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Kanon Another Story



kanon第2楽章


〜4〜 舞のこころ

by 淺川 秋



凛とした姿で周囲から冷たい印象を伺わせる少女が一人、学校橋を渡る。
彼女の周りには同じ学校の生徒のいつものくだらない話が舞の耳に入ってくる。
しかし、舞にとってはそれは街の騒音と同じくらいにしか聞こえないのだろう。
ある女子生徒の前を横切ると後ろからは何かの噂をするひそひそ話・・。
それが自分に当てられたありもしない中傷であることはすでにわかっている。
しかし舞にとってはそんなことよりも自分にとっての高校生活最後の「目的」がまだ果たされていないのだ。
しかし・・、舞のこころの中で一つひっかかる事象があった。
そう、体育館に突然現われた少年である。
3年生になるまで体育館で自分が一体何をしているのかは誰にも知られなかった。
それ所か自分の存在でさえこの学校では極秘にされているかのようだった。
しかし、あの少年は何処か他の生徒とは違った感覚を持っていた。
まるで昔からの友達だったかのような感触・・。
「ま〜〜〜い!おはよ〜〜っ!」
昇降口で物思いに老けていた舞を一瞬で気づかせた存在。
舞は階段を駆け下りてくる一人の元気な少女に目をやった。
「おはよ!な〜に、いつものことながらそんな暗い目して〜え。はは〜ん、またあの日の下級生の男の子のことかな〜〜あ?」
「佐祐理・・。行くわよ。」
舞は目を吊り上げ、迎えに来た少女を睨んだ。
「う・・こわ。ま・・後でいいや!んじゃ教室いこ!」
倉田佐祐理。舞の入学からずっと友人だったのだが、性格も物の考え方も全く違うこの二人だが、佐祐理は誰からも愛される、笑顔が非常に似合う女の子なのに対して、
舞はとっつきにくく、人を近づけさせない「反発力」のようなものを持ち合わせている。しかし、何故か非常に気が合う仲といつの間にかなっていた。
「ねえ、舞!そういえばここ数日、例の彼見かけないんじゃない?」
「…そうね。」
「どうしたんだろうね。バスケットのマネージャー補佐ってことは聞いていたけど、転校してきたばっかで疲れちゃったのかなあ・・。」
「……。」
それっきり二人の会話は教室の前に来るまで途切れる。
いつもは短いけれどもなにかしらの反応を示す舞が今日は全く反応がない。魂が抜け落ちてしまったかのような感覚である。
「ちょっと舞、大丈夫?いつもそんな感じだけど今日は一層殺気を感じるわよ・・?」
すると舞は大きくため息をつくと、
「ごめん、佐祐理。ちょっと寄り道していく。精神が集中しきれていないわ。」
「えっ!?寄り道って・・、あ、ちょっと待ってよ舞!あとすこししか時間ないよ〜〜っ!」
舞はその場から全速力で駆け出した。まるで何かを振りきるように・・。
「んもう・、舞ったらあ・・。」
ここ数日、僕は学校を休んでしまった。真琴・・いや留美菜に蹴られた部分は黒ずみ、しばらく腹痛でうなされていた。真琴ちゃんは名雪ちゃんのお母さんである秋子さんによって手厚く保護された。そしてしばらくの間この家に居座ることになった。半ば強引かもしれないけど・・。
信じられないことだが名雪ちゃんが連れてきた猫に僕は助けられたのだ。そして不思議なことだが、その猫が真琴ちゃんの傍にいる限り、彼女が留美菜のように発狂することはなかった。
横手城の丘の一本の大木。ここからは街が一望できる。舞は大木の前に立ちスッと一本の剣を取り出す。
「私は川澄 舞。討魔の為に全てを捧げた人間。全ての邪念を切り払って無心にならなければいつ奴らが襲ってくるかわからない。」
舞は両手で柄を強く握り締め、大きな掛声とともに思いきり飛びあがると木に付着している雪を剣で振り払った。ふわっ、と中に舞いあがり日差しに反射しきらきら光る雪・・。
舞は剣を雪に突き刺し、しばらく下を向いたまま微動たりにせず何か思考しているように見えた。
そして再び顔を上げたその表情は剣を持っている殺気がみなぎるものではなく、僕が体育館であったあの舞そのものだった。
「あの子・・やっぱり気になってしまう・・。今まで私が出会ってきた男とは何かが違う。これまで会ってきた男は私に剣を伝授してくれた父親・・そして私達を罠にはめようとしたあの男。「隔離」されて育てられてきた私をあの子は何故あんなに自然に接してくれたのだろう。」
今まで自分に仲良くしてくたのは高校に入って話掛けてきてくれた佐祐理だけである。
しかし佐祐理は同性であるからそれほど抵抗感は感じたことがない。しいて言えば小学生の時佐祐理が見た魔法少女物テレビアニメの影響を未だに持っている、ということを除けば。
 しかし、異姓となると話は別である。討魔という宿命を背負わされて育ってきた舞の環境は属に言う英才教育である。俗界から隔離されて育った舞は誰にも負けない剣術と舞踊を手に入れた。
しかし過酷な運命はさらに続く。父親の失敗により、従兄弟の兄に生活扶助を受けるものの、しつように追い回される。そして18年という歳月は舞をその美しさの裏に氷のように冷酷な性格と風貌を与えてしまった。このような女に誰が近づくであろうか。
しかし、全てを剣に捧げたはずの自分のこころの何処か片隅にあの少年の笑顔が焼きついていて離れない。
「どうしたんだろう。自分らしくない。・・これが俗界で言う「想い」というものなのか?舞は、舞は一体………!」
舞は頭を抱え込んだまま現実を受けつけたくないのか剣をその場に残したまま走り去ってしまう。
冬の丘にさらに冷たい便りを送りつけるかのように吹き荒れる風。
雲の隙間から差す光が舞の剣をさみしく照らしていた・・。



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