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Kanon Another Story



kanon第2楽章


〜5〜 栞のこころ (1)

by 淺川 秋



「あっ・・雪降ってきたみたいだなやぁ・・。」
栞はふと足を止め、空を見上げた。灰色の空から舞い降りる白い雫。栞は垂れ下がっていたストールを両肩に掛けなおすと少年と出会った横断歩道の場所に来た。
「あれがらまだうん日も経ってないけんど・・なんだがうんと昔のことのように感じる
 なぁ・・。」
栞は病院での出来事を半運命的なものとして受けとめている。長い入院生活が終焉を
迎え、ようやく普通の人と同じ生活が出来ると思う所だったが、次々と脳裏を霞める
不安や廻りとのギャップ。新しい学校生活を迎えるに当たって最初に優しい少年に
出会えたことが何よりの心の支えとなったのだ。
「わあ・・そいえば今日は大館のかまくらまつりだったんべなあ!」
夕暮れを迎え並木道の向こうにある学校のグラウンドには地元の小学生らが作った
小さなかまくら達に火が燈されていく・・。
「私もいくどとなぐこれ見たきたけんど・・いづ見ても綺麗なもんだなあ・・。・・
 いつかは私もあのお兄さんと……。…やだっ!私ったら何考えてんだが!あ…あの人
 とはあれっきりで、もう覚えているかもわがらないし・・。」
夕暮れのお祭り気分の中で顔を赤らめながらうじうじしている栞。廻りから冷たい視線が飛びかかったのは言うまでもないが・・。
「・・ともがぐ、病院出展のかまくらさ行ってみよ。」
夕暮れ時・・、いつもならば子供達はいゆわるお家に帰る時間である。しかしこの日だけ
は違う。秋田の子供達にとっては夜のお祭りであるかまくらは唯一夜更かしが出来る
のである。
自分達の作ったかまくらの廻りを普段の学校生活とは全然違う笑顔ではしゃぎまわる子供達・・。栞はそれをいと惜しそうに見ていた。
「あっ・・隆児・・。」
小児病東の医師達が作り上げた大きなかまくら。その大きさは小学校低学年くらいの子供
なら二桁は入れそうなくらいである。その大きなかまくらの横に点滴を下げている車椅子
の少年・・、隆児がいた。栞は隆児の所へ駆け寄った。
「隆児〜!お姉ちゃんだど〜!」
やや青白い顔をしていながらも満面の笑みを佇みながらは車椅子を引き栞の所へゆっくりと進む隆児。あの出来事以来二人は初めて顔を合わせたのだ。
「……………」
隆司は栞が話し掛けても返事をしなかった。ただ栞の裾にしがみついてにこにこしている
だけだ。
「隆司?どうした?お姉ちゃんに何かしゃべってけろ?」
「栞ちゃん、隆司君は今気管に穴を空けていて言葉が話せないの・・。」
栞は後ろを振り向くとそこには三つ編みの私服姿の女性が立っていた。一瞬栞はたじたじ
したが、見覚えがある顔・・。
「あっ、富士枝さん!うわあ・・おひさしゅうです!」
栞が富士枝と呼ぶその女性は栞が入院していた頃お世話になっていた看護婦さんのことで
ある。いつもは見慣れた白衣姿なのだが今日に限ってはお祭りということで私服姿だ。
「あれからちょっと隆児君発作が激しくなってしまってね・・。喉に溜まったタンを
 取り除くため穴を空けているの。ちょっとかわいそうかもしれないけど、仕方がないわ。」
「そうだべかあ・・。でも、隆児はちゃんとよくなるんだべ?」
「今は容態が安泰して、外の空気を吸わせる為にここに連れてきたの。そしたら偶然栞
 ちゃんがここに来たものですからもう御覧の通りよ。」
車椅子から身を乗り出して栞に抱きついたまま離れない隆児。今は言葉が話せない
けれども栞は彼の病気に対して必死な姿を見て自分と照らし合わせる…。
「ふじえさん、ゆき、降ってるべ!」
「あら、もしかしたら初雪かしら・・?よかったわね。栞ちゃんはお利口さんだからお天         
 道様が栞ちゃんの好きな雪を降らせてくれたのかもよ?」
「しおりい、お利口さんだよっ!ちゃんとおいしゃさんの言うこときくし、顔だって
 ひとりで洗うし、歯だってひとりでみがくし・・、手だっ・・」
「はいはい。あとはもうちょっと大人しくしていてくれればいいんだけどね?・・ほら、
 車椅子に乗って・・。」
「えっ?どこにいくんべか?おそどかあ?」
「栞ちゃん。お誕生日おめでとう。これ身につけてあげるね・・。」
「ん・・、これなんだべか・・?あったかい・・。」
「これはね、スト−ルっていうの。ちょっと今の栞ちゃんには大きいみたいだけど、
 もうすこしすればよく似合うようになるわ・・。」
「うわあ・・、真っ白だあ・・、誕生日に雪がふるなんてこれは「きせき」っていう
 やつべかあ?」
「きせきっていうよりは・・偶然って言った方がいいかもしれないわね・・。しおり
 ちゃんの病気もよくなってきたから・・、これは神様のプレゼントかもよ?」
「かみさまのプレゼント・・。」
                            <続く>



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