?私が何かしたの?殺すって・・まさかあ・・。」
僕は怒りが頂点に達しようとしていた。しかし・・、何かが変である。先ほどの雪まみれになっていた彼女の姿と現在の彼女の姿・・、180度人格が違うようである。
 「な、なあ、さっきのこと覚えていないのかい?僕の首締めたこと・・。」
 「う・・、嘘!そんなこと・・、私出来ないよ!ただ、帰る途中、この川が凍っているの
  久しぶりに見たから見とれていて物思いに老けていたら…?どうして私こんなに濡れて
  いるのお?どれくらいここにいたんだろ・・。」
どうやら、本当にさっきのことを覚えていないらしい。僕は怒る気も無くし、再び立ちあがろうとした時、後ろから名雪ちゃんの僕を呼ぶ声が聞こえた。
 「あっ!こんな所にいたのね。!?どうしたの?そんなにめちゃくちゃな服装になってて・・、
  すごい力で締められたみたい・・。」
名雪ちゃんは驚きの声をあげ、僕のそばに駆け寄った。
 「ああ・・、ちょっとね・・。」
僕が向こうの彼女をギッと睨みつけると、その子はすくみ上がった。
 「…?真琴じゃないの?一体どうしたっていうのよ、こんな遅くまで・・。しかも・・すごい
  濡れているし・・。」
名雪ちゃんはその「真琴」っていう子に近づこうとしたが、僕が止めた。
「名雪ちゃん気をつけて!そいつはさっき僕の首を突然締めて、殺そうとしたんだ!すごい力だったよ!」 
 「えっ?そ、そんな・・。だって真琴と私は友達だよ!そんなことが・・。」
 「見てよ。この首の爪の食い込み・・。女の子の力だとは考えにくいよ。」
名雪ちゃんは僕の首に出来た鋭い爪の食い込みの跡を見て、思わず両手で口を塞いだ。
 「真琴・・、どうして、どうしてこんなことを・・?」
「真琴」という女の子は小刻みに震え、首を横に振り続けている。まるで追い詰められた獲物のような弱々しい雰囲気しか受けない・・。
 「私、本当に何も知らないよう。どうして、どうしてこんなことを・・。」
ついに「真琴」という女の子は泣き出してしまった。もはやあの時のような殺気は全く感じなくなっている。名雪ちゃんは思わず彼女の所に駆け寄り、やさしく抱きしめた。しかし・・、その時!
 「あっははは・・、あははははははははははははははははっ!!」
突然「真琴」という女の子の体がビクン!と震えたかと思うと、けたたましい笑い声を上げた。
名雪ちゃんは驚いて彼女から飛び退いた。
 「ま・・真琴・・?」
 「もう〜〜可笑しいったらありゃしないわよ!あいつったら泣きそうになっているんだから・・。
  でも、留美菜があんなことしちゃったらたしかに命の保証はないかもね・・くすくす・・。
  雛子も可愛そう〜ははははははははっ!」
呆然とする僕と名雪ちゃん。彼女は一体何者なんだ?
 「ね・・、ねえ、真琴なんでしょ?今日委員会来なかったから心配していたけど・・?
  沢渡真琴・・。」 
名雪ちゃんが言う「沢渡真琴」はゆっくりと立ちあがると不適な笑みを浮かべながら、
 「真琴〜?ああ、あいつは最近出てこないわねえ・・。何処に隠れているのかしら?
  あたしは弥生だよ・・。とっても冷徹でずる賢いね!」
僕は目の前の出来事が一体なんであるのかわからなくなってきた。ポツリと一人佇んでいた
少女が突然首を締めてきて、それからコロっと人が変わったように留美菜だの雛子だの・・。
 「まあ・・、そこにいる男のコも今日は雛子とこのあたしが運良く出てきたから助かった
  じゃない・・。すこしは感謝しなさいよ・・。十分に留美菜には気をつけることよ。
  それじゃね〜」
 「ち・・ちょっと・・、出てくる出てこないって一体なんのことだよ!あ、待っ・・。」
沢渡真琴は凍っている地面をもろともせずに走って去っていってしまった。
その場には僕と名雪ちゃんだけが取り残され、切れかかっている電灯だけが僕らを照らしていた・・。



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