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Leaf Visual Novel Series Vol.2 "Kizuato"



柏木家の団欒


〜きのこ編〜

by 五穀豊穣



 

 見上げた空には鰯雲。

 薄い色合いの空の蒼さと相まって、吹く風までが爽やかだった。

 大地に陰を投げかける山は紅葉に彩られて。

 まさに秋の真っ盛りである。

 大学祭の開催される時期を利用して、俺はここ隆山に還ってきた。

 

 

「ただいまーーー」

 玄関に俺の声が軽く響いた。

 だけど、誰も迎えにきてくれる様子はない。

 あれ、誰もいないのか? そんなはずないよな、と思いながら俺は家の中へと入っていった。

 

 居間を覗くと、千鶴さんを除く3人はそこにいた。

 ただどういう訳か、3人ともそれぞれに難しい顔をして卓袱台(ちゃぶだい)を囲んでいる。

 そしてその上には小包がひとつ乗っかっていた。

「あ、耕一お兄ちゃん、お帰りなさい」

 いち早く俺に気づいてくれた初音ちゃんが言った。

 だが気のせいか、声に元気がない。

「お帰り、耕一。・・・あんたも大変なときに帰ってきたね」

 梓が言うと、こくりと楓ちゃんが肯いた。

 ・・・何なんだ、一体?

 帰ってきて早々に、爽やかな気分は消し飛んでしまった。

 

 

「まあとにかく、それを見てよ」と、忌々しげに梓が俺を促した。

 どうやら卓袱台にある小包が、梓たちの憂鬱の原因らしかった。

「へえ、どれどれ」と、俺は覗き込んだ。

 

 伝票は次のように記されていた。

 

 お届け先━━━柏木 千鶴様

 荷送人━━━株式会社 ポピー

 品名━━━『きのこセット』

 

 ・・・何なんだこれは!?

 いかにも、『怪しんで下さい』って言ってるようなもんじゃないか!

 何なんだよ、『きのこセット』って?

 普通、『きのこ詰め合わせ』とかそう書かないか?

 おまけに、『株式会社 ポピー』って・・・はっきり言ってすっげえ怪しいぞ。

 大体きのこが送られてくるのは、たいがい「農協」か「デパート」からだろう。

 が、そんな事は所詮二の次にすぎない。

 『千鶴さんときのこ』、という組み合わせで何も起きないわけがない。

 ジャイアンとスネ夫がいたら、必ずのび太を苛めるというぐらいそれはお約束なのだ。

 

 止めさせなければならない、なんとしても!

 3人の方に振り向くと、みんな一斉に肯いた。

 この状況を顕わすのに『一蓮托生』ほど相応しい言葉はないに違いない。

 そして俺たちは、千鶴さんの帰りをひたすら待った。

 

 

 カラカラカラッ

 玄関の開く音がして、千鶴さんが帰ってきた。

「ただいま〜〜・・・って、あら、耕一さん。お着きになったんですね」

 にこやかな笑顔に、ふと気が弛みそうになる。

「耕一!」

「わ、分かってるって」

 梓の叱責に我にかえり、打ち合わせ通りに俺は千鶴さんに話を切り出すことにした。

「千鶴さん・・・これの事なんだけど」

 そう言ってしまってあった小包を取り出す。

 その途端、「あっ!」と千鶴さんが小さく叫んだ。

「こ、耕一さん。返して下さい」

「だめだよ、耕一。・・・納得のいく説明をしてもらうからね、千鶴姉!」

 何故か顔を真っ赤にしてうろたえる千鶴さんに、梓がぴしゃりと言い放った。

 それを皮切りに、

「姉さん。どうしていつも一人で先走るの?」

「千鶴お姉ちゃん・・・私たち、家族だよね?」

 楓ちゃんと初音ちゃんが思い思いの事を口にした。

「あ、あなた達、一体何を言ってるの?」

 そう言った後、千鶴さんはハッと何かに気づいたような表情(かお)をした。

「ち、違うのよ。これはきのこじゃないのよ。だから返して」

 俺は少し驚いた。

 千鶴さん、自分の料理がどう思われてるか、少しは自覚していたんだ。

 けど、『きのこ』じゃない? ・・・どういう事なんだ?

「じゃあ、一体何なのさ!?」

「そ、それは・・・」

「やましいところがないんだったら、中を見せてくれてもいいじゃないか」

 すでに主導権は梓に移っていた。

 言いたいことは全て梓が言ってくれるので、俺たちははらはらしながら推移を見守った。

「何にもないって言ってるでしょ! あなた達は人を疑い過ぎなのよ」

 ・・・マジで言ってるんだろうか? と、俺が思っていると。

「あんたマジで言ってんのかい? 今まであんたを信じてなにがあったのさ、え、言ってごらん?」

 いちいちもっともな事だったので、顔を真っ赤にするものの、千鶴さんは何も言えないでいた。

「千鶴姉さん、逆ギレしないといいけど・・・」

 と、ぽつりと楓ちゃんが言ったときだった。

 

「いいから、返しなさい!!」

 千鶴さんが、『鬼パワー』を全開にして小包を引き寄せたのは。

 バリッ!

 案の定、小包がティッシュペーパーのように裂けた。

 そして、『中身』が宙を舞い、

 コツン、コツン、コツンと卓袱台の上に転がった。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「???」

 沈黙が場を支配した。ちなみに最後の「???」は初音ちゃんだ。

 

 確かに『それ』はきのこではなかった。たとえ形が妙に似ていたとしても。

 エロゲーにおける出現率はやたらと高いが、一般家庭ではレアアイテムであるはずの『それ』は蛍光灯の光に、合成樹脂の素体を鈍く光らせた。

 俺は思わず千鶴さんを凝視してしまった。

「だ、だから違うって言ったじゃないですか!」

 真っ赤な顔をした千鶴さんが叫んだ。

 きのこの形をした『それ』は、コード付きのリモコンが付いていた。

「ち・・・千鶴姉、あんた・・・」

 と、梓も劣らず真っ赤な顔をしていた。

 ただ事態を飲み込めてない初音ちゃんだけがキョトンとしていた。

 それでも、『それ』のグロテスクな形を不審に思ったのか訊いてきた。

「ねえ耕一お兄ちゃん。これは何なの?」

 返答に窮してしまった。 一体どう答えればいいのだろう?

 俺は梓に助けを求めて視線を向けたが、ぶんぶんと首を振るばかりだった。

 そのとき。

「・・・きのこ」と、またしても楓ちゃんがぽつりと言った。

「そ、そうだよ。きのこなんだよ。お、『大人のきのこ』なんだよ」

 動揺しまくる梓がとんでもないことを言った。

 

 意味もなく腕をばたばたさせ、おたつく梓。

 顔を真っ赤にし、「だ、だからさ、だからさ」としどろもどろに繰り返している。

 そんな梓と、卓上の『それ』を交互に見やっては、やはり困惑している初音ちゃん。

 こんなんだったら、まだきのこの方がましだったかもな。

 そう思い、元凶の千鶴さんに何とかしてもらおうと・・・って、あらーーーっ!

 い、いない!? ど、どこに行ったんだ? ・・・ま、まさか千鶴さん、自分の部屋で・・・。

 悲しい男の性か、パニクってる周りをそっちのけで、俺は不埒な想像をふくらました。

 途端に別の場所までふくらんでくる。

 

「いい加減にしなさーーーーーーーい!!!!!」

 ニャーーン・・・

 雷のような千鶴さんの声、その後に猫の声が聞こえた。

 え? 猫?

 見れば千鶴さんが、いつの間にか戻ってきていた。

 さらに、楓ちゃんがタマを抱いて立っていた。

「もう、馬鹿なことをやってないで貸しなさい」

 と、どういう経緯でか、いつの間にか梓が握りしめていた『それ』を千鶴さんは取り上げた。

「楓。タマをしっかり押さえててね」

 そう言って近づいていく。

 ま、まさか、タマに? と、妄想から離れられない俺。

「タマ〜〜〜、いい子ね〜〜〜」

 猫なで声を出して、千鶴さんはタマに『それ』を当てた・・・。

 

 

「タマは最近肩こりがひどかったですから・・・」

 ガクガクッ

 楓ちゃんの台詞に俺はこけた。

 見れば最初は嫌がっていたタマも、今ではおとなしく寝そべっている。

 何だ、あんま器の代わりだったのか・・・。

 確かに、猫にはあのサイズが丁度いいんだろうけど、紛らわしすぎだよ。

 

 

「もう! ・・・、みんなして姉さんを何だと思っているのかしら」

 プイッと、拗ねた顔で千鶴さんが言った。 

 そもそもの原因は、あまりにもタマが千鶴さんを避けるので、何とかご機嫌を取ろうとしての事だった。

「どうしてタマは私を避けてたのかしら?」

 膝の上にタマをのせたまま、真剣な表情で、千鶴さんが言った。

 普段ならここぞとばかりにつっこむ梓も、今はただ疲れた顔をしていた。

「タマはね、先月まで入院してたんだよ・・・」

 悲しそうな顔で初音ちゃんが俺につぶやいた。

 何が原因かは訊かなくても分かる気がした。

「どこかで拾い食いでもしたんですよ、きっと」

 と、千鶴さんが無責任なことを口にしたとき。

 キキーーーッ

 と、外で車の停まる音がして、

「ごめん下さい」

 と、折り目正しい男の声が玄関から聞こえてきた。

「あ、足立さんだわ。梓、お茶の用意をお願いね」

 事前に約束でもしてあったのか、そう言って千鶴さんは玄関へと出向く。

 社長が直々にお出ましか・・・何の用なんだろうな? そう考えたとき、俺はある事に気づいた。

「ち、千鶴さん、あれを持ったままじゃないか!」

 思わず口に出して叫び、玄関に向かおうとしたが遅かったようだ。

 ガラガラガラ、ピシャッ!

 ギュギュギュッ!! ・・・グイーーーーン・・・

 慌ただしく戸が閉まり、急発進する車の音。 

 そして。

「ち、ちがうのよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 玄関に千鶴さんの叫びがむなしく響いた・・・。

 

 

 (追記)

 このあと誤解が解けるまで、千鶴さんのもとには山のように見合い話が舞い込んだそうである。




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