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Kanon Another Story



kanon


第4章 「夜想曲」 2

by 淺川 秋



「え〜〜〜ん え〜〜〜ん…。」
誰もいない天守閣がある小高い山の城下・・、一人の男の子が泣きながらこちらへ歩いてくる。
「あ、あれ?ここは何処だ?」
さっきまで体育館で部活の片付けをしていて、一息ついていたのだが、いつの間にか自分は横手城下にいた。
「ここは・・、!横手城か?どうしてこんな所に・・。?あの子は・・。」
僕はその子供に話しかけた。
「ね、ねえ、君・・、どうしたの?ママとはぐれちゃったのかな?」
しかし、男の子はいつまでも泣いていて、その子の肩に掛けようとした手がすり抜けてしまった。
「こ、これは一体・・?」
僕は自分の置かれている状況がよく理解できない。まるで異空間のようだ。足元は雪で覆われていて、
体育館用のシューズを履いているのに、冷たさや外の寒さは皆無であった。
そしてなお不思議なのは、あの男の子以外、周りには誰もいなく、物音一つしないという不気味な雰囲気である。
横手城を照らしているサーチライトでさえ、ここでは消えている。
ただ・・、男の子の泣き声だけ・・、耳に痛い・・。
「お、おい、どんどん城の広場の中心にいっちゃうぜ・・?大丈夫かな?」
僕はおそろおそる、男の子の後を付けて行く。すると・・、
「あ・・、お兄ちゃん・・。」
自分の目を疑った。突然城の暗闇の方から現われたのは昼間の男性だったのだ。
「よお・・、探したぜ・・。手間掛けさせるなよ・・。」
その男の子は安堵感をあらわにし、無我夢中で彼にとびついた。
「あ〜ん!何処に行ってたんだよお!舞、寂しかったじゃないかあ〜っ。」
舞!?てっきり男の子だと思っていたその子があのコンビニでの少女なんて・・!
その時、僕は驚愕の光景を目撃することになった。
微かな笑みを浮かべていたその男性は舞を片手で抱き上げると、
突然狂気に満ちた表情に豹変した!そしてもう片手にはいつの間にかナイフが握られている!
「おいっ!何をするんだっ!!」
僕は思わず飛び出し、男性に突進したが、案の定すり抜けてしまった・・、そして!
舞の背中にナイフをーー
「やめろーーーーーーっ!!」
                 ガバッ!!!
しん、と張り詰めた空気の体育館倉庫・・。どうやら僕は夢を見ていたらしい・・。
部活動での疲れからかな・・。首を横に何度も振って立ちあがった。その時!
ガシャン・・、何かが倒れる音がした。もう外は真っ暗で、体育教官室の電気も消えている。
やっと外からの外灯で自分の居場所がわかるくらいなのに・・。僕はおそろおそる体育倉庫から抜け出した。
真っ暗闇・・、いや、体育館のカーテンの隙間からやっと月明かりが射している程度か・・。奥のステージが不気味に薄暗く照らされている。
 「……だ、誰かいるのか?」
僕はたしかに見た。ステージの上にあるピアノの隣に一つの人影があること…。微動だにせず、
何か物思いに老けているようだが・・。
 「す、すいません・・。こんな所で何をしているんですか?」
その人影は、相当驚いたせいか、こっちを慌てて振り向いた。
 「だ・・誰ですか?……。」
月明かりがその人の顔を照らす・・。舞だった。僕は驚きのあまり声を一瞬失ったが、まずは話し掛けた。
 「お、驚いたよ・・。女の子が一人でこんな所にいるんだもの・・。僕はさっきまで部活の片付けをしていたんだけど・・体育館倉庫で居眠りしちゃってね・・。君はここの生徒?」
僕が淡々と話を進めるものだから、しばらくきょとんとしていたが、どうやら僕に安心感を持ったようだ。
 「・・、ごめんね・・。舞こそ驚かせてしまって・・。私は、川澄 舞。ついこの間転校してきたんだ・・。」
転校・・、そういえば、昼のコンビニの話からしてそんな気をしていた・・。
 「転校生だったのかあ!僕もつい3日前にここにきたばかりなんだよ。今までは東京に住んでいたんだ  けどね・・。」
舞の顔が綻ぶ。自分と同じ境遇だったのだろうか?
 「あら、そうだったの!だったら舞と同じね。今まで湯沢に住んでいたんだけど・・
、 お父さんの都合でね・・。」
お父さんの都合、なんだかこの言葉が胸に突き刺さる。一体さっきの夢と同様・・、この子には何があるのだというのだろう・・。僕は思わず尋ねた。
 「ねえ・・、舞さん、こんな夜中の体育館で何をしていたの?」
そう言うと一瞬舞の顔が曇る。やっぱり聞かない方がよかっただろうか…?
 「舞ね・・、みんなからは変かと思われるかもしれないけど、こういう暗い場所で一人になるのが
  好きなんだ・・。何か悩みとかが出来たりすると、こうやって窓から月明かりにあびると心が
  洗われるような気持ちになるの・・。そう・・、すべてを浄化してくれるように・・。」
舞はステージに降り注ぐ月明かりの中で華麗にくるりと周る。ステージに佇む男女二人。
まるで舞台で演じるヒーローとヒロインのよう・・。僕はヒーローというには語幣があるかもしれないけど・・。でも、舞の姿はまさに悲運の恋物語のヒロインのように映る。華麗な中に何処か寂しげな雰囲気・・。“夜想曲「ノクターン」”の一小節を思い浮かべる・・。
 「綺麗だ・・。綺麗だよ・・。」
舞はゆっくりとターンを止め、こちらを振り向いた。
 「ありがとう・・。こう見えてもね、前はバレエをやっていたんだ・・。だからこういう舞台の上に立          
  つのは慣れているんだ・・。今日は、亞偶然貴方に舞の踊り見せられたわね・・。」
しばらく舞に見とれていた僕だったが、やっと我に帰った。舞はとことこと傍の階段を降りる。
 「お、おい、これから何処に行くんだ?」
舞は一瞬立ち止まったが・・、無言である。
 「あ、あのさ、今日の昼間、君を近くのコンビニで見かけたんだ。男の人と一緒にいた所・・。」
 「……。」
 「なんか事情があったようだから・・。ここで出会えたのも何かの縁だろう?・・、話してくれないか・・?」
舞はゆっくりこちらを振り向き、
 「なんだ・・、今日あそこにいたんだ。心配してくれてありがとう・・。でも、これは自分で乗り越え    
  なくちゃならない壁だから・・。過去の自分との決別・・。」
そう言った途端、僕が声を掛ける暇もなく、舞は走って体育館から出ていってしまった。
ただ・・、月明かりだけが残された僕をせつなく照らす・・。これが川澄 舞との出会いであった。



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