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Kanon Another Story



kanon第2楽章


〜1〜 あゆのこころ

by 淺川 秋



1月15日。遠征の結果はともかく僕等は横手に戻ってきた。あれから僕は顧問の先生や先輩に大目玉をくらったけど、まあ・・、あんなかわいい娘と知り合いになれたからよしとしよう。
  ・・・・試合の結果を言ってしまえば大敗だった。こんな負け方をしたのは僕がこの学校に転入してきてから初めてかもしれない・・。横手駅構内の広場で激の言葉をみんなに交わす顧問の言葉にも先輩方にとっては落胆に過ぎなかった。それからすぐ解散となり、僕は家路につこうとした。
  バスプールの真ん中にある時計台・・、そういえば、丁度こんな感じであゆちゃんとぶつかったんだっけ・・。向こう側にある軽食店、そこから・・・・って、えええええっ!?
驚くも何もそこからまた走ってきたのはあの月宮あゆちゃんではないか!
 「あ・・あゆちゃ・・、、げぶっ!」
案の定また衝突してしまった。今度は肘を強打したらしく、指の先までしびれるしびれる・・。
その上、前の若い店員さんではなく、鬼のような形相をしたおじさんがこちらに向かって
怒鳴りながら走ってくる!
 「げっ!今回は流石にヤバいかも・・。ねえねえ、こうなったら逃げようよ!」
ひょこっと僕の脇からあゆちゃんが顔を出すと、いきなり僕の袖を掴んで走り出した!まだよろめいている僕をもろともせずに引きずっていくように。僕は走るのが精一杯でなんとかビルの影に逃げ込んだ。
「はあああああ〜〜〜〜っ、助かった〜〜〜、一時はどうなるかと思ったよお〜〜。」
あゆちゃんも相当疲れたらしく、その場にへたへたと座り込んでしまった。・・いい気なもんだ。
「・・・コホン・・!」
「・・ひゃっ!あ・・そうか・・。お兄さんも一緒だったんだっけ・・。へへ・・、久しぶりだね!」
「あのねえ!久しぶりなんかじゃないよ!いきなり人を突き飛ばしておいて、袖引っ張られてここまで猛ダッシュする上、この間みたいに無銭飲食・・。」
「あははは・・ボクも偶然だったんだけど、お兄さんがまた駅前にいた時、とっさの判断でぶつかっていっちゃったあ☆お兄さんが逃げちゃうとあの店のおじさんにボクすぐに捕まってしまうからね・・。ボ、ボディーガードみたいな感じ・・かなあ?」
なんという理由だろう。しかし、あの状況下では何も出来なかったような・・。
「あ、それから言っておきますけどね!今回はボク無銭飲食じゃないよ!家に財布を置いてきてしまったことを忘れちゃってえ〜、それでタイ焼き買ってしまって・・」
途中で僕は喝を入れた。
「お・な・じ・で・すっ!!しかも2回連続だなんて・・。これは不良少女だな。僕から警察に突き出してやる!」
前回会った時と、僕の態度がまるっきり違う所からあゆちゃんは少々不安げな顔に変わった。
「う・・ちょっと、冗談でしょ?前はボクのこと助けてくれたじゃないかあ・・。」
僕の所に寄り添ってくるあゆちゃん。勿論しょうがないから今回も見逃してあげるつもりだったけど、
ちょっと意地悪根性を出してみることにした。軽蔑っぽい目であゆちゃんを睨めつけるつもりをして・・。
「なんだよお・・。ボクを軽蔑しているのかよお・・。そ、そりゃあ悪いことしたけどさ・・。」
「仏の顔も三度まで、っていうけど、流石に無銭飲食を2回続けて、しかも外部の人間である僕を2度も引き込もうとしたのにはちょっと許す気が引けるなあ。はは〜ん!わかった!そうやって人を巻き込んでお金とかどさぐさに盗もうとしている窃盗犯だなあ!」
「ち、違うもん・・!ほ、本当にあの時話した通りでボクは・・、ボクは・・。」
あゆちゃんの顔が外の寒さとは裏腹に真っ赤で、目は涙で一杯になって小刻みに震えている。
・・ちょっとやりすぎたかな・・?
「・・・悪いことした時にいう言葉は何かな?」
「・・・ぐすっ・・・・ぐじゅっ・・・・・」
鼻をすする音がしたと思ったその瞬間、あゆちゃんがおもいっきり抱きついてきた!
「ああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん、ごめんなさあ〜〜〜〜〜〜いっっ!!」
 それから僕等は前回のようにその店に謝りに行った。流石に2度目ということで、一時店のおじさんもためらったようだが、なんとか許してもらえた。ただ、次やったらどんなに謝ろうと警察送りという条件つきで。でも、この一件にあゆちゃんも懲りただろう。本当はいい娘なんだろうし・・。
しかし、どうしてまだこの横手に滞在しているのだろう。あれからあゆちゃんは叔父さんの家に行ったらしいんだけどそこからは何も音沙汰がなかったから・・。
 「ぐすっ・・、本当にごめんね・・。ボク、もう懲りたよ・・。」
 「フフッ、それはもういいさ。あ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、あゆちゃんは、前会った時に叔父さんの家に行くって言っていたけど・・、それから大館には戻ってなかったの?」
それを聞いたあゆちゃんは立ち止まり再びうつむき下限になった。ヤバ・・、また変なこと言ってしまったかな・・?
 「ううん。大館には一回戻ったよ。あの後、叔父さんの家に行ったら驚きのあまりきょとんとされたけどね。それで事情を話して、なんとか大館の方へは戻れたんだけどね・・。それで戻ってからが酷かった。実家の周りにはギンギラに着飾ったベンツやスーパーカーが沢山止まっていて、びっくりしたボクは一階の大窓からこっそり中を覗いたの。そしたら知らないどこかの大企業の社長みたいなおじさんやいかにもキザったらしい若い男の人達が豪勢なパーティ開いていたの。真ん中にあるテーブルの中央にはすごく濃い化粧をしたお母さんが見たこともないようなドレスをまとってその人達と談笑していた・・。」
「・・たしか離婚したって言ってたよね・・。帰った途端それじゃたしかに嫌になるよ・・!」
「そうでしょう・・?だからボクは大人なんて大嫌い!離婚する前はすっごく優しい人だったのに・・・人ってちょっとしたことで変わってしまうのね・・。」
たしかに僕は一回家に帰ることをあゆちゃんに薦めた。しかし・・、これが行方不明になった自分の娘を心配する姿だろうか・・?・・・なんとなく無銭飲食みたいな悪いことをしてしまう理由がわかってきたような気がする・・。
「だからまたこの街に戻ってきちゃった・・。」
「え?別に行く宛とかはないのかな・・?」
するとあゆちゃんはくるり、とこちらを振り替えると僕の目をじっ、と見つめる・・。
「でもね、最近になって一人だけ信頼できる人ができたんだ・・・!」
「信頼できる人?」
「うん。ボクが初めてこの街に迷いこんできた時、大人に対する憎悪感でいっぱいだったボクのこころを一筋の暖かい光が照らしてくれた・・。」
「それでね、その人は時にはボクに優しくしてくれたり、時には厳しくけなしたりもしたけど、ボクのお父さんやお母さんとは雰囲気がまるで違った。なんていうのかな・・、着飾らずに自然体でボクに接してくれたんだあ・・。」
冷めきったあゆちゃんのこころを照らすことができる人物・・。どれほどのものなんだろう・・。
「その人は今何処にいるのかな?」
「さあ・・・?もしかしたら目の前にいるかもね☆」
「え・・・ええっ!?さっきなんて・・・・?」
真っ赤になる僕を横でたしかめたあゆちゃんはお腹をかかえて笑いだした。
「あはははははっっっ!真っ赤になってるう〜☆へえ・・、結構オトナっぽい顔していると思ったら意外と子供っぽい所もあるのね〜。かわいいの!」
笑い続けるあゆちゃんの顔を見ていられずに、僕はそっぽを向いていた・・。
  その頃これまた偶然にも秋田仰星学院の女子の征服を着た少女が駅前からこちらへ向かって歩いてきていた。それは買い物でここまで出ていた名雪ちゃんだった。名雪ちゃんはその特徴あるあゆちゃんの笑い声に反応したのか、そっと僕らのいるビルの影から覗きこんだ。勿論そんなことに僕等が気付くはずがない。
 「あっ!こんな所にいたのね・・?・・・隣にいる娘は誰・・?」
ビルの影からじっとこちらを見つめる名雪ちゃん。それを全く知らない僕等。
あゆちゃんもついにはからかうことに満足したのか、僕に近寄って・・、
 「でも、2回も連続で助けてくれて本当にありがとう。運命ってこういうことをいうのかもしれないよね。お兄さんとは・・これからも・・会いたい・・な・・。」
爪先をあげるあゆちゃん。僕にとっては最初のキスだったに違いない。いきなりその瞬間を見てしまった名雪ちゃんはショックを隠せずにビルの壁にもたれこんだ。
  正月が終わり、本当に冷たい季節の始まりである。



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