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Kanon Another Story



kanon


第5章 「美人薄命」(1)

by 淺川 秋



日曜日、こんな一日だった。
僕は部活動の遠征で大館に来ていた。ここで県でベスト4にも入った強豪と対戦する。前にも何度か戦ったことがあるらしいけど、まだ勝ったことがないらしい・・。
先輩方は「ここに勝たなかったら全国はないと思え!」とかっていきり立っていたけど、僕にとってはそれよりも気になることがある・・。
そう・・、あの家出少女の月宮あゆちゃんのことだった。たしか彼女の実家はここにあったはず・・。
移動中のバスの中で僕は大館市内に入るとしきりに窓から外を観察した。
       "もしかしたら彼女はこの街に戻ってきているかもしれない"
何処か僕の心は高ぶっていた。駅のでの出来事は偶然だったかもしれないけど、なんだかもう一度逢いたい・・、そんな気持ちがいつの間にか強くなっていた。
あの日、彼女はベージュのダッフルコートにセミロングの髪・・、この時間帯は高校の登校時間のはず。
そんな女の子は沢山いるはずなのに何処かその姿を見るたびにあの日の事が脳裏をかすめる・・。 別れ間際のあの笑顔・・、また何処かで再会が出きるとそう願いたい・・。
道路というよりもアイスバーンを通る、スクールバス・・。そのチェーンの音がせつない気持ちを一層強くする・・。
 「ええと・・、まずはここの学校の主将とマネージャーと挨拶か・・。」
 バスから降りるや否や、ここの学校は未だに木造校舎が残っていることに驚いた。かろうじて古い鉄筋の校舎があるくらいであとはみんな木造なのだ。そうとう歴史もあるんだろうな・・。僕の高校と同じく、森に囲まれていて、奥のグランドへ通じる広い道は針葉樹の並木道となっている。また、普通の歩道も兼ねているようだ・・。
 僕は顧問に主将とマネージャーはグランドにいると聞かされ、その道を走って行くことにした。
今は雪に覆われ、とてもランニングなんか出来るコンディションではないが、春場や夏は良いトレーニングコースになりそうである。脇の針葉樹の並木には多くの雪が付着しており、その重さでいまにも雪が崩れ落ちそうである。一つ風なんかが吹いたら・・。
「ここの学校って、グランドと校舎が別になっているんだ・・。それだけ広いってことなんだな・・。」
グランドと校舎側の敷地の間には街道が通っている。ちょうどここが通学路としての役割を果たしているのだろう。
 横断歩道の向こう側にはなんだか自分の目の高さ以上もある紙袋を抱えてこんな滑りやすい歩道をよろよろと歩いている少女を見かけたが・・、大丈夫だろうか?
 信号が青になって横断歩道を渡ろうとしたその時、案の定風が吹き荒れ、針葉樹の上に圧し掛かっていた雪が次々に並木道に落ちる。その時!
 「あっ!あぶないっ!」
 「きゃああっ!!」
 がしゃがしゃがしゃがしゃ〜〜っ
まるでドリフのコントでも見ている感じであったが、丁度その紙袋を抱えていた少女の頭上に風で揺さぶられて落ちた雪が直撃してしまったのだ。
そして紙袋は散乱し、中からお菓子類が飛び出してしまった。
 「………」
その少女はしばらくぼーーっと天を仰いでいるようだったが・・。
 「だ、大丈夫?いくらなんでも自分の目の前塞ぐくらい大きな物かかえちゃ駄目だよ・・。
  ただでさえ、こんな道路の状態なのに・・。」
僕は散乱したお菓子を拾い上げ、袋に戻し始めた。
 「……………………」
 「?・・あのお〜、すいません・・。」
僕が問いかけると突然目を覚ましたように当たりをきょろきょろし、屈み込んでいる僕をじっと見つめ・・、
 「な、なにが起ごったんべか?」
僕はその聞いたことのない独特の口調に一瞬驚いたが、それがここの方言であることには気がついた。
以前僕のお爺さんが話していてから・・。
 「ははは・・、上の木から雪が君の頭上に落っこちてきたんだよ。でも、いくらなんでもこんなに荷物を抱えてヨロヨロと歩くのはどうかなあ?」
僕が苦笑しながら紙袋にお菓子を再び積めていると慌てて彼女は僕を手伝い始めた。ふと・・、手が触れ・・、
 「え・・?」
 「あっ・・」
一気に彼女は顔を赤らめ、僕から目を背けると一心に残りのお菓子を拾い集めた。・・かわいい・・。
 「よし・・、これで全部だね・・。君はここの生徒さん?」
そう僕が聞くと、一瞬悲しそうな顔をしたが、初めてようやく口を開いた。
 「あ・・ありがとうございます。いぎなりこっぱずかしいところみられでしまって・・。
  私は・・、実は昨日、学校に復帰したばかりなんです・・。」
 「え?それじゃ今まで入院かなんかで・・?」
 「んだ。それでこのお菓子は入院していた病院の小児病棟に持っていってあげようと思ってんです・・。」
彼女は再びその大きな袋を抱えたが、前と同じようよろよろしていて転んでもおかしくない体型である・・。
 「あ、あのさあ・・、悪くなければその袋、病院まで持って行ってあげようか?」
 「…え?いいんべか?お兄さん、これからどごかいぐんじゃなかったのけ?」
…本当はこれから試合前の挨拶である。しかし・・、それまではなんとか時間が取れそうだ。時計の時間は午前9時30分を差している。急いで行けばなんとか予定に間に合いそうである。
 「本当はこれからちょっとグランドの方までいかなくちゃならないんだけど・・、まだ時間があるから、付き合ってあげるよ・・。」
するとその女の子はたちまち笑顔になり、僕の方に近寄ってきた。
 「ありがとうございますう! 私は美坂 栞っていいます。ずっと学校休学していて、友達とがいなかったんけど、こうやって男の人に優しくされるの初めてで・・。あっ・・、こっちです!」
栞ちゃんは、つい一昨日まで入院していたとは思えないほど明るく、荷物を僕に任せてからは、僕が転校生であることと、そして東京から何故こんな雪の多い地方へやってきたのかという様々なことを質問してきた。
 「そうだったんべかあ〜。東京のさだと、雪あんま降んねえから雪かきしなぐでいいんじゃねえのけ?」
 「そうだね・・。でも、東京では一度雪が降ると大変だよお?交通機関全部すぐにストップしちゃうからね!」
 「東京はヤワだこと〜。私達のとこでは雪に対する対策は万全だよお〜?」
 「あっ!そんな言い方あるかなあ〜。って・・おわっ!」
僕はコケにされてちょっと焦ったせいか栞ちゃんと同じく転びそうになってしまった。
 「うふふふふふふ…。」
 「……ちくしょう……。」
栞ちゃんはなかなか悪戯好きなようで、たま〜に僕の足をひっかけたりする。…そんなに僕と一緒にいられるのが楽しいのだろうか・・?よくよく考えてみれば無理もないかもしれない。今までずっと陰気な
病室の中で数年も過ごしたのだから・・。色々やりたいことは沢山あるだろう。
 そんなこんなで僕らは栞ちゃんが入院していた病院に到着した。
 「ここの5階なんだ・・。そこまでお願いできますか?」
 「うん。入院していた時も結構小児病棟には来ていたの?」
 「んだ。私は子供の頃から体が弱かったから、あの子達を見ていると自分とシンクロするんだ・・。
  だから、できるだけあの子達の苦しみをわかちあってあげたい・・、そんな気持ちか湧き上がってくるの・・。」
 「優しいんだね・・。他人の痛みをわかちあうことってそんなに簡単なことではないから・・。」
 「ふふふ・・、ありがとさんです・・。あ、ここだよ・・。あの子達がいる所は・・。」
病院の5階、栞ちゃんが指を差したのは512室という小児病棟の中でも、もう末期の病気の子達が置かれている部屋だった。栞ちゃんは軽くドアをノックすると、さらに言葉が訛る・・。
多分「みんな、来たよ〜」みたいな意味だろうか?
 「うわあ〜。すごいキンキンした声だ・・。多分栞ちゃんはここの子供達にとってはもうお母さんのような存在なんだろうな・・。」
しばらくしてその明るい声が落ちつくと中から栞ちゃんが出てきた。
 「お兄さん、中に入ってけろ! みんな喜ぶだろうから!」
そう言われて僕は512室に入って行った。



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