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Original Novel
keita Presents



ゆめ






ハァハァ…ハァハァ…息が荒い…
前を走る彼女の息遣い。
後ろを追う僕にはそれが手に取るように解る。
ときどき後ろを振り向いては,また駆け出す彼女…
そう,僕から逃げ出すために…
逃げる彼女…
追いかける僕…
いつまで逃げられるかな…?
そう思った瞬間,彼女が転んだ。
彼女は立ち上がろうとするが,足がもう言うことを聞かないようだ…
僕は,それを見てゆっくりと近づく。
彼女は必死で逃げようとしてるようだけど,ダメだった。
やがて,僕は彼女に側へ来る。
そう,もう手を伸ばせば届く距離にまで…
彼女は恐怖と哀願と…さまざまな感情が入り交じった瞳で僕を見る。
僕は,それを意にも介さず彼女の首へ手を伸ばす…
彼女がやがて動かなくなる,その時まで力を加える…
親指から人差し指へとゆっくりゆっくり力を加える…
彼女の動きが止まった…
 
………・・・
 
「ウアァァッッッッ!!」
 
自分の叫び声で目が覚めた。
跳ね飛ばした布団が床に落ちてる。
うぁ,すごい汗…まだ目覚めきってない頭を無理矢理にたたき起こす。
 
「はぁ〜 なんて夢見てんだ…」
 
僕は一人つぶやく。
 
「夢の中にまで彼女が出てくる…? どうせだったら楽しくデートしてる夢とかならいいのに…
彼女を殺す夢…?」
 
ベッドから降りる僕。
今日も一日が始まる…
 
いつもの学校にいる夢に出て来た彼女。
彼女は容姿端麗,成績優秀,まさに非のうちどころの無い完全無欠のお嬢さま,だ。
そういうタイプによくありがちな高飛車,意地悪というのは彼女には当てはまらない。
だれとでも普通にしゃべるし,それは男女の別はない。
ここまでそろえば,男子がほっておくはずも無く…
実際何人かの勇気がある奴はそれぞれの想いを彼女に伝えたらしい。
けれど,彼女がOKしたなんてうわさは微塵も無い。
あたりまえだ,彼女につりあうような奴なんて,そうそういるはずが無い。
彼女自身はつりあうとかつりあわないとか思ってるわけじゃなくて,ただ単に好きな人がいないだけだろう。
好きな人…いるのかな…?
そんな浮いたうわさが流れたことも無い。
だから,今でも彼女のことを想ってる奴は多いはずだ。
特定の人がいない…ということになるといつかは自分が…って都合のいい気持ちになるもんらしい。
…かくいう僕もその中の一人だけど…
それにしても,今年は幸運続きだ。
彼女と同じクラスになれただけでもかなり運がいい。
それだけじゃなく席まで隣りだなんて…
普段,初詣ぐらいしか行かないくせに『神様ありがとう』って,僕は本気で思った。
やっぱり,何かと隣りの席ってのは都合がいい。
話し掛けやすいし,教科書忘れたときに,いっしょに見せてもらえる。
そんなとき,いっきに親密間が増したような気分になる。
まあ,気分だけって説もあるけど気にしない。要は,気の持ちようだ。
そして,今日も一日が終わる。彼女といっしょの時間が…
学校のクラスメートってだけの時間が…
 
…………
 
暗闇の中に彼女がいる。
彼女は誰かを待っている。
だれだろう…なぜか僕じゃないことだけはわかった。
僕は,どうしようもない気持ちに囚われる…
ドス黒い想い,彼女が待つその誰か,に対しての憎しみ…
その誰か,を待ってる彼女に対する憎しみ…
僕は,ゆっくり彼女に近づく。
彼女はぜんぜん気付いていない。
ふと,彼女が後ろを振り向くと,目の前に僕がいた…
彼女は驚愕の表情を浮かべる,けれどそれも一瞬のことで…
次の瞬間には僕の手の中のナイフが彼女に突き刺さっていた…
彼女は苦悶の表情を浮かべ倒れる…
僕は,その彼女に刺さったナイフを抜く…
そして,また刺す…抜いて,刺す,抜いて,刺す,抜いて,刺す,抜いて,刺す……
何度繰り返しただろうか,視界が赤一色に染まっていく…
やがて彼女は自らの血の海にまみれ,姿が見えなくなった…
 
…………
 
「…………っっっっ!?」
 
また…自分の声で目が覚めた。
…目覚めは最悪だった。
いったい僕はどうしたんだろう。
このごろ毎日彼女の夢だ…
しかも,楽しい夢は一度も無い。
毎回僕が彼女を殺す夢…
夢だから,彼女は何度でも生き返って…
僕は,何度でも殺さなくちゃ為らない…
今日なんて最悪だ。彼女の待ってる誰か,に嫉妬して彼女を殺す…?
 
「男の嫉妬なんて,最高にカッコ悪いだろうなぁ…それにしても,こう毎回夢に出てくるとなると
さすがに問題だよなぁ、欲求不満か…?
夢はその人の本心っていうことだし玉砕覚悟で告白でもしてみるかな…?」
 
…僕はその日の放課後彼女を呼び出した。
もちろん告白するつもりで。
当然,OKの返事なんて期待してなかった。
いや,期待してなかったんじゃなくてそんなことある筈が無いって思ってた。
けれど、これこそ夢じゃないのか…?
彼女の返事は…
 
「…うん、いいよ…」
「え…?」
 
予想外の展開にポカンとしている僕に向けて彼女は続ける…
 
「早速相談があるんだけど…今日の夜ちょっと会えるかな…?」
「え,うんうん! 」
「…そう、じゃあね…あの公園に来てね。…また、後でね」
 
 
……そう言い残して彼女は帰っていった。
僕は,自分のほっぺたをつねって見た。
痛い…夢じゃないんだ…
ほんとに…?
僕はうれしくて夢のことなんか忘れてしまった。
 
……
 
「考えてみれば…こんな夜公園に来て何すんだろ…?」
 
一人公園への道を歩きながら僕はつぶやく…
 
「でも,明日から学校でも公然と恋人同士ってやつなんだなぁ…」
 
あらためて,嬉しさがこみ上げる。
やがて,彼女の姿を見つけた。
僕は,手を振って彼女に駆け寄る。
彼女が振り向いたとき,僕はもう目の前まで来ていた。
 
……
 
…トスッ…
 
……
 
何かの音がした。
何の音だ…?
空気の詰まった袋がパンクするような…
いったいどこから…?
僕のお腹から…何かが生えている。
白く光るもの…
キラキラ光るもの…
一本のナイフ…
細身のナイフ…
倒れる僕に彼女はゆっくりと近づく。
そのナイフを手に取った彼女は…
僕からナイフを抜いて、また刺した…
抜いて、刺す、抜いて、刺す、抜いて、刺す、抜いて、刺す……
僕は,自分の血の海におぼれていく…
視界が真っ赤に染まってゆく…
薄れ行く意識の中、彼女が一人つぶやく…
 
……
 
「夢と…おんなじ…」
 
……
 
最後に僕が見たものは…
朱に染まった彼女の姿と…
月明かりを反射して、キラキラ光るナイフだけ…
 
……
 
「君が悪いんだよ…」
 
……
 
もう何も聞こえない



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