Back/Index/Next
Kanon Another Story



kanon


第4章 「夜想曲」 1

by 淺川 秋



あれから一夜明け、僕と名雪ちゃんは昨日の出来事について考えていた。
学校の教室の中・・
 「あのね、真琴は本当は良い子なんだよ。ここに入ってから知り合ったけど、
  委員会の仕事にも誘ってくれたし、一緒にお菓子作りだってこなしたし・・。」
 「だったらどうして人の首なんかをいきなり締めたりするんだよ!それから
  留美菜とか雛子とかわけのわからない名前も挙げていたね。心当たりある?」
名雪ちゃんは顔を曇らせ首を横に振った。  
  「知らないわ、そんな名前・・。本当に真琴どうなってしまったの?」
あの後、僕らは真琴ちゃんの行方を捜してみた。橋の向こう側の中央通り、
駅の周りの商店街等、名雪ちゃんが真琴ちゃんといつも通っていたケーキ屋さんにも
行ってみた。しかし、別れてからそんなに時間がたっていないのにも関わらず、
彼女を発見することはできなかった。
 「朝、彼女のクラスの先生に聞いてみたら、今日学校休んでいるんだって。
  電話をかけても誰もいないようだし・・。」
この件についてはしばらくの間お蔵入りになりそうだ・・。転校したての僕にとっては
彼女を知る友人もいないし、かえって騒ぎを広めてしまっては面倒なことになって
しまう。
 「う〜ん、わからないことだらけだね・・。まずは彼女が学校に出てくるまで
  待つしかなさそうかも。それから色々聞いてみようよ。」
名雪ちゃんは心配げな表情を浮かべながら頷いた。
 しばらくしてから僕は部活動の差し入れを買いに行くことになった。今日は珍しく空が
晴れ渡っていて、太陽が地表を照らしている。日の光を浴びるなんて何日ぶりだろうか・・。
これなら道路の氷も溶けるかもしれない。
 「夏と違って冬の太陽っていうのは地軸の関係で眩しいな・・。けど・・、なんかすがすが
  しくもなれるな・・。」
解け始めた氷の上をさくさく進んで行く。近くのコンビニまで徒歩5分ほどだが、溶け始めて
いる氷は水溜りとなって歩きにくい。
 「くう〜なんだか歩きにくいなあ・・。そっか雪国だものなあ・・。」
僕の周りの人々はみんなスノーブーツか長靴をはいているので何も気にせずに通り過ぎていく。
ただ、僕一人だけがスニーカーだった。足にとって一番こたえるのが氷の溶け始めである。
もう数歩歩いただけで水が足の中に浸透してくる。冷たい・・。
やっとの思いで僕はコンビニに到着した。中にはあまりお客さんはいないようだ。ただ・・、
なかなか可愛い女の子が一人目立っているような・・。
 「え〜っと、ポカリ5本、カロリーメイト5個と・・、」
僕は先輩方から頼まれたものが書いてあるメモ用紙を取り出し、籠の中にいれていく。
僕はバスケットボール部に所属した。今はOFFの時期なんだけど、インターハイで
全国制覇をした秋田能代工業を倒すため、日夜練習の嵐だ。一応毎年優勝候補には上げられる
んだけど、いつも決勝とか準決勝で負けてしまうんだ・・。だから先輩方の意気込みはすごい。
 「今週、能代工業と試合があるからな。みんなの目の色変えて練習しているよ・・。おや?」
ふと、雑誌のコーナーの方へ目を向けると、さきほど見かけた女の子が誰かと話しているようだ。
制服・・いや、私服・・。よせばいいのに僕は好奇心ながら二人の方に近づいた。どうやら男性の
ようだが・・。
 「よお・・、久しぶりだな。もう学校の方には慣れたのか?」
彼は顎鬚に帽子を目下まで被っており、低い声でその女の子に話しかけた。年齢はそんなに老けてはいないようだが・・。
 「舞を追ってきたの…? もうこないでって言ったでしょ・・。」
舞、という名前か・・。何処か影がありそうな彼女の姿にはそれまでの形跡を思わせるような
そぶりがあった。目つきは鋭い。彼は微笑しながら話を進める。
 「おいおい、わざわざ遠くからやって来てやっているのにそんな言葉はないだろう・・?
  自分の置かれている立場をよく考えてみるんだな・・、」
 「そのことは分かっているわ。でも、お父さんの悪口だけは許さない・・。必死になって今、
  私達のために頑張っているんだから・・。」
 「どうやら、影から見ているとようやくまともな仕事を見つけたようだな。だが、俺の功績も
  ちゃんと認めてくれよな・・。」
その男性はおもむろにファッション雑誌を取り上げ、その娘をあざ笑うかのように足をぶらつかせ
ながら読んでいる。
 「何の商売をしているのか知らないけど、いきなり大金を持ち出されて、いくらなんでも
  気持ちが悪いわ・・。」
 「おいおい、水商売ってな訳じゃないぜ。まあ、正当な取引ってなやつだ。俺のテクと運があれば
  そのうち富豪にもなれるぜえ〜。」
すると、意を決したようにその女の子は、その男性を睨めつけるとコンビニから出ていってしまった。
男性はあっけにとられたようだが、「フッ」と不敵に笑うとその雑誌を買い、車に乗って出ていって
しまった。
どうやら何か深い事情がありそうだけど僕はあまり気が優れなくなり、残りの買い物を済ませ、
会計をした後、そのコンビニから走り去った。
 
  体育館で華麗に練習をする先輩方。ボール受けをしならがらサポートをする僕。でも、今日だけは
いつもの事に気が入らない。・・あの「瞳」のことだ・・。駅でぶつかった、月宮あゆちゃんという
女の子、そして行方がわからない沢渡真琴という女の子。この二人の「瞳」とコンビニの舞という女の子の「瞳」と共通点がある・・。あの物寂しげな「瞳」には何があるというのだろう・・。
もやもやした自分の頭の中で迷走する僕の意識・・。
全てが虚ろで何もかも否定したくなる。霜月の風が僕の心を冷ましていく・・。      



Back/Top/Next