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Kanon Another Story



kanon第2楽章


〜3〜 真琴のこころ(2)

by 淺川 秋



居間から何かが落ち、割れる音。僕は驚いてふと居間の方に顔を覗かせる。
雪のどんよりした天候のせいか、薄暗い日差しが一人の少女の姿を不気味に映し出す。間違いない。
そこにいるのは昼間にあった「真琴」ちゃんではなく、学校橋での狂気の少女「留美菜」だった。
「真琴ちゃん?」
「ここにいたのね。やっと逢えた・・。」
留美菜は鋭くとも柔らかくともいえぬ目つきで僕をじっ、と見つめながらこちらへ向かってくる。
僕は一歩後へ引こうとしたが、学校橋でのこともあってか恐怖心が勝ってしまい、体が氷ついたように動かなかった。
「ふふ?どうしたのよ。あの時は私にも負けない力で抵抗したじゃない。それとも怖気づいた訳?」
僕の本当に目の前まで顔を近づけ、耳元で何かをつぶやきながら息を吹きかけてくる。
とてもじゃないが、真琴ちゃんは僕よりも年下に見える。
しかし人格が変わるだけでこんなにも雰囲気が変わってしまうものだろうか?
ゆっくり背中に手を廻す所は、まさに大人の女性のエクスタシーを感じる。
「そう、やっと探したわ。私の恨めしい人!!」
その瞬間僕の横っ腹に激痛が走った。僕は声にならない呻き声をあげ、床に転がりこんだ。
勿論その瞬間は名雪ちゃんも見ている。
「うふふふふ、私の負った「怨み」はそんなものじゃないわよ?」
転がり回る僕を尻目に更に僕の腹部に蹴りを入れる留美菜。過去の僕に一体何があったのだろうか。
身に覚えのない濡れ衣を着せられているような感じだ。ただ僕は彼女の意のまま暴行を加えられていく。
「このまま死んでいきなさい!そうすれば・・そうすれば!!」
「みー。」
ふと留美菜の動きが止まった。
「?」
留美菜がふと後ろを振り向くと、
そこにはまだ生まれて間も無い子猫を両手に抱いた名雪ちゃんが立っていた。
「みー。みー。みー。」
まるで留美菜、いや、真琴ちゃんを恋しがっているように鳴いている子猫。
「真琴って・・、猫が大好きなんだよね。いつも学校の帰り道で捨てられている、子猫にえさをあげたり、いつもの公園で猫と戯れていたりしていたじゃない・・。」
すると留美菜いや、真琴ちゃんは頭を掻き毟りだし絶叫した。
「う・ウァァァァァァァァァァァァーーッ! イタイ・・イタイ!!」
「あっ、こら!」
名雪ちゃんの腕に抱かれていた子猫は突然腕から飛び出し、よたよたした足取りで真琴ちゃんに近づいていく。
「みー。みー。みー。みー。みー。」
「ア…ウウっ・・フウウウウッ…。!?」
うずくまった真琴ちゃんの足元でまるで慰めるようにか弱くも優しく鳴く子猫・・。
「……………。」
髪がめちゃくちゃになりながらもようやく正気を取り戻したのか真琴ちゃんは子猫を手に取り、左手で優しく撫で始める。
僕はようやく起き上がり、全精力を使い果たしたようにソファに倒れこんでしまった。
「!!大丈夫!?」
名雪ちゃんはすぐに僕の所に駆けよった。
 彼女のこころの痛みは精神的なものなのかそれとも肉体的なものから来たのか。それはまだこの時点ではわからなかった。
ただ唯一わかったのは僕を誰よりも憎んでいること・・、それに尽きるだろう・・。意識が飛ぶその瞬間、僕は猫に手を舐めてもらっている「堕天使」の射影を見た。



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