最後の日…ね。
ま、僕だけだけど。
楽しかったな、ほんと。
でも…今日は勝つためにっ!
「あ、来た来た。おはよ〜」
「おはよう…」
「あれ? どうしたの? くらいよ?」
「ん? そんなこと無いさ。 さて今日も勝負だ!」
「うん、うん、やる気だね〜そうでなくっちゃ! さてさて、今日の勝負は…」
「ちょっとまった! 今日の勝負は最初の水泳対決だ!」
「ん、ほほう、そんなに私の水着姿が見たい…と」
「だーーちがーーう!! 今回は勝つために! だ」
「否定しきったわね…まぁ、そこまで言うなら自信あるんでしょ、受けてたとうじゃない」
…かくして、『〜最終戦・目指せ!泳げ!あの小島まで!100メートル水泳対決〜』の始まりである…
「さて、ルールは前回とおんなじね。距離約100メートルのあの小島まで先についた方の勝ちっと」
「うん、それでいい」
「さてさて、それでは…よーい…」
「ちょっと待った! 僕がスタートを言う」
「…はいはい、わかりました、ご自由に」
…もう、なりふりかまっていられない、今回は勝たなくちゃならない…
「それでは、よーい…あっ!千円落ちてる!」
「えっ!? どこどこ〜?」
「スタート!!」
…ジャボーーン…
…ふ・ふ・ふ〜やってしまった、ついに卑怯な手を〜千円は惜しいがこれで勝てれば悔いは無いっ!!
前回、スタートの差で負けたんだから、こっちが先に行けば絶対負けないもんね〜…
「…ふ〜ん、なるほど、なるほど。さっきの自信はこれだったのね〜、ま、ちゃっちい手だけど
千円儲かったからよしとしましょう。 …で、あらら、全力で泳いでるね〜
こっから追い抜いたりしたら…どうするのかな?」
…ジャボーーン…
…ふ、今ごろ飛び込んでも、時、既に遅しっ! もう三分の一も差がついてるんだ、追いつけるはずが無い!!
…ジャバジャバジャバジャバジャバジャバジャバジャバ…
…え?なんか…やけにすぐ後ろで音がする…?
…ジャバジャバジャバジャバジャバジャバジャバジャバ…
…うそ…抜かれちゃったよ…
「プハッーーーーっと、やった〜☆ 勝ち〜ぃ♪ ん、まだ着かないの…?」
「プァーーーー、疲れた…」
「お、やっとついたね、で今回も私の勝ちっということで〜」
「ちょっとまてーーい! 君、前回こんなに早くなかったじゃないかっ! 手加減してたんだろー!」
「うん、そうだよ」
「うん、そうだよって…インチキ…」
「だーって全力出さなくても前回は勝てたも〜ん。
そ・れ・に、インチキした上に負けちゃった人に言われたくないな〜」
「…………」
「うっひゃーかっこわる〜い、あれだけ自信たっぷりに『勝つために!』とか言っときながら、
やった手段が『あ! 千円落ちてる!』でしかも、負けちゃってるんだも〜ん」
「もう…なんでもいいです…」
「そこまでして私のこと知りたかったの〜?」
「いや、っていうか勝ちたかっただけ…」
「まあまあ、照れずに照れずに。 そっか〜そんなに知りたいのか。ふ〜ん、へ〜」
「一人で納得してるし…」
「ん? なにか言った?」
「いや、べつに」
今回は、前回のような無理難題を出されることもなく。
やがて、日が沈みはじめてきた。
僕たちはどちらともなく…この前来た高台の方へ向かっていた…
「ん〜、やっぱりここはいつ来てもきれいね〜」
「うん、そうだね…でも、これで当分見納めだなぁ…」
「ん? なんで?」
「僕、明日帰るんだ。夏休みはもう終わりなんだよ…」
「あ、そうなの…そっか…もう夏休み終わりなんだねぇ」
「うん、楽しかったよ。君といて退屈しないですんだ」
「…そう、よかった」
「…結局最後まで、君のこと何も聞くことできなかったけど…さ」
「うん、そうだね…」
「そろそろ、戻ろうか…」
「そうだね…かえろっか」
やっぱり…何かが終わるときってのはさびしいもんだなぁ…
彼女はどう考えてるのかわからないけど、いつもより口数は少なめだった。
そして、いつもの分かれ道…
「…ねぇ…」
「ん? なに?」
「…ここでばいばいだよね」
「…僕の家あっちだからね…」
「だから…あのね、あのね…王様からの最後の命令っ! 次に会うまで私のこと忘れないことっ!」
「…………」
「忘れないこと…ね?」
忘れないこと…ね。
楽しかった、夏の日の。
あの日の思い出…
あの日の思い出…?
忘れちゃわなければ思い出にならないのかな…?
忘れちゃわなければずっとこのままで…いられるわけじゃないけれど。
だけど…だから、忘れない。
「…わかりました…王様…」
僕らは、最後に握手だけして別れた…それぞれの家へ…それぞれのいた場所へ…