Back/Index/Next
Kanon Another Story



kanon第2楽章


〜3〜 真琴のこころ(1)

by 淺川 秋



こんな時、貴方だったらどうします?
一人はなんか家庭の事情で家を飛び出した女の子と街中で偶然出会って、相手の方からホレられた場合。
もう一人は昔からの幼馴染みで数年振りに再会した女の子で昔からの思いを打ち明けられた場合。
よく擬似恋愛シュミレーションゲームとかでは王道で、これらをプレイする男性にとっては夢みたいな設定だろうけど、現実になろうとすれば普通の恋愛以上に苦渋の決断だ。これはゲームじゃない。意中の女の子が捕まらなかったからファミコンみたいにリセット、という訳にはいかないのだ。
  学校の帰り道。昨日のあゆちゃんとのキス事件の現場に立ってみる。あの出来事が起こるまでは気軽に友達みたいな感覚で仲良くなれそうだな、とは思っていたけど、今度また何処かで会うことになったらどんな風に話せばいいのだろう・・。少々落ち込み気味で僕はその場所を立ち去ろうとした。
 「あのお・・、名雪ちゃんと最近一緒にいる方ですよね?」
何処か聞き覚えのあるやや低めの声。僕はその声に背筋が凍る感覚に襲われた。僕は無言で後ろを振り向くと、予想通り、そこには学校橋で僕の首を絞めた少女「沢渡真琴」本人がそこにいた。
一瞬顔が青ざめ、一歩後ろに引く。警戒心だけは何故か一丁前だ。
 「あれ?どうしたんですか?そんな脅えた顔して。アタシはただ、名雪ちゃんと今日一緒じゃないからどうしたのかなあ・・と思ったんですけど・・?」
何やら彼女の様子がおかしい。いや、初めて会った時こそおかしかったのか?こうやって彼女のぽかんとした表情を見ていると学校橋での出来事が嘘のようである。
 「あ・・ああ、名雪ちゃんなら昨日雪に濡れて風邪をひいちゃってね・・。今日は学校を休んだんだ。」
彼女の態度があまりにも普通すぎたので正直こちらも拍子抜けてしまったが、どうやら今の所は正常・・、の状態なようだ。
 「えぇ!?名雪ちゃんが風邪!?珍しいです、今まで皆勤賞ものだったのに・・。むぅ、あにさんいつも一緒なのにい。何もしてやれなかったのお?」
なかなか痛い所を突く娘だ・・。しかし、ここであのことを洗いざらしてしまってはミモフタもなくなってしまう。そんなことよりも彼女には僕から言うことが沢山ありすぎる。
 「コホン・・、それよりもこの間の学校橋でのこと・・、覚えてる?」
 「え・・?学校橋・・?なんのこと?アタシ最近あそこの橋通っていないし・・。それにあにさんに話しかけたのは今日が初めてだよ?」
 「はあ!?それじゃ僕の首を絞めたことも覚えていないのかい?」
すると、真琴ちゃんは驚きのあまり僕のブレザーを掴み、
 「!?そ・・、そんなこと身に覚えがないよお!いきなり人の首絞めるなんて・・、それじゃ、殺人未遂犯じゃないかあ!」
自分がやったんじゃない、とじっと僕の眼をみつめ、懇願する真琴ちゃん。その眼にはあの時のような虚ろで物寂しいものは全く感じさせず、自らの潔白を証明するには十分すぎるほどの純粋な輝きがあった。ひとまず・・、ここでは・・。
 「キミじゃないのかあ・・。よく似てはいたんだけど、その首を絞めた犯人も雪まみれで正直いって顔とかはよくわかんなかったんだ・・。もしかしたら間違いだったかもしれないね。ゴメンね・・。」
すると真琴ちゃんはブレザーを放した。 ・・ブレザーを捉まれていた部分を見てみると、くっきりと握り締めていた跡が残っている。とてもじゃないが・・、女性の力とは思えない。
 「むぅ、あにさん失礼だなあ・・。アタシを人殺しみたいに扱うなんて・・。」
本当は君がやったんだろう!?っていいたいが、どうやらこの真琴ちゃんの状態では記憶にもないようだし、ついでに機嫌まで損ねてしまったようだ。
 「あ、そうだ!あにさんにちょっとお願いがあるんだけどさ、これから何か予定とかある?」
 「え?これからは・・特に何もないけど・・?」
 すると彼女はにっこりと微笑むと僕の手を握り締める。
 「へへへ!それじゃちょっと名雪ちゃんに会わせてくれないかなあ?お見舞いってことでえ!丁度名雪ちゃんが大好きなケーキも買ってきたことだし!」 
僕の前に「フレーズ」とかかれたケーキの箱を突き出す。たまにここのお店で買ってくるよな・・名雪ちゃん・・。
 「えぇっ!?これから?う〜ん、叔父さんはもう仕事で家出てるからいいと・・。でも名雪ちゃん本人が起きているかなあ・・。僕が学校に出る時にはまだぐっすりの状態だったから・・。それに・・。」
 「それに?」
つい口がすべってしまった。こういうことになると男性と違って女の子は深入りするものだ・・。
 「い・・いや・・こっちのこと!そ・・それじゃま、まずは行ってみようか!?もしかしたら起きて居間あたりでゆっくりしているかもしれないし!」
 「・・・怪しすぎる・・。」 
どうしても昨日のことがあってからは他人の目を気にしすぎる傾向がある。誰か他の学校の人達が昨日の僕のキスを見ていて、影で噂話をしているのかもしれない。この真琴ちゃんも、もしかしたら僕らを秘密に監視しているのかもしれない。そんなとりとめのないことを帰宅途中ずっと考えていた。
そして自宅前・・。
 「やっぱ何か昨日あったでしょ〜?なんせ「あの」名雪ちゃんですからね〜。あにさん考えていること顔にでちゃってるよお?」
 「あああああ〜〜っ!しつこいなあ、何もないったらないよ!ほら・・、ここが僕の家・・。」
かといって何故か顔が真っ赤な僕。
 「は〜い☆でも・・ますます気になりますね〜。・・へえ・・。なかなか大きな家なのね。」
真琴ちゃんは家の玄関前の階段をテンポ良く登ると辺りを見回す。すると真琴ちゃんはすぐ横の居間のある窓に向かって大きく手を振った。そこには・・
 「あっ!名雪ちゃ〜〜ん!」
 「・・・!」
窓の中にはパジャマの上にガーディガンを羽織った名雪ちゃんがたたずんでいて、一瞬僕と目が合ってしまったのだ。名雪ちゃんは僕に手を振ろうとしたが、手を途中で止め、居間のカーテンの奥に消えてしまった。・・そういえば彼女が目覚めてから初めて話すんだものな・・。
  朝と比べると名雪ちゃんの血相もだいぶ良くなったようだし、熱も完全に下がったようだ。でも、名雪ちゃんの「こころ」には大きなしこりが残っているだろうな・・。
 「ま・・真琴じゃないの・・!今まで何処にいたの?学校橋で意味不明なことくちばしってからそれっきり学校にも現れないし!」
すると真琴ちゃんは呆れた顔になり、頭を抱えながら居間にあるソファーにどかっ、と座り込んだ。
 「はあ・・、このあにさんと同じようなこと名雪ちゃんも言ってるよお。一体私が何をしたっていうのお?」
 「えっ・・?どういう・・こと?」
おもいきって僕は名雪ちゃんに話しかけた。
 「名雪ちゃん・・、ちょっと・・。」
 「・・・なによ・・。」
名雪ちゃんは少々うつむき気味だったが、なんとか真琴ちゃんのスキを見て、奥の台所に連れ出した。
 「連れ出しちゃってごめんね。どうやら真琴ちゃんの今の状態は名雪ちゃんが前あの橋で言ってた「普通」の状態に戻っているみたいなんだ。」
 「ふ・・普通・・?」
 「うん、僕も偶然帰りの途中で彼女に声を掛けられてね。最初は流石に背筋が凍る思いがしたけど、話していくうちになんら普通の女の子と変わりがなくてね。そして、僕の首を絞めたことも全然覚えていなかった。いくらなんでもこれはちょっとおかしいね・・。」
 「・・私も拍子抜けちゃった。あっ・・そういえば真琴って何処に住んでいるのかわからないのよね・・。」 
 「はあ?真琴ちゃんって名雪ちゃんが入学した頃からずっと一緒じゃなかったの?」
 「よくよく考えてみると・・、本当にわからないの。なんだか記憶がもやもやしていて・・。
   いつの間にか側にいた・・みたいな感じで・・。」
その時、真琴ちゃんがいる居間の方から何かが倒れる音がした。
 「・・・・!真琴!?」



Back/Top/Next