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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家の間取り


その2

by 五穀豊穣



 ━━━パタン。
 後ろ手にドアを閉めると、かすかな音が廊下を伝っていった。ようやく、溜息をひとつ俺は吐いた。
 
 ここは、楓ちゃんの部屋の前だ。
 先ほど俺は何者かに殴られ、しばらく気を失っていた。
 ・・・その後の事は、思い出したくない。
 あの後・・・。
 「・・・・・・じゃあ俺、部屋で休んでいるから」
 それだけを言って、そそくさと楓ちゃんの部屋を出た。はっきり言って、"逃げたんだな"俺は。
 とは言っても、首の付け根が痛むのも確かだ。
「こりゃホントに休んだ方がいいかもな・・・」
 そうひとりごちて、俺は廊下をあてがわれた部屋へと歩き出した。

 廊下をひとり歩く。
 縁側から望める内庭には、緑があふれかえっていた。
 蝉が庭木にとまり、けたたましく鳴き始める。
 ・・・視覚も聴覚も異状を訴えているのに、俺はまるで気付かないでいた。
 そのままぼ〜っと歩いていると声をかけられた。
 
 「耕一お兄ちゃ〜〜〜ん」
 それは初音ちゃんだった。相変わらずの可愛い声で俺を呼びながら、庭から手を振っている。
 頭には麦わら帽子をかぶり、あまり日焼けしない肌に薄いピンクのサマードレスがよく似合っている・・・。
 「・・・・・・・・・」
 ようやく異状に気が付いた。今俺を囲む全てのものが、「夏」を示している。
 ・・・どう考えても変だ。俺は冬休みを利用してここに還ってきたというのに。
 現に楓ちゃんの部屋に行くとき、庭は雪化粧を施されていた。
 ・・・夢を見てるのか?
 「・・・・・・・・・」
 そうか!夢だったんだ。
 今いる俺が本物で、さっきの事は「悪夢」だったんだ。そうだ、そうに違いない。
 このとおり、暑さで汗までかいてるじゃないか。いくら夢でも汗まではかかないからな。
 ご都合主義的な理屈で自分を納得させ、俺は今の状況を受け入れた。

 そうそう、初音ちゃんが呼んでたんだっけ。
 縁側と内庭を結ぶ敷石に置かれたサンダルをひっかけて、初音ちゃんの側まで行くことにした。

 内庭の一画に観葉植物のためのスペースがあり、
 そこには祖父さんの遺した盆栽や何処から貰ってきたのか分からないサボテンだのが置いてある。
 そう言えば、ここの世話は初音ちゃんが任されてたっけ。
 「おっ、初音ちゃん。サボテンに水をやってるのかい、暑いなか偉いなぁ」
 そう言って俺は初音ちゃんの"特徴のある"頭を撫でる。
 「うん。この暑さだから毎日お水をあげないと死んじゃうもんね」
 ちょっとくすぐったいような顔をして、初音ちゃんは答えた。
 「それとね、耕一お兄ちゃんがいない間にずいぶん増えたんだよ」
 「へぇ、どれだい?」
 「えっとねぇ・・・あっ、これこれ」と、初音ちゃんは鉢植えに収まっているサボテンを指さした。
 「3ヶ月ほど前に楓お姉ちゃんが貰ってきたの。"綾波"って言うんだって」
 ・・・綾波!?
 どっかで聞いたことあるぞ、その名前。俺は思いだそうと記憶を巻き戻した。
 ・・・!そうだ、確か大学でだったと思う。
 知り合いの一人が、"プラグスーツ"がどうのこうのと、やけに興奮していたような気がする。
 が、それ以上は思い出せそうになかった。第一、どうでもいい事だ。

 改めてサボテンを観察しようと顔を近づけたとき、
 「あっ、お兄ちゃん、トゲに気をつけてね」と、初音ちゃんが注意を促した。
 が、タイミングが悪く却って気配りがあだとなり、振り向いた俺の頬にプッスリと棘が刺さった。
 
 "綾波"は、20cmほどの大きさで、青い色をしている。
 少し歪んだボール型で、表面には先ほど俺を刺した太くて赤い棘がびっしりと生えている。
 花はまだ咲いてなかったが、聞いた話によるとてっぺんに赤いイソギンチャクの様なものが咲くらしい。
 「・・・だいじょうぶ?耕一お兄ちゃん」と、心配げに初音ちゃんが俺の顔を覗き込む。
 まだ、さっきの事を気にしているのだ。
 ホントにいい子だよ、初音ちゃんは。梓のヤツに爪の垢を飲ませてやりたいくらいだ。
 「大丈夫だって。そんなに気にしなくていいよ」
 元気づける為に、俺はポンポンと初音ちゃんの頭に手を置いた。そこで、一計を案じることにした。
 「そうだな〜、そこまで言うんだったら・・・」そう言って俺はニヤリと笑い、初音ちゃんのお尻をひと撫でした。
 「・・・・・・きゃっ!!」途端に可愛く悲鳴があがる。
 「・・・!!も、もう!お兄ちゃんのエッチ!」
 案の定、初音ちゃんは顔を真っ赤にしてこっちを軽くにらんでいる。
 この分だと、さっきの事はもう気にしないだろう。・・・プラス、俺の役得ってとこかな。


 その後、二人で水を撒いて回った。
 ひととおり終わりかけた頃、「あ、忘れてた!」と、初音ちゃんは家の中に入っていった。
 

 2分ほどして、蜂蜜を入れるようなガラス瓶を片手に庭へと戻ってきた。
 「耕一お兄ちゃん。こっち、こっち」と、さっきとはまた違った所へ歩いていく。
 初音ちゃんに導かれるようにしてやってきた場所で、俺の見たモノは・・・。

 「うっ・・・!」思わず、呻いてしまった。
 「・・・な、何これ?初音ちゃん」
 実のところ、聞かずとも見れば分かるのだが、確かめずにはいられなかった。
 だが、そんな俺の質問を聞いていないのか、「見ててね、お兄ちゃん」とガラス瓶の蓋を回して、中のモノをピンセットで摘んだ。
 それは、虫だった。ハエよりは小さな羽虫で、死んで乾燥した物が瓶に詰まっていた。
 そして摘んだ一匹を、"ハエジゴク"の怪物の口を連想させる開いた葉へと放りこむ。
 虫が落ちた途端、葉は勢いよく閉じた。「ガチッ!」と擬音が聞こえそうなほどだ。
 その瞬間、初音ちゃんはキュッと目を閉じ、顔をしかめた。
 「は〜っ、怖かったね〜」と、初音ちゃん。
 「ホンマかいっ!」と、心の中でマジツッコミを入れる俺。
 
 いや!そんな事はどうでもいいんだ。それよりも何で"食虫植物"なんか置いてるんだ!?
 おまけに、初音ちゃんはあのエサをどっから持ってきたんだ?まさか・・・。
 初音ちゃんの部屋にあの瓶がズラリと並んでいるのを想像して、俺は気分が悪くなった。
 そんな事を考えていると、「うーーん、今日はまだ入ってないね」と初音ちゃんが残念そうに言った。
 見れば、"ウツボカズラ"を物欲しそうに覗き込んでいる。
 「・・・何だ、ウツボカズラか・・・・・・」って、まだあったんかい、おい!

 「・・・・・・・・・」
 おかしい、マジでおかしいぞ。楓ちゃんといい、初音ちゃんといい、一体どうしてしまったんだ!?
 事の真偽を確かめるべく、俺は勇気を総動員して初音ちゃんに問いかけた。
 「あ、あのさ。・・・一体どこで手に入れたんだい、それ?」と、"ウツボカズラ"を指す俺。
 「え?それって、"リリーたち"の事?」と、キョトンとした顔の初音ちゃん。
 「・・・・・・・・・」
 "ウツボカズラ"に"リリー"・・・。俺は名前を付けたやつのセンスが信じられなかった。
 じゃあ、"ハエジゴク"は差詰め"チャッピー"だろうか? 思ったものの、訊く気には到底なれない。
 「リリーたちはね、旅行に行ってる間、友達から預かったんだ」と、
 初音ちゃんが"リリー"にエサをやりながら言ったのでホッとした。


 しかしながら、状況は一向に好転していない。
 楓ちゃんと初音ちゃん。明らかにこの二人はどこかおかしい。
 ・・・まてよ。確か、前にもこんな状況があったはずだ。あれは確か・・・。
 「初音ちゃん!ここ最近、変なモノ食べなかった?」
 「変なモノ?・・・ううん、そんな事ないよ。だって、千鶴お姉ちゃん、しばらく何にもしてないから」
 「ハ、ハハ・・・」思わず、苦笑してしまう。
 だが、やっぱり変だ。初音ちゃんは"ズバリと"物事を言ったりしないからな。
 「いや、そうじゃなくて、・・・例えば"キノコ"とかさ・・・」
 「ううん、食べてないよ。あれ以来、キノコにはうるさくなったからね、梓お姉ちゃん」
 う〜〜〜〜〜ん、違うか・・・。
 だが、胞子と言うこともあり得る。いちど隆山全体で"水質検査"した方がいいぞ。
 天○水は何かと危険だからな。つい最近も"桃の天○水"にカビが混じってたらしいからな・・・。


 いちど、その事も含めて千鶴さんと話をした方が良さそうだな。
 変わってしまった初音ちゃんから離れる口実を考えつつ、俺は決心した。


                        つづく



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